B35-2021-16 居心地の悪い部屋 岸本佐知子(編・訳)

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 この本を読んだあと夜眠ると、ひどい夢を見る。
 僕は自転車に乗っている夢を見た。
 誰かと会う約束をしていて、急いで自転車をこいでいる。坂道を下っている。それはいい。ただ、その下りの坂道が極端に急勾配なのだ。坂道を下っているというより、垂直に落下してるといってよい。でも夢の中の僕は、どこかその殺人的な下り坂を楽しんでいる。急がなきゃ急がなきゃ。
 それでようやくいちばん下にたどり着いて、ふと気づく。この道が間違っていたという事を。

 こんな理不尽でシュールな世界がこれでもかというほど出てくる小説集で、軽い気持ちで入っていったのだが、もうだめ、途中で本を置くことはとても難しい。
 まず思い出したのは、低予算にもかかわらず、これが意外に残る映画を観た感覚だ。得した気分というか、圧倒されるというか、世界にはとんでもないクリエーターがゴロゴロいるんだということ。


 白眉は「ささやき」かなあ。
 ストーリーが面白いというのはもちろん、「笑える」ということでもおもしろい。そして最後のシーンにぞっとする。
 どうしたらほんとにこんな発想が生まれてくるのか。不思議である。
 他の作品もすべて優れており、永遠の往復ビンタのよう。自分の足もとが、グラグラするような感じであった。
 あいかわらず岸本佐知子は信用が出来る。もしも決定的に絶対的に、裏切られたとしても、それ込みで信用できるのだ。


 

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