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企業は事例を知りたいわけではない? もしも編集者が「事例紹介ページ」を手がけるなら・・・

先日知り合いから、とあるベンチャー企業のWebサイトの「事例紹介ページ」を作ってほしいという相談が来た。これまで、経営者メッセージのようなページを作ったことはあったが、事例紹介ページの相談は初めてだったので、自分だったらどうするか考えた(Photo by HalGatewood.com on Unsplash)。

事例紹介ページにストーリー性はいるのか

この話が来たとき、まず最初に思ったのは「なぜ、編集者に頼むんだろう?」ということだった。いや、そんなに深い意味はなくて、自分のまわりに記事コンテンツを作っている人が僕しかいなかったから、僕を思い出したからという、ただそれだけのことなのかもしれないけれど。

ただ、少しだけ深読みしてみると、僕は普段インタビュー記事を作ることが多い。つまり、企業あるいは製品・サービスの魅力を伝えるにしても、それをそのまま伝えるのではなく、だれか登場人物の「ストーリー」として伝える。そんな仕事によく携わっているということだ。

だとすれば・・・ もしかしてこの事例紹介ページでも、製品・サービスを導入した企業の成功事例「ではなく」、導入した中の人のサクセスストーリーをある意味情緒たっぷりに伝えるという、事例紹介ページとしてはやや斬新なアウトプットを求めているのかもしれない。

と、要らぬ深読みをしたところで浮かんできたのは、「事例紹介ページに読者の感情に訴えかけるようなストーリー性は必要なのか?」という疑問だった。そんなページ見たことない、あったとしてもそれを読んで導入しようと思うのか。導入を目指すなら、もっといい構成があるんじゃないか、と。

人はなぜ、事例紹介ページを訪れるのか

そこでまず考えたのは、「Webサイトを訪れた人はどんな気分で事例紹介ページにたどり着くのか?」ということ。

おそらく、SNSやクチコミで製品・サービスの名前を知って検索、そしてトップページにたどり着くだろう。そこには製品・サービスの魅力を一言で伝えるコピーがあって、その下には機能と、それがもたらすベネフィットが続く。導入した顧客の声なんかも掲載されているかもしれない。

その後、事例紹介ページをわざわざ開くというのは、おそらくトップページである程度魅了され、「導入の検討段階」まで入っている可能性が高いのだろう。まれに、トップページの内容は響かなくても事例紹介ページで形勢逆転することもあるのかもしれないが・・・。

もしも、導入の検討段階まで入っているとすれば、おそらく次に訪れるページで知りたいのは「自分にパーソナライズされた情報」だろう。ジェネラルな機能やベネフィットは分かった。それが果たして、自分のビジネスにフィットし、ニーズにマッチするのかということ。

知りたいのは事例ではなくカウンセリング

つまり、知りたいのは「その製品・サービスは自分になにをしてくれるの?」ということ。だとすれば、ページを訪れた人が知りたいこと=こちらから伝えるべきことは、事例ではないんじゃないか。事例は自分にパーソナライズされた情報ではなく、どこまでいっても他人ゴトだからだ。

だとしたときに、作るべきは事例紹介ページではなく「カウンセリング」のページなのではないかと思った。「いや、事例紹介がカウンセリングの役割を果たすんじゃないの?」と思った人もいるかもしれない。たしかにそうかもしれないが、少しニュアンスが違う気がしていて・・・。

僕が思う事例紹介というのは、「その企業が」どんな課題を持っていて、それに対してなにをして、その結果どんな成果が得られたのか、ということ。おそらくページを作るときのプロセスは「その企業ありき」で考え、質問もその企業の取り組みを時系列で追うものになる気がする。

一方、カウンセリングというのは、あくまで「読者の悩み」を解決するもの。潜在顧客である読者が、今どんな課題を持っていて、それに対してこれまではどんなチャレンジをしてきたけれども、解決できなかったのか。その悩みを先行企業に直接ぶつけるイメージだ。

ページの構成や内容はまったくの別物に

たしかに、事例紹介ページを作成するにあたって、「すでに導入している企業担当者をインタビューする」という行いそのものは変わらない。だけど、上のようなニュアンスの違いを踏まえれば、インタビューの内容、つまり、ページの構成や内容はまったく違ったものになるだろう。

まず、インタビューでする質問が変わる。従来のインタビューが「御社の導入のきっかけはなんですか?」だとすれば、「読者は今こんな課題を持っています。解決するためのカギはなんだと思いますか?」から始めるのはどうだろう。潜在顧客が知りたいことを単刀直入にぶつけてみるのだ。

多くのインタビュイーは「そんなこといきなり聞かれても・・・」と戸惑うかもしれない。だけど、それでいい。なぜなら、その後インタビュイーは読者の悩みを深掘りする「逆質問」をしてくれるだろうから。そのことが、読者が本当に解決すべき悩みを特定するのを助けてくれるはずだ。

そして、読者が本当に解決すべき悩みを特定するからこそ、その後に続く、「ではなにをすべきか?」という解決策や、その結果、得られると期待できる成果に関するアドバイスの内容(そこにはもちろん事例が含まれる)が、より読者により響くのではないだろうか。

では、なにから始めればいい?

つまり、事例紹介ページを作るとき、まずすべきはインタビューに応えてくれるであろう導入企業をピックアップすること「ではなく」、潜在顧客である読者がどんなことに悩んでいるのか、その課題や目的をできるだけ解像度高く特定し、インタビューに臨むことかもしれない。

それに、話は冒頭に戻るが、このプロセスを踏めば、事例紹介ページはストーリー性溢れるものに「結果的に」なるのではないだろうか。読者が抱える悩みに対する深い理解と共感があれば、質問する側も、そして答える側も、思わず力がこもってしまうはずだからだ。

親身になればなるほど、「実は自分にもこんなことが昔あって・・・」と、読んだ人が思わず心を揺さぶられるような「個人的なエピソード」をインタビュイーも語ってくれるかもしれない。おそらくそれは、時系列に沿って淡々と質問していたのでは起こり得ないことだ。

・・・と、ここまで一人語りをしてしまいましたが、僕はデジタルマーケティングの専門家でもなく、また事例紹介ページ作りについていろんな試行錯誤をしてきたわけでもないので、ぜひデジタルマーケターやUI・UXデザイナーの方々からの感想を伺いたいです。Twitterでお待ちしています🐦

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


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