プロレス&マーケティング第61戦 「闘魂」に縛られるとマーケティングも窒息する
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:新日本プロレスも、全日本プロレスも、創業者に忖度しすぎではないか。プロレスに学ぶ、組織は変わらないと、マーケティング(売上)も上がらないという真理。
ピンとこないタイトル
内藤哲也がSANADAを迎え撃ち、IWGP世界ヘビー級選手権に臨む、っていう東スポおなじみの見出し。
でも、IWGP世界選手権、っていうのに違和感があるんだよなあ。
昭和の猪木ファンからするとさ。
おかしいって。
そもそもが、このタイトルは新日本プロレスの創設者・アントニオ猪木が、タイトル乱立のプロレス界で真の強者を決めるべく、世界各地区でトーナメントをやって、勝ち抜いたレスラーが、決勝戦を日本の蔵前国技館で戦うことから始まった。
このタイトルに最近、新日本プロレスは「世界」の二文字を冠したのだが、このタイトルの設立経緯からして、おかしいだろ。
世界、はいらないんだって。
これにわざわざ「世界」をつけるのは、矛盾だって。
だって、世界を超えた「プロレス最強」を決める仕組みであって、タイトルですらないんだから。
世界とつければ、何か権威がついて偉いと思っているんなら、違うって。
IWGPって、インターナショナル・レスリング・グランプリ、だろう。
グランプリとはフランス語でgrand prix、大賞って意味だけれど、モータースポーツの最高権威をも意味し、猪木率いる新日本プロレスが、世界タイトルが強者を決めるシンボルでなくて、単なる形式に堕していたことを皮肉ったネーミングだった。
今のファンは、そんなことは知る由もないから、とりあえず世界をつけておこう、的な考えなんだな。
創業者の理念をそう軽んじるんならば、いっそのこと、IWGPなんて廃止にして、別のタイトルを作れよ。
でもそうすると、昭和のファン、猪木ファンが黙ってないから、それを恐れて、IWGPっていう名前はなくさないんだな。
去年のイッテンヨンだって、猪木メモリアルみたいな大会タイトルだったけれど、どこにアントニオ猪木がいるんだよ、って感じだった。
ファンはわかっているって、今の新日本プロレスにはアントニオ猪木の影も形もないことを。
旗揚げ記念日なんていう大会名も、アントニオ猪木と関係ない団体が使うのは違和感がある。
新日本プロレスは言ってること、とやってることが違うんだって。
つまり、カタチだけの猪木崇拝であって、やってることは、猪木のプロレスじゃないだろ。
もういいって、新日本プロレスは、創業者にもう変な忖度する必要ないよ。
「闘魂なんてわかんない」ってはっきり言ってる棚橋が社長になったのを、潮に、新日本プロレスは新体制がやりたいようにやればいいんじゃないか。
全日本プロレスには伝統があるか
そう言うと、手練のプロレスファンのあなたが、すかさずこう言ってくるよね。
「全日本プロレスだってそうだろ?」って。
まさに。
全日本プロレスはジャイアント馬場、ジャンボ鶴田が、ドリー、テリーのファンクス、ハリーレイスその他の元NWA王者たち、ハンセン、ブッチャーといった、超豪華外人レスラーを迎え撃つ、その絵が全日本プロレスだ。
無理だって。
あの時代の全日本プロレスを、令和の今に蘇らせる、なんていうのは。
馬場や鶴田みたいなデカいのはいないし、お金がないから強豪外人なんて呼べないし、そもそも呼ぼうにもNWA王者クラスの大物なんていないし。
新日本プロレスほど、創業者にアレルギーはないけれど、全日本プロレスの場合は、伝統を守ろうとしても物理的に無理だって。
でも、今の全日本プロレスは、新日本と一緒で、全日本プロレスの伝統と価値観を守ろうとしている。
最近やめちゃったけれど、石川修司みたいなでかいのを入れることが、全日本らしさではないって。
馬場の全日本プロレスは、「明るく、楽しく、激しい」プロレスとか言っていたけれど、今はあのときの全日本のリングを取り戻すことはできないんだって。
伝統にこだわるな
無理することはないよ、新日本プロレスも、全日本プロレスも、新しいプロレスにチェンジしちゃえばいいんじゃね。
もと全日本プロレスの中嶋勝彦が「闘魂スタイル」と言ったり、「1,2,3ダー!」をやったりして物議を醸しているけれど、あれは中嶋だけじゃなくて、今のレスラーのそのへんの欲求不満を表しているんじゃないかなあ。
中嶋勝彦の”反乱”は、猪木イズムを踏襲したいとかじゃなくて、「昔なんかくそくらえ、俺達のやりたいようにやらせろ」という、本音を叫んだだけじゃないかなあ。
とにかく、新日本プロレスも、全日本プロレスも、創業者のプロレスを守るなんて無理なんだから、もうそれは脱ぎ捨てろよ。
猪木は言ってるよ、
ようするに、新しい内容を古い形式に盛り込むなよ、どっちも生きねえよ、と。
そんなこと猪木は言わない、かな(笑)
マーケティング的に無理やり結びつければ、創業者の理念を頑なに守ろうとすると、組織には無理が生じ、いくらマーケティングを講じても売上は上がらない、ってことだね。
野呂 一郎
清和大学教授
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