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ピックミー,ピックアップ

Aパート

○シーン1【打ち上げ終わり,居酒屋の前】

会計を済ませ店の前で屯する集団から,中村紫乃は一人離れて立っていた.そこに岡部健介が声をかける.
健介 「中村どうした?気分悪い?」
健介,心配そうな顔で紫乃を覗き込む.
紫乃 「すみません,(苦笑いして)楽しくって飲みすぎちゃいました.」
健介は笑って水を差しだした.
水を受け取り、紫乃は飲む。背中をさすられながら、礼を言う。一連の流れに紫乃の声を重ねる。
紫乃 『いつも優しく気に掛けてくれる先輩。好きになっていたのはいつからだろうか。でも、これは始まった時から終わっている恋で、どれだけ願っても叶わない恋だった。』
部長 「二次会行く人―!」
全体にむけて大声で音頭を取った.周りの人間は口々に賛同する.
部長 「おーい,そこの二人,二次会はー?」
手を振りながら,健介の方に大きく声を上げる.
健介 「すまん,こいつ家まで送っていくわ」
健介も大きく返事をする.
部長「りょうかーい!!」
紫乃 「先輩,ありがとうございます」
紫乃は恐縮したように,小さな声でお礼を言う.
健介 「(首を振って)いえいえ」
健介は優しい声で返事をする.

○シーン2【居酒屋からの帰り道】

紫乃と健介は缶ビール片手に、ぶらぶらと歩く.二人は笑い声をあげて,楽しそうに歩いた.
二人が歩く姿を背景に,紫乃の声を重ねる.
紫乃『帰り道はまだ少し肌寒かった.好きな映画の話で今まで知らなかった一面を沢山知った.押井守について熱く語る先輩は普段見ない早口で,ちょっと可愛かった.いつの間にか話題は,彼女の愚痴になっていた.朝陽さんとは最近うまくいっていないのか.そんな話に少し期待している自分が嫌になった。今,好きだと伝えればどうなるだろうか.覚悟を決めるには,帰り道はあまりにも短かった.』

○シーン3【紫乃の部屋の玄関前】

玄関前まで着いた二人.
健介「(着地するふり)とうちゃーく!」
健介は声を小さくしつつ,嬉しそうに言った.
紫乃「送っていただいて,ありがとうございました」
少し名残惜しそうに,紫乃は笑顔で言った.
健介「(帰るそぶり) じゃあ,中村は早く寝なよ」
ほんの一瞬,紫乃は返事をしない.
紫乃「先輩,部屋,上がっていきますか?」
紫乃『あの時の私は,先輩の傍にいられるなら何でもよかった』 
二人が部屋に入る一部分が映る.
扉が閉まり,扉を映しながら紫乃の声を重ねる.
紫乃『先輩と二人で過ごす時間は幸せだった。自分への言い訳を重ねている内に、あっという間に春は終わった。』

Bパート

○シーン4【狭めの講義室,テスト中】

窓の外の映像.タイトルテロップ.
3,4人の学生がまだ問題を解いている.
残っていた学生は二人以外解き終わって帰る.
紫乃は解き終わり,隣の男を視野に入れたまま手は止まっている.
健介は頬杖をついて埋まらない解答欄とにらめっこをしている.ふと隣からの視線を感じ目線を横に向ける.
紫乃は入れ違いで目線を下げ,あからさまに考えているふりをする.
先生 「はい,時間でーす.答案は前に出して帰ってくね.お疲れ様です.」
声がかかると,健介は大きく息を吐いて浮かない顔をする.

○シーン5【講義室,片付け中】

紫乃 「先輩,テストどうでした?」
いたずらな笑みで話しかける.
健介 「いやぁ,単位ヤバイかも.一応勉強したのになー.また落としたらほんと笑えないって.」
健介は少しムスッとした口調で付け加える.
健介 「紫乃はいつも通り余裕だったでしょ」
紫乃は笑顔を崩さない.
紫乃 「まあそうですね.先輩と違って勉強してたんで」
健介 「いやいや,昨日もおれと夜中まで打ち合わせしてたじゃん.いつ勉強したの!?」
呆れた顔で紫乃は答える.
紫乃 「こういうのはちゃんと,講義中に起きて話聞いとくんですよ」
健介 「さすがだねー」
紫乃 「あの,そんなことより,夏休みとかって何か予定あるんですか?」
紫乃の元気な声に少し硬さが混じる.
健介は片付けをしながら適当に答える.
健介 「これでもう夏休みか!まあ,撮影ばっかだな.紫乃もそうだろ.」
紫乃 「そうですけど,他にもっと夏っぽいことしたいなーとかないんですか?また,一緒に遊びに行きましょうよ.」
健介 「うーん,でも朝陽とどっか行ったりするかも」
紫乃は答えに少したじろぐ.小さな期待が崩れ,焦る
紫乃 「えっ,先輩,朝陽さんと仲直りできたんですか?」
健介はスマホを触りながらうわの空で答える.
健介は朝陽からのメッセージに返信を打っている.
健介 「んー?まあぼちぼちだな」
紫乃,困った顔の笑顔で相槌を打つ.
紫乃 「なんですかそれ.」
ふと沈黙になる.
紫乃,少し言葉に力をこめてたどたどしく話始める.
紫乃 「あの、私,こんなこと言っていいかわからないんですけど,好きですよ.先輩のこと.」
紫乃,声は少しずつ尻すぼみになる.
少しの沈黙.
健介が口を開く.
健介 「うん,俺も紫乃といて楽しかった.気持ちにも少し気づいてた.」
紫乃は俯いて表情が崩れている.
健介は続けて優しく紫乃に話す.
健介 「でも,これからはまた大事な後輩だよ.」
健介は紫乃と目が合い,立ち上がりながら少しおどけた表情をみせる.
健介,扉の前で振り返る.
健介 「中村」
紫乃,呼びかけに顔を上げる.
健介 「さっ,そろそろ打ち合わせ行くか.」
紫乃,笑顔をつくって立ち上がる.
紫乃 「はい,そうですね.」

Cパート

○シーン6【講義室近くの自販機前】

紫乃,自販機のボタンを押す.落ちてきたペットボトルを取り上げる.飲み物は紫乃がシーン1で貰ったものと同じ。
紫乃 「ああ,好きだったなぁ.」
紫乃,小さくつぶやく.
Fin.

2021/6/22 作成
2021/7/27 修正・一部加筆
2022/3/20 Aパート追加Ver.2作成
2022/3/28 修正版 Ver.2.1作成