『ルックバック』ポスト大衆社会の芸術家物語
芸術家を主人公にした作品といえば、ジョイスの『若い芸術家の肖像』、ウルフの『灯台へ』、モームの『月と六ペンス』あたりから『ブリキの太鼓』や『この世界の片隅に』に至るまで、いくらでも名作があると言われそうだが、『ルックバック』が特筆に価するのは主人公の藤野が孤高の芸術家や知識人としてではなくて、徹底的に文化産業の駒として、つまりそのあたりにいる勤め人と同じような人種として描かれている点だ。担当編集者にアシスタントについての不満を訴える藤野のイライラほど、芸術家の狂気から程遠いも