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ブルーカラー労働者の逆襲

アメリカ労働者の給与が爆上がり

The Wall Street Journal2021年6月22日号は、Tight labor market returns The upper hand to workers (労働力がまた逼迫、労働者が有利に)という見出しで、アメリカ経済が急激に回復してきたことに伴い、いわゆるブルーカラーワーカーの不足が深刻になっていることを報じています。

アメリカではレストラン、交通関係、倉庫、製造といった非大卒の労働力不足が深刻で、企業は給与、手当、ボーナスを上げて人を集めるために必死です。

米労働省のデータによれば、5月の賃金は2020年の2月に比べ20.4%上がりました。Bank of Atlantaの調べでは高卒者の昇給ペースは大卒者のそれよりも速いことがわかりました。

マンパワーグループ北米オペレーションの 社長、ワイズさん(Becky Witz)さんは、現状をこう話します。

「低賃金の従業員が給料を押し上げており、とにかく人が足りません。面接に来るだけ企業はギフトカードを与え、長く働けば継続ボーナスも出ます。薬物検査やバックグラウンドチェック(背景調査)もスキップで即採用です。レストランなどでは人が足りなければ、オーダーが取れず売上も利益もでません、背に腹は代えられないのです」。

なぜ労働者の賃金が上がっているのか

ワクチン接種が経済の再開を促し、数度に渡る連邦政府の経済刺激策、利子率ほぼゼロ%が労働市場を逼迫させ、給与水準を押し上げています。

米中央銀行(連邦準備委員会)の役員は、失業率は2023年末までに3.5%に下がるだろうと言っています。これはパンデミックの前の最低水準を下回ります。

もう一つの理由があります。それは、今のアメリカ人に働く意欲がなくなっている、ことです。

働く気持ちが薄れてきているアメリカ人

エビデンスその1
労働人口シェアは、労働の意思があるか職を探しているかどちらかの人々の、人口比を示したものですが、2020年2月に63.3%だったのがこの5月には61.6%に落ちている。 これは潜在的な働き手が350万人減っていることを示す。

エビデンスその2
留保賃金(reservation wage)とは、人がこれなら働けるという最低の賃金のことだ。Federal Reserve Bank of New York の調べによると、2019年の終わり頃に52000ドル(572万円)だったのが、現在は61000ドル(671万円)に上がった。

日本と違い、バイデン政権は全国民に経済刺激策の名のもとに、潤沢なコロナ給付を実施、仕事もたくさんある、選べるので無理してすぐ働く必要はない、ということなのかもしれません。

ブルーカラー労働者のギャラアップ事例

事例1:時給増額
ミシンガン州在住、27歳の男性。以前は食品スーパー勤務だったが時給は14ドル、それでも店の最高水準だった。コロナ禍でも働かせられたが、昨今の経済復興で転職の機を伺い、エージェントの紹介で6社からオファー。時給16ドルプラス残業の条件で、店舗ディスプレイを扱う会社就職。今機械オペレーターの訓練を受けており、合格すれば時給は2ドル上がる。

事例2:ドライバー昇給
バージニア州在住のトラックドライバー。2年前の時給12ドル50セントから、16ドル50セントに上がった。会社の社長は昇給分を、クライアントへの配送料値上げを了承してもらったことで実現。

事例3:倉庫労働者が足りない
ある倉庫経営者は以前より給与を平均4%上げた。同業者に人を取られてしまうからだ。すでに90%が他所へ行ってしまった。新人倉庫の労働者の日給は99.25ドル(11,000円)からスタートだが、すぐに昇給予定だ。

会社としてはあと25の倉庫をオープンするためには、労働者が足りないので週平均50時間働かせている。残業代は通常給料の1.5倍に10時間掛けた額が余計なコストとしてかかる。従業員に無理をさせているので、燃えつきも心配だ。

低賃金労働者の給与が上がっているのは、完全雇用を目指すバイデン政権の戦略の一環でもあります。大統領はこの3月に2兆ドル(220兆円)のAmerican Rescue Planにサインし、一刻も早く完全雇用を実現しようとしています。

マクロ経済的要因


この問題、もう少しマクロ的な原因を探ってみましょう。エコノミストたちは以下の要因を指摘します。

 低賃金の国との貿易量が増えたこと→他国の低賃金の水準より多く求める
 低スキルの移民との競争→移民より高い給与を求める
 労組の組織率の低下→労組のバックアップがないから、個人で昇給を求める
 最低賃金がインフレの影響で実質もっと低くなっていること→今の時給では実質の生活レベルは低下するから、昇給を要求

アメリカ経済近未来シナリオ3つ

現状をこのように捉えることもできます。

見解1:ブルーカラー労働者の復権はフェイク
確かに現在は労働力不足で、一見、ブルーカラー労働者の復権かに思えます。しかし、この労働力逼迫を見た企業は、さらにオートメーションを強化、テクノロジーのさらなる導入に拍車がかかるでしょう。そうなるとまた労働力がダブつく

見解2:労働力不足がますます深刻になる
バイデンのバラマキがアメリカ人を怠惰にさせたのだ。移民や外国人台頭で、ますます親トランプの非大卒白人労働者は気分が良くない。テクノロジーではせいぜいロボットが店を走り回るくらいだが、そんなまどろっこしいことアメリカ人は好まない。テクノロジーやAIをレストランに導入なんて、土台無理だった。どんどんサービス労働者足りなくなるよ。

見解3:結局大企業が勝って、小さな企業はもうなくなる
ブルーカラー労働者の賃上げ競争は、結果として大企業のみを利するだろう。スーパー労働者は結局時給のいいウォルマートとか、ターゲットに行ってしまうからだ。ファストフードはマクドナルドとバーガーキング、ケンタッキーフライドチキンしか残らない。

経済は様々な要因が絡まります。経済学の理論通りには行くわけがなく、常に局地的な状況、世界の流れを考える必要がありますね。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

それではまた明日。

                             野呂 一郎


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