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【インタビュー】「しゃべらない研修講師」は「コントロールしないお母さん」にルーツを持つ〜人事研修講師・城下博美〜

今、日本の「教える」が危ない。

本来、いじめを無くしていくべき立場にある学校の先生同士でいじめをおこなったニュースも記憶に新しいが、「教える」の問題はそこにとどまらない。

バブル期の大量採用を最後に、バブル崩壊やリーマンショックなどの長い不景気の結果、団塊の世代と現役新入社員の間に立つ会社員が少なくなった今、企業の中でも「教えられる人材」が大きく不足している。

社内の「教える」の問題に対して、企業で入社1~3年目の社員を対象として人材開発研修を行なっているのが今回ご紹介する人事研修講師・城下博美先生だ。

城下先生は有名企業で研修講師を務める傍、2児を大学進学まで育て上げた母でもある。

そんな城下先生に研修で心がけていることを聞いて、帰ってきたのは「極力しゃべらない」だった。

喋りを生業とする研修講師がなぜ「しゃべらない」を語るのか。その裏に「母・城下博美」の積んできた子育てに対する思いからくるものを見た。

しゃべらなくても研修がまわるワケ

城下先生の研修での議論は常に熱をもっている。

普段、多くを語らない人であっても積極的に議論に参加しているし、終わった後の感想で面白い発言をしていた人が「私は普段人見知りなのですが...」と語っているのも珍しくない。

受けたくもない研修と思ってここに来たのに、帰る頃にはすっかり「参加してよかった」と思わされてしまう。

「研修講師を始めたばかりの頃、『うまくやらなきゃいけない!』と思って自分が緊張してばかりでした。だけど、私以上に参加者の人たちが緊張していることをわかってから、みなさまのためにも私が緊張している場合じゃないな、と思いました。」

城下先生は研修を始める前から参加者と積極的にコミュニケーションをとっていた。また、議論の中で都合の良い答えを言わされるための質問もなく、早く終わらせようとする誘導もない。模範解答を言わなければいけないプレッシャーも、この講座の中には全くなかった。

「私が研修をしているときに一番大事にしているのは極力しゃべらないことです。ファシリテーション研修なんかをやるときには特にそれを気をつけています。」

コントロールしても仕方がないし、そもそも人をコントロールするのは性に合わない。多く喋りすぎれば参加してくれた人たちをコントロールすることに繋がってしまう。それを避けるためにあえて「しゃべらない」を心が得ている。

コントロールしない母・城下博美

城下先生は子供に対してもコントロールをしようとしなかったという。

先生の息子は京都大学に進学しそのまま院生に、娘は九州の国立大学に進学しキャンパスライフを謳歌している。

「2人ともたぶん私の話を半分も聞いていないんじゃないんですかね。どこに行くのも何をやるのも自分で決めて、自分の道を進んでくれました。2人のやりたいように任せていたら、全く違うタイプの2人に育ってしまいました。」

息子さんは一つのことに研究熱心な一方、娘は将来を考えながらも自由にアクティブに活動しているとのことだ。

2人が地元に戻った際には、親子でお酒を飲みながら語り合う仲。もちろん、将来どうするかなどの話もたまにするらしく、先日息子から「美味しいお酒を楽しむ人生宣言」を言い渡された。

世間的には一般的ではないことを言われたものの、城下先生は「そうですかぁ」と受け取るしかないと思ったそうだ。

ダメなものはダメ。で進んだ子育て。

子供を自由にさせておけば子供は勝手に育つ。そういう話はよく聞くけれども、果たしてそれでうまくいくのかはわからない。

城下先生の子育ては順当だったわけでなく、はじめての子供でもある長男は1歳の時点で全く喋らない子供だった。病院の先生から脳の障害を疑われ、その診察が終わった日には泣きながら家に帰ったそうだ。

結局、2歳になって急にたくさん喋るようになってくれたが、幼稚園入学後もマイペースに通学し、幼稚園内での集合に遅れていることも珍しくなかった。

「はじめ『彼は小学校にいけるのだろうか?』と心配していました。でも、遅れてしまうのは丁寧に自分の服をたたんだり片付けに時間をかけていたりしたからだと気づいてからは、もっと彼の長所を伸ばすようなものをやらせようと思いました。自分もできなかったと思うから、それを子供にやらせるのは酷だなと。」

そこで、そろばんと絵画の教室に通わせてみたところ、先生からは大絶賛。運動系は得意でなかったのを本人も理解して、「俺は頭で生きていく」と決めたそうだ。

相手目線に立って、自分の目線にも立ってもらう工夫

城下先生に子育てする上で意識していたことを聞くと、「ずっとおんぶして育てた」と返ってきた。

ベビーカーを譲ってもらったものの、おんぶをすることで子供が自分と同じ目線で景色を見せてあげたいと考えていたため、ベビーカーを使わなかった。

また、息子が枕の中に入っているビーズを床にまき散らかしたり、小麦粉をまき散らかして遊んでいるのを見たときに、それに対して激しく怒ることもなかったそうだ。

城下先生は子供から話しかけられたとき、話を聞いてあげることに努めた。城下先生がわかっていようがわかっていまいが、話し終わると満足して笑顔でどこかに走り去っていく息子。不思議なことに、これを繰り返すことで息子から駄々をこねられたことがなかったと言う。

「はじめびっくりしたけど、『いっぱい出てきた!』って言われたから『いっぱい出てきたねぇ』って返しました。さすがにこのままだとまずいから息子に『一緒に片付けよう!』と言って、一緒に片付けさせてました。もちろん、私はそれほどやらずに息子メインで片付けてもらったんですけど。すると、片付けるのが大変だとわかってくれたみたいで、その遊びをやらなくなったんです。」

こういうときに、お母さんが怒って片付け始めると、また繰り返しちゃうんでしょうね。子供が言ったことをそのまま受け止めながらも、一緒に後始末もやっていくことが大事だと城下先生は語った。

コントロールしない勇気

城下先生の話を聞くと、ここまで放任主義でいられるのはどうしてなのだろう、という疑問をもった。

城下先生自身、親から厳しく育てられていたそうで、そこに対して激しく反発していた過去があった。

昔から人に合わせるのが苦手で、人に馴染むことが苦手だったからこそ、同じような悩みを抱えている息子にはやさしくあたった。

もちろん、その覚悟を決めるのは生半可なものではない。

「よその子と自分の子を比べてしまって、たまに不安に思うことはありました。でも、自分ができないことを息子にやらせるのは期待しすぎだし、私自身やりたくないなと思いました。そして、私自身、人生でいろいろあったけれども、なんとかなってきたから、子供もなんとかなるだろうと思って、子供を信じてみました。」

そう決めた日から、城下先生は自分の息子たちを他人と、そして子供達同士も比べたりしないことを心に決めた。

それは子育てに限らず、研修講師の仕事をしているときにも気をつけていることで、タイムライン通りに進まなかったとしても、ただ参加者の人に実りある講義にすることを第一に心がける。

城下先生の研修を受けた人の顔が明るいのは、城下先生が参加者に対しても息子たちに対しても同じ目線で語りかけられるから。その人たちをもちあげるために一度しゃがんで目線を落とし、一緒に立ち上がって目線を引き上げていく理想の講師像を見た。

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現在、城下先生は子育てに関するサービスの立ち上げを検討しているそうなので、何かあれば追記していきたい。

城下先生のHP

取材・文章・写真:北 祐介

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