見出し画像

キリンジの歌詞を語らずにはいられない2


キリンジの説明とこの記事の意図はこちら


9年越しに兄弟ラストライブのBlu-rayを購入。

ファン失格の遅滞も痴態ではありますが、観ちゃったもんだから、火ぃ着いちゃったもんだから、
オタク心、爆ぜさせずにはいられない!


スウィートソウル



「真夜中が今 その目を覚ます

ドラムのシンプルな8ビートとパーカッションだけで紡がれるイントロ。

3小節溜めてから白玉インするピアノとアコギのA。

そしてこのオープニングフレーズ。


完璧です。

ここまでのサウンドで緩やかに満ち満ちた世界観を、静かに解放する完璧な一言目です。


そもそも、収録アルバム「For Beautiful Human Life」が、異論差し挟む余地のない珠玉の一枚なのですが、
そのエンディングにこの曲が来るのかと。

アルバムジャケットの印象そのままにシックな統一感を保ちながらも、なお紆余曲折を経る全体の曲構成。
エピローグ的な一曲「カウガール」を終え、静けさの中でこのイントロが始まり、件の一言で最後の扉が開いた時のカタルシスと言ったらもう。

正直、前記事に書いた「千年紀末に降る雪は」と甲乙つけ難い、まさに一二を争う名曲なんです。


Love is on line


この曲が発表された2006年当時からすれば、「マッチングアプリ」なるものが当たり前に認知度を得ている未来というのは、随分と想像し難いものでした。

ご多分に漏れずおじさんは、いわゆる「ネット恋愛」なるものにバリバリ抵抗ある世代でして。

当時はそれこそ「出会い系」と一括りにされ、その場を提供するサービス自体の是非を問う前に、少なからず蔑視される向きもあった、この「ネット恋愛」。
そんなものをこんなに美しいメロディーと言葉で歌にできてしまう兄樹の奇鬼才々っぷりたるやもう。

未明頃を表現するのに
「新聞配達が廊下を走り抜けた」
なんて言葉を使うあたり、
間も無く曙光差す美しい夜明けのイメージにはそぐわないとでも言うような、当時のネット恋愛経験者が持つ、ある種の後ろ暗さみたいなものを感じさせます。

そんな、人には言えない日陰の想いながらも、それを語る夢想世界の中では、
「鼻緒」「言葉の泡」など、比喩表現がいちいち古風かつロマンティック。

止めに
「二人は蜘蛛の糸 渡る夜露さ」
まで行き切るのに、それでもなお現実には辿り着かない、ある種の一方通行感。

根暗男の恋愛観が持つ、一方的で独善的な気持ちの悪さ、しかし同時にどうしようもなく抱えている純粋さが、これでもかと詰め込まれた名曲。

近いところだと、matthew sweetの「winona」も、似たキモ美しさがある気がします。


この部屋に住む人へ


新たな住まいに心躍るような、それでも去るのは物寂しいような、そんな一般的な生活イベントたる「引っ越し」に、淡々と寄り添うようなサウンドと歌声もナイスな一曲。

(恥ずかしながら、上京一人暮らしを始めてから一度も引っ越しをしたことがない私は、この「清しい寂しさ」のような感覚を味わったことがありません)


兄曲には珍しく、基本はシンプルな状況描写と心理描写。

しかし、ネタバレになるので書けませんが、
最後の1フレーズに、上質なショートショートのようなオチをそっと射し込んでくるあたりが、「7枚目にして兄樹節衰えず!」と、ファンをニヤつかせてくれるのです。

歌詞に「ネタバレ」って概念があるのがまた。


メスとコスメ


「もうちょっと痩せたい・・・」と呟く女性に対し、
「そのままでも十分綺麗だよ!」と男は励まします。いつの世も。

わかってないんですねぇ。
まったくわかってない。

別にお前のために、というか男のために綺麗になろうとしてるんじゃねぇんだよと。

自分のなりたい自分になるために、
コスメを、ダイエットを、
そして時にメスを必要とするヒトがいるんですよと。


とまぁ、そんな女性の思いがあるのか否か、おっさんなので推測の域は出ない訳ですが。

曲のテーマは、一言で言うなら「整形した元カノとの再会」という、なんとも身も蓋もないもの。

「あてつけのつもりなのかい、それとも未練かい?」

曲中の元カレは、あくまで自分からの目線でそう嘯くわけですが、綺麗になった元カノの想いとしては、多分そのどちらでもあり、そのどちらとも違うんでしょう。

変わった「君」を誉めそやす、幾度となく歌われる「きれいだぜ」も、きっとそれはそれで本心なのでしょう。

でも詞の中の彼が、唯一「美しかった」という言葉を用いるのは、きっとあの頃の「やさしく泣いたあとのようなまぶた」だってんだから、切ないですよねぇ。


耳をうずめて


「僕ら音楽に愛されてる」

間違いないね(サンド富澤)


一回5(4)曲語ったら収まるみたいです、オタク心が。


おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?