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やる気ファイアー理論? 炎を保つ!(問いギャルシリーズ)

こころ「何読んでんの?」
エリ「独学大全って本」
こころ「へー。どんな本?」
エリ「独学について色々書いてあるの」
こころ「いやそれはわかるんだが」

休日の朝、二人はファーストフード店の二階席で100円のホットコーヒーを啜りながら、それぞれ勉強していた。エリの机にはアップルパイの抜け殻(包み紙)が重なっている。こころは、彼女のスイーツ食べすぎに対して呆れるのも飽きていた。

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柄村こころ:軽度の社畜。勤勉家。趣味はヒトカラでシャウト。

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珠華寺エリ:意外にフリーランス。意外に読書家。ナチュラルにギャル。

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こころ「独学、まさに今の私の状況ね。おもしろい?」
エリ「うん。てかタメになるというか。……ゴホン。『志の強さは、それを立てた瞬間にではなく、自身の行為や思考を絶えず志に結び直した、その繰り返しの中に生じる。』……Kindleの位置No.843-844より~」
こころ「ご丁寧に引用どうも……確かにおもしろそう」

こころは、エリが大変な読書家で、あー見えて、実は物事を深く考える人であることを知っている。

エリ「つまり私がアップルパイを繰り返し食べるごとに、志が強くなるってワケ」
こころ「……は?」
エリ「そういうこと」
こころ「いやどういうことだよ」

やっぱりコイツあんまり考えてないかもと思った。

こころ「志ねぇ……確かにこの資格勉強始めたときは、合格っていう志を持ってやる気もあったけど……なかなかモチベが続かんわ~」深いため息。
エリ「そーね。志を立てたその時!……の志は、そんなに強くないってことだね」
こころ「志を立てて緻密なスケジュールを作っていざスタート! ……まぁ、一週間後には崩壊してるっていうね」
エリ「あるあるw」

こころは開いていた資格の本とノートを一度閉じて、大きく背伸びをする。
エリも勢いよく本を閉じて、声を上げる。

エリ「エリ教授による、やる気ファイアー理論講座~」
こころ「何、急に」
エリ「やる気に悩むあなたがた必見!」
こころ「”がた”って誰だよ」
エリ「やる気ファイアー理論を学べば、1か月で人生が変わる!」
こころ「怪しいやつじゃん」

エリ「やる気ってさ、火に例えられると思うの。ファイアーね」
こころ「まぁ、わかるよ。燃えたぎる、とかいうもんね」
エリ「ほかにも、燻(くすぶ)る、内なる炎、燃え尽きる、とか」
こころ「そう言われると色々あるね」
エリ「やる気に関する悩みって、いくつかに分けられると思うの」
こころ「何?」

エリ「その1、燃料不足! ファイアーが消えちゃうってことだね」
こころ「まぁよくあるね、というか大体の悩みがそうなんじゃない?」
エリ「志を立てたその瞬間は、バアッてファイアーするんだけど、すぐ消えちゃうっていう。こころ、バーベキューとかで火起こししたことあるでしょ?」
こころ「うん」
エリ「そゆこと」
こころ「どゆこと?」
エリ「紙はすぐ燃えてボッって炎が出るけど、すぐ燃え尽きちゃう。炭は火がつきにくいけど、長く安定して燃えるよね」
こころ「あー、志を立てた最初は、まさに紙が燃えたみたいなやる気ってことね。まぁ言えてるかも」

エリ「でしょ。だからね、紙っていう燃料はすぐ燃えて良いんだけど、もっと長くじっくり燃える燃料も必要ってワケ」
こころ「たとえば?」
エリ「だから、炭とか」
こころ「いやそうじゃなくて、現実に置き換えると?」
エリ「それは自分で考えんしゃい」
こころ「意外にスパルタ……」

エリ「その2、続いてるけど火力が弱い!」
こころ「なるほど」
エリ「一応炭に火はついているけど、火力が弱くてお肉が焼けないよーっていう状態ね」
こころ「そういうときは酸素が足りなかったり、燃料の数が足りなかったりってのが原因だね」
エリ「そ。納得でしょ?」
こころ「ん-、でその、酸素ってのは何?」
エリ「自分で考えしゃい」
こころ「うーん、理論と呼ぶには漠然としてるような……まぁでもちょっと発見はあるかも」

そんな指摘を受けながらもエリは無駄に誇らしげな表情だった。彼女は半分の水が入っているコップを「まだ半分も水が入っている」と考えるタイプだ。
こころはコーヒーカップを手に取り口に運ぶ……気づいたらほぼなくなっていた。

こころ「炭にあたるのは、もともとの動機とか、志とか、目標とか、習慣とか……内側からやってくる、そういうのかもね」
エリ「ふむふむ」
こころ「酸素は……なんだろう、栄養みたいなものだから、やってる過程の楽しさとか、成長の実感とか、誰かの応援とか、かな」
エリ「さすが~」

こころ「思ったけど、外部からの影響で火が消えちゃうパターンもあるよね」
エリ「と言うと?」
こころ「風が強すぎたり、水をかけられたり」
エリ「あーたしかに」
こころ「そうならないために、風よけで守ったりする」
エリ「それも理論に加えといて!」
こころ「雑だな……」

エリもどうやらコーヒーを飲み終わったらしく、コップをさかさまにしてぽたぽた落ちてくるしずくを口に落としていた。

こころ「よし。そんじゃ勉強、第二ラウンド行こうかな。コーヒーおかわりしてくるけど、エリは?」
エリ「ありがと、コーヒーとアップルパイ!」
こころ「うそでしょ、まだ食べんの?」
エリ「えー、じゃあ2個に減らす」
こころ(何個食べるつもりだったんだ……)険しい目つきでエリを見つめる。

エリ「エリにとっては、アップルパイが酸素なの!」
こころ「人間にとっては、酸素は取りすぎると中毒になるんだよ」


自分の能力や現状を無視して目標を設定しても、達成できないばかりか、自信を喪失し、モチベーションを失うこともあります。「少しがんばれば達成できる」 スポーツ心理学では、そういう目標を設定するのが、いちばん適切だとされています。

荒木香織.ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」(講談社+α新書)(Kindleの位置No.1062-1064).講談社.Kindle版.
苦労を苦労と思わず、その先を見据えて楽しんでいる。「苦労を楽しむ」という錯覚をしている状態です。そうすることで、思いも寄らなかった結果を得ることができたり、成功をつかむことができるのです。

西田文郎.錯覚の法則(Kindleの位置No.82-84).大和書房.Kindle版.
やめようにもやめられないなら、挫折してもまた性懲りもなく始めてしまうなら、そこにお前さんの独学を動機付ける核があるんだろう。

読書猿.独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法(Kindleの位置No.724-726).ダイヤモンド社.Kindle版.

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◆問いギャルシリーズ
世の中ってホント理不尽! それでも、たくましく生きていく乙女たちの日常と、ひとくちヒント。

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◆文・イラスト・デザイン:ノーマル浮枝

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