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小平の端にある小さなとんかつ屋さんの心地良いおもてなし。〈とんかつ桂_小平市上水本町〉

西武多摩湖線沿いの国分寺との市境にある、行列ができるとんかつ屋さんで、お母さんとお父さんの心地良いおもてなしに日常を忘れた話。

西武多摩湖線沿いの国分寺との市境。隣の建物はもう国分寺なところに小さなとんかつ屋さんがあることを知ったのはずいぶん前。

国分寺に自転車で向かう日に通りかかり、その待つ人の多さに気を惹かれ、そぞろな気持ちで調べると「とんかつ桂」。昭和47年から営業しているとある。

そんなずっと憧れてたとんかつ。いつかいつかと伺い続けた機会。やっとタイミングがあう有休を取るまだ暑い9月の平日。

並ぶの覚悟を持って開店の1時間前の10時に店に到着すると、もうすでに5人の強者たち。それでもお店の前に並ぶ最後のマルイスに座れた。電柱の影がありがたく、よたれかかり避ける日差し。

灼熱に少しだるさを覚えた頃、お母さんが、朝早くからすいませんと両手に一杯の荷物を抱えて、朗らかに満面の笑みを浮かべてお店に入ってく。それだけでなんだか心躍る期待。

目の前を走る西武線を暑さでゆがむ視線で見送りながら、ぼんやりと青空を見上げてたら、お父さんが出てきておもむろに暖簾を掛ける。

10時30分にお店を開けてくれました。ありがとうございますと心から。

どうぞと案内されて店内へ。7席ほどのカウンターとその奥に一卓の小上がりの小さなお店。カウンターに一人ずつのお盆とお冷が用意されていて、小料理屋さんに来たような気分になる。

メニューを眺めて、上より普通のロースの方が絶対に旨いなんて昨日の夜から思っていたのに、「上ロース」、「上ロース」、「上ロース」と続くオーダーに、「上ロースかつ定食」と流される性格。

「みそ汁になめこが入りますがお嫌いな方はお伝えください」とお母さんの丁寧な接客が、たぶんここの魅力のひとつだと思う。

「お茶いかがですか」と濃く渋くアチいお茶。じわっと胃に沁みて、さっきまで冷たい水が欲しいなんて思ってたのになんだか落ち着くおもてなし。

寡黙なお父さんと朗らかで快活なお母さん。自然で阿吽なお互いの所作が、そのカウンターの中で積み上げてきた歴史のようなもの。

「おしんこですー」とお母さんが盛るおしんこは、白菜とにんじんと大根ときゅうりがてんこ盛りでもうおつまみ。これでビールを飲みたいなんて、ぱりぽりとお新香を摘まむ。

パチパチパチパチパチパチと心地良くとんかつが揚がる音が静かな空気にやさしく響いて、ただ期待が上がりお腹が鳴る。

揚がる音が変わったのか、お父さんの見極めで、すっとカツを取りあげて、サク、サク、サクと小気味よい音で包丁を入れて届くそれ。食べやすく16分割されたとんかつ。つやつやとしたご飯とみそ汁が追いかけて配膳される。

まず何も付けずにひとつを頬張ってみる。ザクッと厚い衣の食感がしあわせ。そのあとに広がる豚の甘み。塩胡椒で下味が付いた柔らかく身が締まる豚。うん、おいしい。

ソースをかけ回しカラシをつけて王道。コクを増し加速するとんかつ。

熱々のなめこの汁をふうふうして啜る。お椀にたっぷりの刻み葱となめこと大きな絹ごしの豆腐が入るやさしくてやわらかな味噌汁に恋をする。ご飯でなく味噌汁をお代わりしたいなんて思い。

でも、ご飯のほどよい固めな噛み心地とぷっくらと水を吸うもっちりな具合も良い感じ。

ふと、ソースの陰に隠れるお塩を見つけた。あれ、そこに居たのなんて軽く振ると、キュっと甘みや旨みを抱擁し引き締るとんかつ。あ、おいしい。ソースの前に塩で行きたかったって残る名残。

おかわりでごはんを一口だけとお願いすると、しっかり一膳分のお椀。多いよ母さんなんて心でつぶやきながら、とんかつをご飯にのせて衣をなすりソースと塩をまぶして頬張る至福。

穏やかなお父さんとサービス精神旺盛なお母さんの振る舞いがとても気持ちが良い。
やっぱりこうして長く愛される店は人柄なんだろうなって思う。
ごちそうさまでした。

(は)

【とんかつ桂】
  小平市上水本町5-7-20


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