フェイスブック解体で中国にやられるアメリカ

アメリカの二律背反

ウォールストリートジャーナル2021年7月6日号は論説で、Antitrust can hurt U.S. competitiveness(独占禁止法がアメリカの競争力を弱める)として、噂されるグーグル、フェイスブック等の解体に警鐘を鳴らしています。

記事はこの文章から始まります。
テクノロジーと経済に関して、アメリカは二つの矛盾したゴールを持っている。 一つは先進テクノロジー部門で中国と競争して勝つこと、もう一つは、アメリカのテクノロジー企業に独占禁止法をしっかり適用することだ。

しかし、筆者のInformation Technology and Innovation Foundation社長のRobert D. Atkinson氏は心配をあらわにします。「今までのようなことをやっていると、それこそ中国にやられる」。

氏のポイントの一つは歴史に学べです。以下、アメリカ企業が独占禁止法で訴えられ、また脅かされた結果、他国および他国企業に致命的な逆転を食らった例です。

歴史に学ぶ、いかに独占禁止法が外国企業の勃興を許したか


独占禁止法取締でアメリカがやられた歴史1

1920年代初期、AT&Tはオーストラリア、ベルギー、カナダ、中国、ドイツ、フランスイタリア、日本に工場を持っていたが、通信装置の製作、流通を独占的に子会社のウエスタンエレクトリック社に委ねていた。米司法庁は独占禁止法の容疑をかけ、ウエスタンエレクトリックを分離しないとAT&Tを解体すると脅した結果、海外工場で装置を作ることに鳴った結果、外国のライバルが続々生まれることとなった。

独占禁止法取締でアメリカがやられた歴史2

1950年代の初期、これまたAT&Tの子会社Bell Labsはトランジスターの技術を持っていたが、司法庁はAT&Tに、ライセンスを外国企業を含め他社にも交付するように圧力をかけた。その結果、ソニーに消費者エレクトロニクス部門でリーダーシップを奪われ、ヨーロッパではエリクソンとシーメンスの台頭を許した。

独占禁止法取締でアメリカがやられた歴史3

アメリカはかつて1950年代に、テレビのテクノロジーでも世界の草分け的存在だった。Radio Corporation of Americaのおかげだったが、司法省は他の企業にもその特許を使わせるように迫り、その結果ライセンス収入目当てに日本企業と遭遇した結果、日本のカラーテレビが誕生した。

独占禁止法取締でアメリカがやられた歴史4

1972年、当時ゼロックスは先端コピーテクノロジーを誇っていたが、米国公正取引委員会(FTC:Fair Trade Commission)に独占禁止法の訴訟を起こされ、推定1700の特許をライバルに手渡すように命じられた。マーケットシェアの半分を失ったゼロックスは生き残りのために日本のFujiとアライアンスを組むことになり、それが富士ゼロックスとなった。

はたしてアメリカは正義を貫けるのか

米司法省、公正取引委員会がターゲットにしているのは、グーグル、フェイスブックといった超巨大テクノロジー企業です。巨大すぎるため誰も彼らの土俵には入ってこれません。

かつてマイクロソフトがそうだったように、ちょっと先進的な技術を見せつけるスタートアップがいればたちまち買収されます。インスタがフェイスブックに買収されたように。

公平な競争という考えからすれば、グーグルやフェイスブックは解体すべきでしょう。おまけにグローバルという枠を超えて、ネット空間を縦横無尽に駆け巡っているから、国籍や国境すら定かではなく、各国での取引量、売上量を基準とした課税もすべきでしょう。

しかし、しかしです。アメリカはいま、中国と冷戦中です。経済の覇権を争っており、その鍵を握るのがテクノロジーです。

グーグルを解体すれば、歴史が示すように海外企業とりわけ中国が喜ぶだけです。独占禁止容認派は「独占禁止法でムチうっても、中国なんかに負けない」と息巻いてますが、何ぜ相手は国家経済主義で資本主義の上を行くスーパー国家です。

アメリカはおかしな国で、弱肉強食のくせに、戦うルールだけはフェアにやろう、なんていうところです。でもこんどばかりは、どうなの?

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

ではまた明日。

                             野呂 一郎


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