どういうロックダウンを行うかを決めるのに,可能なロックダウン候補に対する長期の予測が必要である

本日読んだ,『ロックダウンはするしないの二元論ではない。「する際の条件」こそが重要である。』(4/5 神戸大学・岩田健太郎教授)は,事態が手におえなくなる2週間前には,現状よりも強い行動制約が必要で,問題なのはどういう行動制約(どういうロックダウン)をするかだと論じている.

この論旨には大変賛成だ.ただしどういうロックダウンを行うのかを決めるには,こういうロックダウンを行ったらこうなりますという感染終息までの長期予測が必要なはずだ.なぜなら,1・2ヶ月といった短期のロックダウンですむのか,あるいは1・2年におよび長期のロックダウンが必要なのか,でできることが違ってしまうためだ.短期ですむなら,強制的にいろいろなビジネスを止めて,それに対する補償金を支払うことはできるだろう.しかし,長期になると,いくら国でも資金が続かない.

そこで必要になるのが,将来予測に基づいてロックダウンを選択することだ.もちろん,将来を完全に予測することはできないが,こうなるためには,これこれが必要という判断は感染症モデルを用いてできるはずだ.こうなるためには,というのはゴールであり,ロックダウンの場合はロックダウンを解除することがゴールになる.ではロックダウンの解除には,どういう場合がありえるのか?

いったん導入したロックダウンを解除する場合は,次に4通りがありえる.1)ほぼ完全に感染を終息させ,新規感染者が出ても十分に隔離などで対応できる(中国はこうなったと主張している),2)集団免疫が獲得される(ニューヨークはこうなりそうだ),3)それ以上の継続を社会・国が負担できなくなる,4)ワクチンまたは治療法が確立・普及し新型コロナウイルスが大きな脅威ではなくなる.(1)(2)であれば,ロックダウン解除後に感染爆発は生じない.しかし(3)では,以前投稿したとおり解除後に感染爆発が生じる.この場合,感染を経験する人数は,ロックダウンを導入しない場合と変わらないが,感染爆発を遅らせることで時間を買うことができる.(4)にはおそらく1年では足りないので,2年程度のロックダウンの継続を覚悟する必要がある.この(1)~(4)以外に見落としがあるかもしれないが,もしあれば足せばよい.

このようにゴールを設定すれば,それに必要なロックダウンはどういうロックダウンか(たとえば勤労者の人的接触を通常の何分の1に減らすのか,休校するのか,など)を,感染症の専門家は感染症モデルを使って推定し,その予測を提示できるはずである.そして,その経済的な持続可能期間を経済の専門家が,法律上の実現可能性を法律の専門家が判断すればよい.

海外ではたとえば英国・インペリアル大学は,予測モデルの結果を公開し,それがイギリスの政策決定に非常に重要な影響を与えた.米国でも,トランプ大統領明らかに,専門家による予測結果の提示を受けている.日本では,そういう様子が見られない.専門化が予測を示さないのか,それとも政治化・官僚が専門化に予測を出してもらうというアイディアがないのかは分からない.いずれにしても,予測なしでは,闇雲なロックダウンにしかならず,悪くすると経済的に大きな負担になるにもかかわらず,感染爆発を抑えることもできないという最悪の結果に終わることを懸念する.



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