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円盤に乗る場

演劇プロジェクト「円盤に乗る派」が運営する共同アトリエ「円盤に乗る場」情報ページです。詳細はhttps://note.com/noruha/n/n85799530712c Twi… もっと読む
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#ありふれた演劇について

「ありふれた演劇について」49

「ありふれた演劇について」49

先月はお休みをしてしまったので、久しぶりにこの演劇論を書いている。今は先日情報公開された『NEO表現まつりZ』の準備と、今後の公演のための諸々の調整に追われながら、プライベートでも大きな変化があったので、3人くらいのカゲヤマが同時にわらわら動いているような状況である。忙しくはあるのだけど、どこかこれまでにないような、新鮮な気持ちもする。健康第一でやっていきたいと思います。

そんな中、円盤に乗る派

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「ありふれた演劇について」48

「ありふれた演劇について」48

ここ最近は俳優と演出の関係について考えることが多い。どうしたら、互いに齟齬のない良好な関係のもと創作ができるのだろうか。作り方がすでに共有されていたり、作品についての共通したイメージがある程度あれば、その関係はうまくいきやすいだろう。そういう意味では実験的な方法論を試そうとする団体よりは、保守的なやりかたで創作する集団のほうが演出と俳優の立場は明確になりやすい。伝統的な方法論を持つアマチュア劇団や

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「ありふれた演劇について」47

「ありふれた演劇について」47

今月から、「テキストを読むためのワークを開発する会」をスタートさせた。俳優向けに、「読む」という体験を深めていくためのワークを新しく開発するための会だ。開催に至る経緯は詳細ページに書いてあるが、かいつまんで言えば、「読む」という体験に対してある程度の共通言語を作らなければ、演劇創作の場でのコミュニケーションにおいてどこかで障壁に突き当たってしまうのではないか? という問いからスタートしている。

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「ありふれた演劇について」46

「ありふれた演劇について」46

少し前になるが、こまばアゴラ劇場でムニ『ことばにない』後編を観た。「レズビアンアイデンティティを巡る演劇」(公式HPより)を銘打った作品で、「後編」とついている通り、昨年(2022年)上演された「前編」の続編に当たる。上演時間は前編だけで4時間、後編も4時間半あり、身の回りでは内容だけでなくその長大さについても噂になっていた。

私は前編は観ることが叶わなかったので、上演台本を購入して読んだうえで

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「ありふれた演劇について」45

「ありふれた演劇について」45

前回は、円盤に乗る派『幸福な島の夜』の稽古場での制作プロセスにおけるテキストの捉え方や、その出力の方法などについて紹介した。今回は引き続き、身体の運用の考え方についてまとめていきたい。繰り返しになるが、ここで紹介することはあくまで演出家であるカゲヤマ気象台の目線で文章にしたものであり、実際に本番のときに各俳優の中で起こっていたことはそれぞれ異なっている可能性はある。

3. 身体運用の可塑性につい

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「ありふれた演劇について」44

「ありふれた演劇について」44

まもなく円盤に乗る派『幸福な島の夜』の本番を迎えるので、今回の作品にあたって採用している演技のプロセスを整理しておこうと思う。とはいえ、これはあくまで私が稽古場でこのようなことを話した、ということであって、実際に俳優の中に起こっていることはこの通りではない可能性はあるので、単なるディレクション(方向性)に過ぎないと思ってお読みください。また、今月だけでは書ききれないかと思うので、来月にも続くと思い

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「ありふれた演劇について・番外編1」

「ありふれた演劇について・番外編1」

【謝辞】毎月更新しているこちらの演劇論ですが、諸々の締め切りに追われてしまい、ちゃんとした記事を書ける時間がなくなってしまったので今回は番外編として、最近戯曲執筆のために導入したツールを紹介したいと思います。戯曲を書く方々にはちょっとした参考になるのではないでしょうか……。

戯曲は文章としてはかなり特殊な形態で、ただテキストで書き続ければ形になるというものではありません。役名・台詞・ト書きが分か

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「ありふれた演劇について」43

「ありふれた演劇について」43

円盤に乗る派の新作公演『幸福な島の夜』の稽古が、今月から始まっている。本番は10月下旬からなので、比較的まだ時間はあると言えるが、合間に長い休みもあるし、直前に詰め込むのも嫌なので、ものすごく余裕があるというわけではない。きっと、あっという間に本番になってしまうだろうと思う。

毎度のことではあるが、円盤に乗る派に初めて参加するメンバーもいるので、稽古の大半は共通言語を作り上げていくための作業にな

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「ありふれた演劇について」42

「ありふれた演劇について」42

演劇の魅力のひとつに、破綻というものがある。俳優の身体がちょっとしたきっかけ(どうしようもない癖や生理的な反応が出たり、演出でつけられたスピードに追いつけなかったり)で「素」の様相を露呈し、それがむしろ魅力的に見えることもあるし、観客の反応によって作り手が誰も予想し得なかった空気感が生まれ、思いがけない上演が成立することもある。一般的に、演劇は決して完成しないとよく言われるが、それはこうした破綻の

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「ありふれた演劇について」41

「ありふれた演劇について」41

以前に、小劇場演劇というものはすでに終焉しているのではないか、という文章をここに書いた。

ここでいう小劇場演劇という言葉は、小さい劇場ならではの表現形式、というよりも、文化の一潮流という意味で用いている。戦後のカウンター・カルチャーとして生まれた小劇場演劇が、日本の経済成長とともに政治運動から離れ、商業主義といわば「結託」することによって「ブーム」となり、その路線は現在にまで続いてきたが、その視

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「ありふれた演劇について」40

「ありふれた演劇について」40

もう一か月ほど経ってしまうが、4月の末に、渋谷コントセンター主催の『テアトロコント vol.61』に呼ばれ、「カゲヤマ気象台のコント」名義でコント作品を上演した。

以前に円盤に乗る場で「お笑い研究会」という集まりを何度か開催し、研究成果やコントの試作品をイベントで発表したりもしていたが、なにしろコントという名目で本格的に上演を行うのは初めてで、悩みや苦労も多かったが、いろいろと勉強になった。

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「ありふれた演劇について」39

「ありふれた演劇について」39

学生の頃に舞台音響を教わって、しばらくは小劇場まわりで音響スタッフとしても働いていた。最近は呼ばれることもだいぶ少なくなったが、別に廃業したというわけではないし、自分の演出する作品では自分で音響を担当することも多い。微妙なタイミングであるとか、微妙な音量や音色のニュアンスが欲しいときがあって、それは言葉で伝えるよりも自分の耳で調整するほうが早い。スケジュールを合わせて打ち合わせしなくていいし、稽古

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「ありふれた演劇について」38

「ありふれた演劇について」38

今年の秋に予定している新作公演に向けて、自分のための整理の意味でも、今頭の中にあることを書いておこうと思う。タイトルはまだ仮だが、『幸福な島の夜』という(会場である、こまばアゴラ劇場のwebサイトにはすでにタイトルの情報が出ている)。「夜」というのは、そもそもの発端が「フィルム・ノワールみたいなものを書きたい」というイメージから始まっているので、「ノワール」から連想される「夜」をつけたわけだが、往

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「ありふれた演劇について」37

「ありふれた演劇について」37

前回、現代の日本の演劇環境の中でコレクティブをやることの難しさ、というか、作品を背負う主体が演出家に偏ってしまいがちな構造について書いた。それは作品への「署名」の問題というよりは、もっと単純に、プロデューサー役あるいはプロデューサーに口を出せる立場を、演出家が背負いがちだということだ。もっと平たく言えば、誰かから依頼されるのではなく、自ら進んで作品を作るために行動し、実現させる人間が、演出家である

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