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言葉が意味をなさなくなった時


現代英語圏異色短篇コレクション アホウドリの迷信 柴田元幸 岸本佐知子


言葉が意味をなさなくなった時、
言葉はいったい何になるのだろう?
言葉はただの毒になるのだろうか。
それともただの“音”として君や僕の風景になるのだろうか。

もしもそうだったら、それはそれで素敵だな。
まるで音楽みたい。
意味なんて誰にもわからないのに、
なぜだかみんなが涙を流していたりする。
笑っていたりする。
それはそれで素敵かも。

空調の壊れた映画館にひとりぼっちで
残されたように
孤独で
空腹で
幼い。

ほとんどすべての無力を集めたように
それは絶望的だ。
眼だけで訴えられると思うな。
親しい者どものぬくもりにすがるな。
夕焼けが西の空に見える頃、
とても大きな存在が
諭してくれるだろう。
気づかせてくれるだろう。

いつか誰かを殺しそう。
君はそう思っているのだろう?

火曜日はいつも寝不足だ。
だから食器は洗わないまま布団に入ってしまいそうになる。
明日の朝、洗おう。
そう考えて歯を磨く。
口をゆすいで、
やっぱりいま洗ってしまおうと考える。
億劫だけど、
やってしまおう。
やってから寝よう。
やってから寝よう。

殺してしまおう。
いっそ
何も考えずに殺してしまおう。
家族も、
恋人も、
友達も財産も。
なんにも考えずに
殺してしまおう。

三十年後に会おう。







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