B45-2021-26 エンプティ・チェア  ジェフリー・ディーヴァー(著) 池田真紀子(訳)

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20代の始めころでした。
映画『ダイハード』を観たんです。
衝撃でしたね。
なにしろスリリングでした。あの映画、たしか2時間以上あると思うんです。けれど長いなんてちっとも感じなかった。
とにかく、あの映画の世界に引きずり込まれるんです。
散らばったガラスの上を、自分もブルース・ウィルスと一緒に逃げ回っているような、痛み苦しみ運の悪さ、そしてワクワクドキドキを出演者たちと、あるいは映画館内にいる名も知らぬ人達と一緒に共有してた感じがしました。

映画ってほんとに良いもんだなあと感じた記憶があります。
あの修羅場を体感して、でも映画館から出ると現実に戻る。まがりなりにも平和な日常が、そこにあるんです。
その落差にホッとするような、ちょっとだけ残念なような、不思議な感情を持ちました。
でもそんなことも映画というものを味わう、ひとつの楽しみだったような気がしますね。

ジェフリー・ディーヴァーの小説には、あのころ映画館で味わったような興奮が、間違いなくあります。
僕は映画には映画の、小説には小説の、それぞれの持ち味があると固く信じています。それをごっちゃにしちゃいけません。ぜったいに。
でも矛盾しているようですが僕はしばしば小説を読むように映画を観ます。映画を観るように小説を読みます。
ここで僕が云いたいのは、ジェフリー・ディーヴァーはあくまで小説としての「作品」を徹底して貫いている、ということです。
これを映像化させよう、とかそんなチンケなことは微塵も考えていない。
むしろ出来るもんならやってみなさい、みたいなところすらあるんじゃないかと邪推するわけで。勝手にだけど。

さておき、とにかくこの小説はもう、すごいね。これ読んだあとは、つぎ何読めばいい?って思っちゃう。まあ、次探して何かは読むんですけどね。
ちょっとこの作品について何も言い切れてないのが自分でももどかしいんですが、とにかく読んでみろよとそのへん歩いているひとの襟首つかんで云いたい。
もっともこれは2001年ころに発行された作品だからすでに古典の領域でじゅうぶん人口に膾炙しているわけだけども。
まだ未読の人がいると思うので、これは勧めたい。
張り巡らされた伏線と見事に回収されるカタルシス。
そして何しろ、愛がある。
ことさらそれを声高には云ってないけれど、そこがまた良いんですよね。
いやあ、良質のミステリってほんとに良いもんですね。

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