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やもすると一日いっぱい家にいて 半熟玉子つくるなどして 変愛小説集 岸本佐知子編訳
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夏を見送る用意は出来ている。
本は、読み終わったとたんに内容をすべて忘れてしまうものである。
すべて忘れてしまう、は云い過ぎか。
でもその内容を伝えろ、と云われたら私はとたんに戸惑ってしまう。
説明が下手、というところもある。
あらすじを説明するなんて、さらさらそんな気は起らない。
読んでみろよ、ということだけが精いっぱいの贈る言葉だ。暮れなずむ町で。
印象がそこに残るだけだ。
印象しかそこには無いから、そいつを説明するのは至難の業だ。
印象はカタチをもたない。
表情も匂いもそこにはない。
いや、あるにはあるのだが、じゃあそれを具体的に説明せよ、と云われたら私はやはり戸惑ってしまう。
無言でそこに突っ立ったまま、暮れなずんでいく町を眺めるだけだ。
ごみをすてる為にアパートを出たらコンビニエンスストアのビニル袋が足元を舞っていた。風に舞っていたのである。
それは生き物のように私の足首に絡みつきそうになった。
私は気味が悪くなって、さっと足をよけた。熟練のボクサーのように。
あれは生き物だった。性別を持たない、ナヨナヨした生き物だった。
いつまで夏だと思っているのだ、という感じでなかば呆れている、それはモノクロの風であった。
説明困難な出来事をこと細かく描写して、たとえばそんな日常を偏愛している。そんな変態どもがペンを執り、物語に仕立て上げたかのような、けったいな小説集である、本書は。
作者たちは是非とも常識人であって欲しくない。
読んでる自分も生きていて良いのだ、と思わせて欲しいと思う。
願う。
ルールはあるようで無いのではないか。
ルールを作るのも、それを無視するのもその作家しだい。
訳者の岸本佐知子はあくまで定点観測者であり、無表情で事の成り行きを見守っている。片手にペンをしっかり持って、随時記録をしているのだ。
その姿勢とテンションが最初から最後まで変化しなかったことが嬉しい。
何度も云うが私は彼女を信頼している。
仮に裏切られることがあっても、それも含めて彼女は信頼するに値する女性なのだ。
1102320
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