向田邦子ベスト・エッセイ  向田和子編

向田邦子ベスト・エッセイ

解説で角田光代も書いているが、自分も驚く。
自分が向田邦子の年齢を、いつの間にか追い越していることに唖然とする。
おいおい本当かよと思う。
しかも3つか4つもオーバーしているじゃないか。
いったい自分は何をやっていたんだと思う。
ただ酒を呑んで酔っ払っていたんじゃないかと思う。
そしてまったくその通りなのだ。
向田邦子のエッセイは(そして小説は)、昔から思っていたことだけど、名人芸の落語のようだと思う。
そこには音楽がある。
時代の匂いやざわめきがある。
そしてその向田邦子的世界に浸っているだけで、とても倖せな気持ちになる。
たとえ物語が不穏なものだったとしても、読み終えてしっかりと胸に抱きたくなる充実感がある。
いいものを読んだ、という満腹感というか。
それはきっと文章が善いからだと個人的には思う。
誰にも真似の出来ない、彼女にしか書けない文章だ。
中学生の頃にはじめて向田作品と出会って、50を過ぎてもなお、このように感動出来る作家がいることが本当に良かったと思える。
作家はもうこの世にはいないかもしれない。
けれど作品はこのようにいつでもそばにある。
会いたい時に、いつでも会えるのだ。
そのしあわせを、あらためてかみしめる。

B61-2022-13

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