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情報の価値は「内容」から「パーソナリティ」にシフト。ポッドキャスト開始から1年で気づいたメディア消費の大変化

世界の新しいビジネストレンドを伝えるポッドキャストグローバル・インサイトを配信し始めて、早くも1年が経過した。毎週3回の配信は軌道に乗り、リスナー数も順調に増加。累計再生回数は6万5000回に達している。

はじめは、記事の読者数を増やすために始めた試みだったが、この一年、リスナーとのコミュニケーションの中でたくさんの発見があった。この一年を振り返って見えてきたポッドキャストの意義新しい可能性、そしてこれからやってみたいことをお伝えしたい。

すそ野が広がったリスナー層

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 『グローバル・インサイト』は2019年12月からスタートした。日本時間で毎週月曜、水曜の夕方と土曜日の朝イチに配信。「Spotify」上のフォロワー数は1950人で、日本のポッドキャストランキングでは150~170位あたりに位置している。

 リスナーは60%が男性35%が女性。年齢別では「35~44歳」が30%と最多で、以下「28~34歳」「23~27歳」が続く。「ミレニアル世代の男性」が主なリスナーといったところだろうか。

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 1エピソードあたりの平均再生数は約500回。これまでで最も多く再生されたエピソード(「インフルエンサービジネスの終焉? 過剰消費に異を唱え”オネストレビュー”を求める若者たち」)は1000回に達している。

 番組を始めた当初は「メディアビジネス」に関するエピソードがよく聴かれていたので、リスナーはメディア関係者が多かったと推察されるが、最近は「働き方」「キャリア」に関するものがよく聴かれるので、リスナーの幅が広がっているのではないかと思われる。

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 もしかしたら、ポッドキャスト自体が以前は新しいメディアだったから「業界人」が主に聴いていたのが、一般の人にも浸透してきたということなのかもしれない。欧米に遅れて盛り上がってきた日本のポッドキャスト市場の拡大を受けて、ここのところ僕の番組も日本のリスナーの増加が目立っている

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リスナーは配信者のパーソナリティに反応

 もともと、このポッドキャストを始めた最初の目的は、記事で発信していた情報を再度音声メディアに載せることで、より多くの人に届けることだった。違うセグメントの読者にも読んでもらって、「読者数を増やすこと」に力点を置いていた。

 実際にポッドキャストをきっかけに記事に興味を持ってもらえることは多々あったと思うが、僕がこの一年でいちばん気づいたのは、リスナーは発信する情報の内容ではなく、ポッドキャストのパーソナリティに反応してくれるということだった。

 記事だと、それをシェアしてくれたとしても、それは記事の内容に反応しているのであって、多くの読者は書き手のことは認知していない。一方で、ポッドキャストをシェアしてくれる人のツイートを見ると、それを配信しているパーソナリティとつながるようなコメントが見受けられる

 僕はそういった反応、リスナーのツイートを積極的に拾いに行き、「つながりたい」と思ってコメントやフォローを返したりしている。

 例えば、先日は「世界小都市ランキング」について配信したところ、リスナーから「3位の福岡県糸島が気になる!」と反応が返ってきて、「行ってみたいですよね!」と会話がつながった。

 さらに、その糸島市に「よく行きますよ!」という反応も返ってきて、それがきっかけで先日は、リスナーに出演してもらい、糸島の魅力について語ってもらうエピソードも実現できた。ポッドキャストはリスナーとの関係が本当にすばらしいと実感している。

ポッドキャストはSNSとの相性も抜群

 個人が生の声で発信するポッドキャストは、個人と個人がつながるSNSと非常に相性がいいことも、この一年で実感した。

 生の声を聴いて「いいな」と思ったり、感じたことをつぶやいたりするというのは、ポッドキャストを配信している人へのアンサーでもある。そこから個人間のコミュニケーションが発生するのは必然と言えるだろう。

 僕はこの体験を通じて、これまでの自分のSNSの使い方が間違っていたことに気づいた。これまでは、大量の人にリツイートしてもらうことがSNSの価値だと思っていたのだが、数よりも、やり取りが発生することのほうが価値があると思うようになった。

 だから、自分が書いた記事が100万回閲覧されるのもいいが、それと同じか、それ以上に、リスナーからコメントがついて、会話へと発展することのほうが僕は楽しい。「発信してよかった」「聴いてくれている」という実感、幸福感を感じられるのだ。

 それからというもの、僕はSNSの使い方を変えるようになった。記事がバズることを期待してシェアするのではなく、もっとパーソナリティを出して、だれかとリプライ、リツイートしながらコミュニケーションをするような使い方。

 そのほうが他の人の目にふれやすいというのもあるし、「〇〇さんと共感している人」として、人と人との自然なキャッチボールを通して認知され、新たなつながりが生まれる。実際にこの使い方を意識してから、フォロワー数も結果的に増えている。

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情報の価値は「内容」から「パーソナリティ」へ

 今は情報の入り口がSNSになっている。つまり、だれかがシェアした情報が僕らの情報源だ。

 だから、その「だれか」をフォローしていなければ、その情報にふれることもない。情報も「この人が発信したのなら知りたい」というパーソナル化がどんどん進んでいると思う。

 この傾向から、僕は2021年、企業のブランディングやファンづくりにもこれを活かすことを提案したい。

 例えば、人材紹介会社のブランディングを考えたとき、企業としてのメッセージを発信するのもいいけれど、結局お客さん(採用候補者)と接点を持つのは、その中にいるエージェントになる。

 だとしたら、エージェント個人が考えているこれからの働き方や転職のティップス、特定の業界の労働市場の動向などを発信したほうが、「この人に担当してほしい」というファンを増やすことにつながるのではないだろうか。

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 同じことは、カフェ業界にも当てはまる。

 昔は「特定のカフェのコーヒーを飲むためにあの都市に行く」という感じだったのが、今は「そのカフェにいる〇〇さんというバリスタが淹れるコーヒーが美味しい」ということが顧客にとって大事なポイントになりつつある。

 つまり、バリスタのパーソナリティがカフェ全体を盛り上げているのだ。個人が企業の魅力を引き上げていると言ってもいい。彼ら彼女らがSNSなどで発するパーソナリティは、より多くのファンを惹きつけるに違いない。

 このように、人と人との接点のクオリティを上げていく方法は、すでに「DtoC」ビジネスではすでにみられる傾向だが、「BtoC」「BtoB」などあらゆるビジネスで活用できるのではないかと思う。

 社長が積極的にビジョンを発信するのもいいが、結局顧客と接点を持つのは現場の社員、マーケッターやデザイナー、エンジニア、コンサルタントなので、むしろそちらの魅力をありのままに出して、好きになってもらうほうが効果的。

 そのためには個人がパーソナリティを発信していかなければならないし、会社は個人をエンパワーメントすることが大事なのではないだろうか。そして、そうした個人のファンを増やすためには、先ほど書いたような理由から、僕はポッドキャストが最適だと思っている。

経験、価値観、人柄がコミュニティをつくる

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 「情報の内容からパーソナリティへ」を意識すると、僕の『グローバル・インサイト』ももっとパーソナルな性格を出していかなければならない、と思っている。

 海外のトレンドは、日本で調べて話すことも可能だけれども、海外に住んでいる人が現地から、時差や環境の違いのある中から感じたままをしゃべる、ということにすごく意味が出てくる番組だと思う。

 もしかしたら、情報の内容そのものにはもはや差別化ポイントはそんなにないのかもしれない。その人が生の声で伝えるその人の経験や価値観や人柄までを含めた情報に価値があるのではないだろうか。

 ポッドキャストを配信するにあたっては、ついついリスナー数を増やすことに主眼を置いてしまうが、僕は一年間のポッドキャスト経験の中で「量より質」だと気づかされた。何万人のフォロワーよりも、必ず反応してくれる100人がいてくれたほうがいい。

 だから、今年はもっとリスナーとのコミュニケーションの頻度を高めることに力点を置きたい。フォロワー数も結果的に増えればいい。

 今やスマホのニュースでさえ、一人ひとりが違うものを見ている時代。マスのファンやコミュニティは作りにくくなり、世の中には無数のコミュニティが存在するようになった。

 これからポッドキャストを始めたい人は、小さいながらも、熱量あるコミュニティの一つをつくるつもりで取り組むといいと思う。そして、とにかく、パーソナリティを発揮することをオススメしたい。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。
構成:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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