なぜ米デニーズ内定者はパンケーキ食べ放題なのか

先日、マクドナルドがBTSをCMに起用したという記事で、アメリカの食品関係労働者の人手不足とそれに伴う諸問題を報じましたが、

今回はホスピタリティ業界で働く方々の”反乱“というテーマでお送りします。出典はウォールストリートジャーナル2021年7月14日号です。


パンデミックでホスピタリティ業界労働者、つまりレストラン従業員、給仕係、バーテンダー、コック、レストラン管理者といった方々が大量に解雇もしくは一時帰休処分(レイオフ。景気が上がったら再雇用の契約)されました。

そして、ワクチン接種が進んだいま、企業側は労働者を戻しにかかっています。しかし、都合のいいことを言うなとばかり、彼ら彼女らレストラン労働者たちは”反乱“を起こしているのです。

多くは他業種に行ってしまい、帰ってきません。

なぜならばこれまでの働き方が過酷だったからです。しかし、人手不足のホスピタリティ業界は、賃上げ、ボーナス、その他の手当をぶんだんに用意し、帰ってこいよーと必死です。

詳しくお伝えします。

超人手不足のホスピタリティ業界

コック、ウェイター、ウェイトレス(給仕)、ホテルスタッフ等のホスピタリティ・ワーカー(おもてなし業種の労働者)がひっぱりだこだ。以前働いていてコロナで解雇されたところから、より高い賃金、より予見できるワークスケジュール、手当等をオファーされて戻って欲しいと懇願されている。

政府のジョブ・レポートによれば、雇用はパンデミックで130万減ったが、この6月はレストランとバーでは194000人、倉庫関係10万、技術コンサルティング3万9000、保険と金融の仕事が25000増えている。しかし、レストランとフードサービス関係の仕事の求人は2019年の同じ時期に比べて35%低くなっている。

リンクトイン(LinkedIn)の調べによれば、旅行、リクリエーション、シェフ、ケータリングマネジャーといったホスピタリティ関連労働者の79%が新しい業界に転職した。この数はホスピタリティ業界の労働者の58%以上にのぼる。

他業種への転職事例

23歳男性。バーテンダーから銀行窓口業務へ。
バーテンダー時代の時給は5ドルプラスチップ。銀行テラーの仕事は時給15ドル、出世の可能性もあり。彼いわく「バーテンの仕事はセールスとカスタマーサービスの側面があるから、バンクテラーは悪い選択じゃない。戻ることは考えられないさ」

56歳、レストラン・セールスマネージャー→不動産。
「人手の足りないオペレーションのヘルプに入るのが常態化していて辛かった。」

ネットへ不満書き込み爆発
昨年第2四半期以来、ネットへのレストラン、ホスピタリティ労働者の愚痴、不満の書き込み急増。

ホスピタリティ業界は最低賃金


米労働省によればレジャーを含めたホスピタリティ業界は、管理者でない労働者は最も低い賃金だった。雇用者はいま、労働者を取り戻そうとしているが、多くは給料を上げてオファーしている。6月現在、スーパーバイザー肩書のない労働者の時給は11%上昇。

労働者を取り戻すには


調査によれば最も強い要因は給与。二番目にベネフィット(手当)、第三に仕事のフレキシビリティ(自由度)。労働者はワークライフバランス(仕事と私生活のバランス)を欲しがっており、より短いシフト、仕事の量をコントロールできる自由を欲しがっている。

大企業も尻に火がつく

マクドナルドのフランチャイズが数千の労働者を調査し、給与、ベネフィット等の本音を調べた。その結果、緊急子供ケア(emergency child care)の導入決定。デニーズはキッチンカーを使って全米をリクルート・ツアーで2万人確保。内定者に対し雇用一時金とパンケーキ食べ放題券を支給。Chipotle Mexican Grill は最近従業員に対し、メンタルヘルスプログラムを強化。

チプトル

応募の簡略化
Chipotle Mexican Grill はTik tokを通じてレジュメを受け取りOKにした。これは何万人も雇いたいからだ。

野呂の分析:ホスピタリティ業界の改革前夜

僕は、これはホスピタリティの革命が起きつつあると思うんです。

パンデミックのおかげで、ホスピタリティ業界関係者は、自分たちがいかにひどい環境で働いていたかに気がついた。そして、やはりこの業界は人手がすべてで、企業側もそのことに気がつきました。

機械化、AI化、自動化は無理な業界であることも、ハッキリしました。

コロナ禍は超レアケースで、従業員を解雇するのもやむを得ませんでしたが、今のアメリカはリバウンド需要で沸き返っていて、僕の感触では、ホスピタリティ業界はパンデミック前の需要レベルを超えることが状態になる、そう思います。

業界は今、真剣に労働者の立場にたった、人的資源管理を整えようと必死になってきました。

記事に出てきた29歳のレストランキッチンで働いていた男性に言わせると、「おそすぎるよ。仕事はfrantic(狂気じみた)でtaxing(過酷)だった」。

こうした労働環境を今こそ改めないと、ホスピタリティ業界に人は集まらず、各企業は競争に勝てないでしょう。ワークライフバランス、つまり労働者の立場に立った人間的な労働改革が、これを機にいやでも進むことでしょう。

今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

明日またお目にかかるのを楽しみにしています。

                             野呂 一郎

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