ニュースポーツから学ぶ体育の教材づくり

1 はじめに

 ニュースポーツとは、20世紀後半以降に考案されたスポーツであり、その種類は数十種類にも及ぶ。ニュースポーツは、レクリエーションの一環として、気軽に楽しむことを主眼としている。その為、競い合うことよりも誰でも楽しめるようにルールや用具が工夫されているものが多い。
 そのような一面から、ニュースポーツは、体育で扱う運動に活かせる要素を多く含んでいると考えた。体育では、スポーツクラブで週に何日も競技スポーツに取り組む児童もいれば、体を動かすのは体育の授業だけというような児童が一緒に運動をしなければならない。そのような状況で、勝敗や記録の向上を主眼に置いた教材を取り扱えば、集団内のヒエラルキーが顕在化し、運動が苦手な児童はますます運動嫌いになってしまう。そこで、体育授業で扱う教材は、全員が楽しめるようなルールや教具の工夫が必要不可欠である。しかし、それをゼロから考えるのはとても難しい。そこで、ニュースポーツを紐解くことで、体育の教材作りに必要なエッセンスがわかってくるのではないかと考えた。

2 ニュースポーツの分類

 ニュースポーツを成り立ちで分類すると、以下のようになる。

①新技術や新素材の開発によって誕生したもの
 例:ハングライダー、デジタル卓球、シュミレーションゴルフ等
②民族スポーツとして親しまれてきたものが新たに取り入れられたもの
 例:セパタクロー、カバディ、ペタンク、モルック等
③既存のスポーツをプレーヤーの年齢、体力、運動技術、環境等に応じて改変したもの
 例:グラウンドゴルフ、タグラグビー、ティーボール、ソフトバレーボール等
Wikipedia:ニュースポーツ

 このように分類してみると、「既存のスポーツを改変したもの」が多くある。また、このようなニュースポーツは、すでに体育でも実施されているものが多く、馴染みがあるものも多い。本稿では、この「既存のスポーツを改変したもの」に着目し、どのように改変されたかを考察することで、体育教材を作る一助になると考えた。

3 ニュースポーツが誰でも楽しめる理由

 ニュースポーツは、どのような改変や工夫が加えられているのか。いくつかのニュースポーツをもとに、その要因を考察していきたい。

①タグラグビー

 タブラグビーは、ラグビーが改変されたニュースポーツである。学習指導要領にも取扱が記載されており、体育授業で扱う機会も多い。主なルールは以下の通りである。

   ・キック無し。
 ・タックルの代わりに腰ベルトにつけたタグを奪う。
 ・タグを取られたら3歩以内に後方の見方にパスをする。
 ・タグを4回奪うと攻撃権が交代する。
 ・得点はトライ(1点)のみ
 ・1チーム5人で行う。
Japan Kid’s Tag Rugby

 タグラグビーは、ほとんどのプレーがパスとキャッチ、ランで行うことができ、タックルやキック等の難しく、危険を伴うプレーを避けながら安全・安心にプレーできるように工夫がされている。また、タグを取られてからもパスをする猶予がある為、パスをするのも比較的優しい。このようにエッセンシャルスキル(最低限必要なスキル)が低く設定されており、身体接触等もないため、誰もが楽しくプレーできる。
 楕円形のボールを使用することや自分より前へのパスは禁止等、ラグビーの持つ特性は、味わうことができるようになっている。また出場人数もラグビーは15人であるのに対してタグラグビーは5人で行う。人数が少なくなるということは、ボールに触る機会や選手同士の関わり合う機会が増える。

②ボッチャ

 ボッチャは、昨年行われた東京オリンピックでも注目を集め、誰でも楽しめるスポーツとして話題になっている。ボッチャはペタンク等から発展したとされている。また、競技特性がカーリングに似ていることから「地上のカーリング」とも呼称されている。ボッチャの主なルールは以下の通りである。

・6人で行う(個人戦は2人)
・先攻が目標球をコートに投げてゲームが始まる。
・各チーム6個ずつ投げ、目標球に最も近い球を投げたチームに得点が入る。
・その他、プレーヤーの障害の程度でも、ルールが変わる。
日本経済新聞:ボッチャの技とルール

 ボッチャは、エッセンシャルスキル(最低限必要なスキル)が低く設定されており、ボールを投げるもしくは転がせればよい。しかし一転、競技レベルが上がるにつれて、どんどん細かい技術や高い判断力、思考力が必要となってくる。
 また、ルールも目標球の近くにボールを投げれば良いというもので、シンプルでわかりやすい。

3 体育の教材作りの視点

 上記のことから、私は体育の教材作りには、以下のような視点でルールと用具の工夫をすればより良い体育教材ができるのではないかと考えた。

①ルールを工夫する際の視点
・技能が低い児童も楽しめるか。
・十分にプレーできる人数になっているか。
・シンプルでわかりやすいか。
・味わわせたい競技特性から逸脱していない

②用具を工夫する際の視点
・安全に安心して使えるか。
・児童の技能に合っているか。(場合によっては、複数用意し、選択させる。)

 ニュースポーツは、そのまま体育授業で使えるものも多い。しかし、上記の視点で自分の学級の児童の実態に合わせたものにすることで、より良い体育教材が開発できると考える。
 また、既存のスポーツを上記の視点で、学級の児童の実態に合わせたものに改変することで、自分の学級のニュースポーツを生み出すことができるかもしれない。

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