ある取締役の失脚にみる、AIよりも「書くチカラ」。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:文章を書くチカラこそ、基礎の基礎であり、AIで書くことがおろそかになりがちな時代に、ますます重要だという主張。
クビの理由
薬剤師の友だちがいるんですが、彼女の勤めている病院で、ある女性管理職がクビを言い渡されたそうなんです。
その理由は「書けないから」。
友だちが言うには、こういう状況だったそうです。
僕は、示唆深い話だと思って聞いていました。
その管理職が13年も勤務できたこと、そもそも管理職になれたことが驚きですが、あらためて社会人に必要なのは、「書く力」だなあと感じられたからです。
AI時代に問われている文章力
若者の一部に顕著なのは、書く力、文章作成力がないことです。
でも今回解雇されたのは、40代の女性だから、若者だけとは限りません。
さて、一口に「書く力」というけれども、その本質は論理的であることではないでしょうか。
今書いた文章は、次の文章とつながってなくてはならないことを考えると、書くことが論理性を要求することは明らかです。
論理的な人が文章が書けるというよりは、文章を書くことで論理性が鍛えられる気がします。
文章を書くことは、ボキャブラリーを要求します。
言葉を知らなければ、当然のことですが文章は書けません。
漢字の知識も必須です。
「何いってんの、漢字なんてスマホやパソコンが勝手に変換してくれるから、覚える必要なんてないよ、漢検なんて要らないって」、という人がいます。
でも、書くことはスマホだけとは限りません、手書きが要求されるシチュエーションもあるのです。
いちいち、漢字をスマホで調べなければ書けないとなると、タイパが悪いことこの上ありません。
そもそも、漢字を知らなければ調べられないので、書けなくても漢字の知識は必須と言えましょう。
書くこととはアウトプットであり、アウトプットはインプットがなければうまく行きません。
よい書き手になるためには、よい読み手である必要があるのです。
現代において文章を書くには、知識をアップデートする必要もあります。
それには、話し言葉だけではなく、新聞で最新知識や雑学を仕込むことも欠かせません。
企画書は管理職のお作法
なぜ、書けないひと、つまりコミュニケーションに問題のある人が管理職を13年も続けることができたのでしょうか。
友人の薬剤師によると、薬局の競争が激しくなってきたから、だというのです。
僕の専門の人的資源管理という学問から考えると、こうです。
管理職の最も重要な仕事は、組織を向上させる提案ができること、です。
具体的に言うと、報告書と企画書の作成です。
報告書とは過去の出来事に対しての報告、企画書とは未来に対しての提案です。
前者は組織を向上させることに、一見関係がないように見えますが、ある出来事を報告書のかたちにまとめることで、現在の問題点が浮き彫りになり、改善の方向が見えてきます。
報告書は、事実を正確に記す能力と、それをまとめる力が必要です。
出来事を総括する中で、自然に組織向上にプラスになるアイディアが、文字になって出てくるはずなのです。
企画書とは、ざっくり言って以下の内容が求められます。
・現状の描写
・現状分析
・問題の指摘
・問題解決案の提示
論理性とボキャブラリーに加え、専門分野と幅広い知識が求められることがわかりますよね。
これからはデジタルやAIに強い管理職の時代だ、とかいう人がいますが、書く力なくしては、AIの知識など持っていても役に立たないでしょう。
時代がいくら変わっても、ビジネスの基礎は「書くこと」なのです。
今回取り上げたある管理職の蹉跌は、現代社会の陥穽を物語っているのではないでしょうか。
競争激化しているのは、ひとり薬局業界だけではないのです。
野呂 一郎
清和大学教授