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学生のお腹を満たしてきた老舗町中華のお父さんとお母さんが引退を決めた。〈チャイニーズレストラン一番_小平市たかの台〉

一度食べてすっかり虜になってしまった豚のカラアゲを頬張りながら店内にあふれるそれぞれの日常にふれてあたたかくなった話。

鷹の台駅から西へ伸びるこのあたりの学校の通学路。古くからある店と新しくできる店とシャッターと学生の賑わいが混在するその道の端。水車通りにぶつかる角にコンクリート打ち放しの威風堂々とした町中華がある。

「チャイニーズレストラン一番」。

なんどもなんどもこの店の前を通りながら、ずっと素通りしてました。なんでだろう。

学生向けのデカ盛りの店のイメージを持っていたのかも。この店のことがソウルフードだという友人から、ここの魅力をことある毎に聞かされて、もう充分に食べた気分になっていたか。

今年の2月に初めて訪れました。イベントの打ち上げで。仲間にお誘いを受けて。螺旋階段があるんだモダンなんて思った。

そこでこれがおすすめと勧められて食べた豚のカラアゲにノックアウトされました。わ、これ、おいしいって。

ほかにも焼売に、春巻きをみんなでシェアして頬張る。どれも、これも、おいしくて、なんで今までって後悔しながら煽るビール。

そんなレストランからのお知らせが届いた年末。
昭和42年に開業して57年目にしてお父さんとお母さんが12月29日に引退するという。記されている年齢にご夫婦ともに80歳を超えてると知り、ただびっくりするパワフル。

どうしてもあの豚のカラアゲを食べておきたいと心が疼いて、居ても立っても居られずにたかの台に行こうと家を出る。

開店と同時を狙うも出遅れて11時30分。遠目にぽつぽつと入店していく人々を眺めて少し早める歩み。

こんにちはと扉を開けると、元気の良いお姉さんに迎えられ、2階へと案内される。厨房で奮闘するお父さんにエールを送り、昇る螺旋階段はやっぱりモダン。

はじめてゆっくりとメニューを見る。カタヤキソバが食べたい気持ち。そして、これ。一人では多いかなと思いつつも単品で豚のカラアゲ。ビールをやりながらは決めてきた。

お願いしますーとオーダーをして、メニューを片付けていると、階下から聞こえてくるカタヤキ売り切れ。

え、ダメなの?

階段を上がってきたお姉さんに、すいません、カタヤキソバ売切れでして。ガーン、まだお昼前なのにとしょげる。

じゃあと悩む、悩む、悩む。でも、品数が多すぎて決められない。ぱたぱたとメニューをあっちこっち目を移ろわせる。

ビールだし、つまみになるようなもの、焼きそばか、皿うどんか、でも、そこじゃない気分。んー、シンプルにチャーハンにすることにする。

一息ついたら、メニューのとこに置いてあるノートに気がついた。

思い出、エピソード、メッセージ、皆様の足跡をいただければ光栄です。と自由にお書きくださいのノート。パラパラと捲ると思い出が。なんだかこういうのいいねとじんわりとする。

向こうのテーブルのお姉さんがハイボールを片手にノートにペンを走らせている。結構な時間を使って。こういうところなんだろうな。

あっちでもこっちでもビールなんて声が聞こえてくる昼飲みに寛容な店内。お父さんの味を忘れたくない方々で賑わいを見せている。

ダムウェーターがビーとなり運ばれてくる料理たち。コップにビールを注ぎ一人乾杯してはじめる宴。

レタスと水菜と並ぶそれ。輪切りのレモンを絞りいただきます。サクとした薄い衣をまとう程よい厚みの豚バラ。柔らかな脂身の甘みと肉の旨みがたまらない。しつこくもなく、いくらでも食べられる豚カラ。

ビールで流す脂のしあわせ。うん、これ、これが食べたかったと悦に入る。

ハムとたまごとネギのパラと炒まるをしっとりと包む、ほんのりとした塩けの柔らかなという表現があうチャーハンは充分つまみとしての役割を果たしてくれる。

グビ、サク、グビ、パク。大きな窓から公園予定地と青い空の景色を眺めながらゆるりとビールと楽しむ豚カラとチャーハンの幸せな時間。

それでも店内は喧騒。階下から毎回来るたびにノートに書いてるんだと常連さんの声が聞こえてくる。

隣の爺さんズは3人でラーメン。これがいいんだよなんて言いながら啜ってる。

愛されてたんだねが伝わる日常がありました。

外に出ると行列。
みんな別れを惜しむかのよう。

お店はオーナーが変わり続きます。
お父さん、お母さん、お疲れさまでした。

(は)

【チャイニーズレストラン一番】
  東京都小平市たかの台34−3


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