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ビジネスとやりたいことの狭間で

最近、「株式会社おもしろテクノロジー」という会社を作った。従業員は自分一人で、事業の内容は相変わらず行ったり来たりしている。知り合いの経営者にやりたいことを話したら「明日からやれ」と言われたので会社を作ることにした。

会社を作ったら次はビジネスを作らなければならない。会社を作った限りはビジネスの構築(お金を稼ぐ)という行為は必ず付きまとう。

ビジネスの構築は難しい、自分のやりたいことを突き通すだけだと明らかに収益性のないものが生まれてしまう。そこでちょっとくじけるものの、試行錯誤をすると、「やりたいこと」かつ「収益が望めそうなアイデア」が生まれる。「よっしゃ!これで行ったろ!」と思い、また情報を集めると、必ず決まって善意の提言が目に飛び込んでくる。「日本にはグローバルに駆け出していくスタートアップが少ない」だとか「5億円程度のビジネスでいいの?」とか。それを見ると「うるせぇ、俺がやりたいのはこれじゃい!」とつい反射的に叫んでしまう。

ただ、時間が経ってくると悔しさが込み上げてくる。「何なんあいつら」とか。「いや、だってあいつら自分の好きなことやってないし」とか「いや、俺はあいつ等が金稼ぎのことを考えてるときに、アニメとか漫画で本気で感動してるから…」とか考えたりする。

昔授業で、「シリアルアントレプレナー(連続起業家)は他の属性の集団にくらべ高い確率で、幼少期、青年時代に自分でお金儲けをした経験がある」ということを聞いた
例えばイーロン・マスクは12歳の時に自作のゲームソフトを売っていたりしていたらしい。スティーブ・ジョブズもそうだ。

それを聞いて僕は「無理ゲーじゃん!」と即座に思った。自分が自分の好きなことについて考えている時間の間に、ずっとお金儲けのことを考えて、実行している人間がいる。しかも、マッキンゼーとかゴールドマンサックスとか知識も経験もある人間がやっているとなる。困る。

そうなるとネガキャンが始まる。
「いや、だって俺は自分のやりたいことをやってるし…」「あいつらは俺らほどマンガも読んでいないんだ、ロックも聞いていないんだ。ロマンがわからんのだ」と考える。

そうしてまた、少し考える時間が生まれて、このような発想に至る。

「なぜ世界的にデカい企業を作らなければならないのか」
「ロマンだけでは何がいけないのか」
と。

少し考えて一つ見逃せない重要なファクターに気づいた。「ロマンだけを追い求めると国際競争に負ける」ということである。こうしている間にも国際競争は行われていて、私がパソコンを打っている間にも、あなたがスマートフォンで記事を読んでいるときにも、世界中のビジネスパーソンは金儲けをしているのだ。このパソコンも、スマートフォンもすべてが国産のパーツでできているわけではなく、必ず世界中の労働含む資源が集約されているのである。そうなると、日本とそれ以外の国で価値の比較が起きる。例えば、日本人全員が儲からないロマンを追及していると、いくら本人たちが楽しくても日本円の価値が落ち、あらゆる文明が享受できなくなってしまう。例えば、電気が安定して使えなかったり、食べ物が食べられなかったりするかもしれない。それでも一定期間は世界中のあらゆる国よりも豊かではあるとは思うが、今のレベルを維持できる保証はない。他者を助けてばかりであると、それ以外の他者に滅ぼされてしまう。餓死する。ロマンを追い求める人、すべてを否定して生きている人はこの構図、自分たちが多くの労働によって自分の生活が享受できていることを鑑みてどう思うだろうか

私はこの構図に見覚えがあった。
「これ、『ぼくらの』だ…」と。

『ぼくらの』とは、漫画でありアニメである。アニメのOPはあの有名な『アンインストール』である。私は学生時代にその漫画を読み込んでいた。読んでいて辛かった。みんなに辛くなってほしいからサークルの部室に全巻置いてきた。

ざっくりとあらすじを話す。100%のネタバレを含むので、「ぼくらの読んでみたかったんだよね〜」という人は今すぐに去ってほしい。

『ぼくらの』は乗ったら死ぬロボットで少年たちが戦うお話である。戦う相手は、パラレルワールド上にある別の地球のロボットで、同じく乗ったら死ぬ。それを何試合もする。何人も死ぬし、大人も子供も関係ない。「じゃあ乗らなくていいんじゃない?」となるが、戦いの結果、負けたほうの地球は滅ぶということになっている。そうやって自然淘汰していき、より良い地球を選別するという話だ。少年たちは「自分が死ぬのがわかっているのに戦うのか?」とか「でも戦わないと自分の家族が死ぬしな…」とか葛藤し、なんやかんや戦って、相手のロボットを倒し、相手の地球を滅ぼし、勝って自分たちの地球を守り、そして死んでいく。

いわゆる国際社会に羽ばたく起業論というのは、これに近い構造がある。結局、今の現代社会は、国家に所属する人々が価値を創出して戦い続けるから成り立っているのであって、価値を創出するのを辞めて国際競争に負けた場合、今の文明は途端に成り立たなくなってしまう。『ぼくらの』の世界観ではすぐ世界が滅ぶのでわかりやすいが、社会の場合はじりじりと悪くなっていくのでたちが悪い。全員がロマンがあって食えないことをやると、みんな食えなくなってしまうのだ。

というか、それよりもっと大事なことがある。
「マンガであったり、サブカルチャーを嗜んでいることを、イケてる起業家に対しての優位点だと思っていたが、実は口だけでまったく生かせていなかった」ということである。
さっきまで「アイツら漫画読んでない」とさんざんネガキャンしていた「世界レベルの企業を作らねばおじさん」は『ぼくらの』でいう少年たちである。そのおっさんたちが世界レベルの企業を作ることに本気でロマンを感じているのか、それともトップでありたいという習性なのか、使命感なのか、とにかく儲かりたいなのかはわからないが、動機はどうであれ、彼らは人生をかけて世界を守る『ぼくらの』のパイロットそのものなのである。一方で、漫画を読んでるマウントをしていた僕は、彼らのかっこよさや果たしている使命に関しては全く分かっていないのであった。

ということで、自分なりの解像度が上がったことによって、僕のネガキャンはひとまず終わった。

これから色々ビジネスをやっていくが、私はちゃんと「自分が心からロマンを感じてかつ世界で儲かる会社」というものを作っていきたいと思う。昔、エルレの細美さんがどこかの雑誌で「好きなこともやりきって儲からないと意味ない」と言っていた気がするから。

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