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アメリカ、対中戦略の切り札は全アジア富国化政策

アメリカは中国にやられるのか

この連載は日本のリーダーの皆さんと今世界で起こっていることを共有し、私の拙い分析を伝え、世界の中の日本のリーダーとしての役割を考える一助としていただくことを目的とします。その一つとして、日本に今後最も影響を与えるだろう国、アメリカと中国の政治を含めた最新情報の紹介は外せません。

今日はThe Wall Street Journal2021年5月11日号の論説欄(A15 Opinion)に掲載されたWalter Russell Mead氏による、アメリカの対中国政策についての論考をご紹介します。

さて、その前に政治に関してのわたしの考えを少し述べます。

フォーリン・アフェアーズに幻滅

ここ3年位、フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)という国際政治誌、これは最も権威ある政治出版物と言われていますが、読むのをやめたんですよ。

日本語版だったんで端折っているところもあったかも知れませんが、理由はどの記事も主観ばっかりなんです。

客観的な数字だとか、分析だとかがまるでない。でも考えてみれば政治は為政者の思いつきで動くもので、その意思決定はビジネスのようにデータや数字に必ずしも依りません。

そもそも政治自体が、政局という党や派閥の主権争い、利益誘導など結局は政治家自身の保身だとか、つまらない出世、権力獲得などの俗事にまみれているので、データや数字などの客観性と合い入れません。

だからいきおい、権威ある政治雑誌も推測だとか、観測に終始するのでしょう。

そうした政治の論考の中からでも、時折、これだ、と思うような真理、本質を探り当てた、と思うことがあります。その気づきを与えてくれるのがいつもThe Wall Street Journalの記事なのです。

また、私のジャンルである経済、経営は”時代の空気”を読むことが非常に重要だと考えます。この連載を通して、アメリカのトップたちが中国をどう考えているかもお伝えしたいと思っています。

さて、今回の記事をまとめてみましょう。著者Meadさんの結論はこうです。

「アメリカは中国を抑えるために、アジア諸国の発展を手助けすべきだ」。


アメリカの対中国政策についての様々な意見


・中国政策をソフトにしろ、なぜならばアメリカの国力が弱まったからだ
・北京は張子の虎に過ぎぬ、アメリカが過大視する価値はない
・ワシントンは中国の攻撃から台湾を守るという正式の声明を出せ
・習近平はオープンな社会にとって最も危険な敵(ジョージ・ソロス)
・中国の新疆ウイグル自治区への対応はジェノサイド(genocide 大虐殺)である
・米中問題を簡単な枠組みで考えすぎな。戦争をあおり、中国の資産を過大に見積もり、中国脅威をいたずらに煽り立て、とどのつまりは「中国に怯える弱体化するアメリカの覇権」という具合だ
・中国は1930年代のアジアを支配しようとした日本のように、そこに覇権の機会があるから取りにいくんだ、という姿勢だ
・インドインドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、バングラディッシュそしてビルマ諸国がそのポテンシャルすべてを発揮できた日には、中国はそれらの国を支配もしくはコントロールすることができなくなるだろう

野呂の意見:

Mead氏は今の中国を1930年代、アジアを支配しようとした日本に例えているのが少し気になりましたね。日本がアジアを支配しようとしたことを、Dash for power(覇権を握るためのダッシュ)と表現し、それに気をつけろと言っています。

歴史問題は厄介ですが、日本の政治家は戦時中の日本の行動について、適切な説明が出来なくては世界とやっていけないと思いますね。

また一方で、ヒートアップする米中摩擦に冷静になるよう呼びかけていると感じました。軍備拡張は破滅の道をたどることを中国が理解していれば、平和は保てる、とか、米中関係の見通しは明るいとか、中国内タカ派はほっておけとか、です。

彼は米中関係についてのステレオタイプ、強くなる一方の中国に怯えるアメリカ、というレッテル張りをなんとか引き剥がしたいようにも感じました。

政治の本質とは

政治は客観的なデータや科学性がないからやっかいだと申し上げましたが、Meadさんの以下の言葉は、本質をついていると大変勉強になりました。その部分を直訳するとこうです。

「政策が現実的なコストと結果のアセスメント立脚していないならば、状況が悪くなった時に、母国の投票者と海外の同盟国が支持しない政策にコミットすることになる。」

わけがわかりませんが、意訳するとこうなります。

「政策はすべからくコストを考えるべきだ。そして結果としてでてくるはずの利益と、コストを考え合わせるのが政策の根本である。中国問題のような国際問題では、政治家は自分の選挙区の動向も見ながら、国内世論を考えるべきで、 一方で同盟国とのコンセンサスも作らなくてはならない。中国政策は、政策のコスト分析に加えて、国内世論と同盟国の意見が一致してはじめて可能になる。」

日本もアメリカも、政策を決めるとき、政策がもたらす好ましい結果と、それを生むためのコストを考えるべきです。

この記事もそうですが、どうも中国問題はムードに流されていると感じますね。いまこそビジネス流のコスト/ベネフィット分析が必要ではないでしょうか。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

それではまた明日お目にかかりましょう。

                             野呂 一郎

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