ポップンマッシュルームチキン野郎は光

この人のことについて、いつか書こうと思っていて、でも書けていなかったのは、私がまだ事実を受け入れられていないからなのかもしれない。

私のほぼ初めての観劇は、PMC野郎の『よ〜いドン!!死神くん』だったと思う。mixiか何かでメッセージをもらって、面白そうだから大学の友人を誘って、吉祥寺シアターで観た。客入れの間、ずっとケンタウロスが舞台上でゲームをしていて、なんだこの劇団、と思ったことを覚えてる。設定はぶっ飛んでいるけど、話は破綻していない。すごく好きな劇団だな、と思って情報を追い始めた。

その次に見たのが『首無し乙女は万事快調と笑ふ!』だった。サンモールスタジオという、比較的こじんまりとした劇場で上演されたこの演目は、ギャグ100とシリアス100しかないのか!というぐらいぶっ飛んでいて、感情が振り切れて、観終わってから興奮が収まらずに、大学の友人に思わず電話してしまった。

そこから少し時間が空いて、『銀色の蛸は五番目の手で握手する』を観に行った。今まで見てきた中で最多の出演者では?と思ったが、この話を成立させるにはこの人数が必要なのだと思った。相変わらずぶっ飛んでいた。ぶっ飛んでいるのに、観客を置いていかない。変だけど変じゃない。PMC野郎はそういう作品が多くて、だからまた観に行こうと思うのだ。

個人的にすごく好きだったのが『ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない』。短編集なのだけど、一つ一つの短編が持つ奥行きが半端ない。バカみたいなこともしているけど、それがノイズにならない。笑ったり苦しくなったり、感情がジェットコースターのようになってしまう。

『うちの犬はサイコロを振るのをやめた』を駅前劇場でみた時には、完全に放心状態だった。『首無し乙女〜』を見たとき以来の衝撃というか、劇場から出ると下北沢の風景が広がっているのが不思議なくらい、作品に飲み込まれた。

そこから少し、自分の環境も変わったことでいっぱいいっぱいになり、全ての公演を追うのが難しくなっていった。

そんな中で『殿はいつも殿』の存在は大きい。『黄金のコメディフェスティバル2014』でグランプリを勝ち取り、テレビで放送されたりなどした作品なのだけど、何回見ても慣れない。何回見てもあまりの愛の大きさに泣いてしまう。

多分最後に吹原さんの作品を見たのは、小岩崎小企画『そう思うなら、尚更。』の『みにまむ』だと思う。とんでもない作品で、確か吹原さんに「どうやったらこんなものが書けるんですか」と聞いた気がする。

それが、吹原さんとお話しした最後だったと思う。

コロナ禍の始まりは、あらゆる公演が次々と中止になっていった。PMC野郎の公演も中止になり、仕方がないけれど……と思っていたら、吹原さんの訃報が発表された。全く受け入れられなくて、涙だけが止まらなくて、声を上げて泣いた。

彼は天才だった。物語を作り続けないと生きていけないのか?と思うぐらい、あらゆるところで物語を書いていた。途中からPMC野郎の公演は当たり前のように2本立てになり、多分こうしないと、彼の中にある物語を発表するのが間に合わなかったのだろう。

生きることと死ぬことと人を愛することに全力で真摯に向き合って、それをあらゆる作品で提示していた。一体どんな脳みそをしていたのか、覗いてみたかった。きっと彼の頭の中にはまだ、沢山の物語があったと思う。

この世に吹原さんがいないということがまだ信じられないのは、コロナ禍になり、あまり劇場に行かなくなったこともあるかもしれない。以前は終演後に直接感想を伝えられる時間があったけれど、コロナ禍でそれは全てなくなった。だから、コロナ禍が明けて劇場に行ったら、彼はまだいるんじゃないかと思ってしまう。

PMC野郎のみなさんは優しくて、私がメンタルぐちゃぐちゃになった後に公演を見に行ったりすると、「大丈夫?」「少し元気になった?」「また生き延びられそう?」と声をかけてくれた。それで本当に、どうにか日々をやりすごしていた。PMC野郎の作品を見るのが大好きだから。

吹原さんも例にもれず、「元気にしてる?」と聞いてくれたけど、私はそれよりも多忙すぎる吹原さんのことを心配していた。「大丈夫」と言っていたけど、嘘じゃん、大丈夫じゃなかったじゃん、なんで死んじゃったの、その言葉が頭の中をぐるぐるしていた。

主宰がいなくなっても、ポップンマッシュルームチキン野郎は解散しなかった。ツイキャスをやってくれたり、ポップンマッシュルームチキン野郎に所属のまま外部の公演に出ていた。今度、久しぶりにイベントをやると聞いて嬉しかった。コロナがまた猛威をふるい、無観客にはなってしまったけど、それでも。

ポップンマッシュルームチキン野郎は、私の小さな青春のそばにずっといてくれた。これからも出来るならいてほしい。いなくならないでほしい。

吹原さんのことがようやく書けました。いないのは分かっているのに、でもまだちょっと信じられない。シアターKASSAIとかにそっといてくれないかな。

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