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これから翻訳の仕事はだれにまかせるべきか? 「訳す」のではなく「伝える」ために

ある雑誌編集者からの相談

僕のチームは、海外に散らばる編集者・ライターが集まるグローバル編集プロダクションということで、海外の動向を取り上げる記事を執筆することが多く、仕事のプロセスの中で、海外メディアの報道記事や海外企業のプレスリリースなど「翻訳」を行うことが多々あります。

そんな中で、コーヒー業界に特化した雑誌の編集に携わる友人から、「翻訳家の人に仕事をお願いしているんだけど、正直50点くらいの出来かな・・・と感じてしまう翻訳の原稿が送られてきて、結局自分が修正することになり困ることがよくある」という相談をされました。

彼自身、編集者ではあるものの、ほぼ「ネイティブスピーカー」と言っていいほど英語に堪能なため、どうしても修正すべき箇所が目についてしまい、きっと依頼された翻訳家の人にとっても「やりづらいだろうな・・・」と同情してしまいますが、僕からはこんなアドバイスをしました(Photo by Tim Wildsmith on Unsplash)。

翻訳家「ではない人」のほうがいい?

それは「翻訳家の人に頼まないほうがいいんじゃない?」というもの。僕のチームも、記事の執筆だけでなく、純粋に翻訳をまかされることもありますが、いわゆる「翻訳家」と呼ばれる人にお仕事を依頼したことはほとんどありません。

では、どんな人に依頼しているかというと「英語ができるライターさん」です。

これは、翻訳する対象となる文章の内容や、記事やマニュアルなど、翻訳した文章をどのようなアウトプットにするのか、によってもケース・バイ・ケースだと思いますが、傾向として、英語ができるライターさんにお願いした場合、出し戻しが少なくなるように感じています。

たしかに「翻訳家」と呼ばれる人のほうが、翻訳文としての「正しさ」では上回るのかもしれません。

ただ、先ほどの友人の話を聞いていると、翻訳された文章を確認する編集者としてはむしろ「読みやすさ」であったり、前後の文章を踏まえた適当な「言葉選び」といったところで苦労することが多いらしく・・・。

であれば、"翻訳家" には英語力と同じかそれ以上に「表現力」が求められるのではないかと思っています。

もちろん、今の機械翻訳では間違いが生じることもあります。しかし、その程度の間違いなら、ある程度英語が読めたり、英語の文章を調べながら読むことが苦でないライターさんであれば、正すことはできると思います。

個人的にはむしろ、一度ガチガチに翻訳された日本語の文章を、読み物として成り立つ文章に編集していくことのほうが時間がかかってしまうので、それならイチから自分が翻訳し直したほうが早い・・・と感じてしまうことくらいです。

やりたいのは「訳す」ではなく「伝える」

当然、翻訳家ではないライターさんに翻訳をお願いする場合、訳文としての正しさについてはお互いにより慎重に確認する必要があると思います。

それでも、翻訳文としての正しさだけなら、また他の人にチェックをしてもらうこともできますし、そのチェックを担える人というのは、表現力の高いライターさんよりも見つかりやすいと思います。

ですから、これから翻訳の仕事に携わる、あるいは仕事の中で翻訳というプロセスを経る場面がある人には、「英語ができるライターさん」を発掘することをオススメしたいと思います。

きっとそういうライターさんなら「もっといい表現はないか」という、「訳す」ことより本質的に大切な「伝える」についても相談に乗ってもらえると思いますよ。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


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