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織姫の継承-祖母の機から紡ぐ一宮の未来

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#一宮七夕まつり

現在、執筆中の作品は『織姫の継承ー祖母の機から紡ぐ一宮の未来』です。一宮は繊維の町として知られ、一宮七夕祭りも盛大に行われます。この織物と祭りの関係から着想を得て創作しています。

第一章 祖母の織物への想い①

真央の幼少期の思い出   真央が物心ついた頃から、祖母の佐藤つね子は常に織物に携わっていた。  古い機織り機の前に座るつね子の姿は、真央の心に強く焼き付いている。  「おばあちゃん、どうしてそんなに織物が好きなの?」 幼い真央が不思議そうに尋ねると、つね子は優しく微笑み、真央を膝の上に乗せて語り始めた。  「真央ちゃん、織物は命を吹き込む仕事なのよ。一本一本の糸に想いを込めて、模様を織り込むたびに、そこにはかけがえのない物語が宿るの。」  真央はつね子の言葉の意味を

第一章 祖母の織物への想い②

祖母から聞いた織物の神にまつわる伝承 真央が少し大きくなった頃、つね子は真央を神社に連れて行った。  境内に鎮座する真清田神社は、織物の神様・萬幡豊秋津師比売命を祀る由緒ある神社だ。  「真央ちゃん、今日は一宮のお話をしてあげるわね」  二人が参道を歩きながら、つね子が語り始める。  「この辺りは、むかしから織物が盛んだったのよ。 それもそのはず、一宮のお守り神様は織物の神様なのだから」  「織物の神様?」真央が目を丸くしてつね子を見上げた。  「そうよ。萬幡豊秋

第一章 祖母の織物への想い③

祖母の着物に魅了される真央  放課後につね子の家を訪ねては、織物作りを手伝うのが日課になっていた。  「ただいま、おばあちゃん」  「お帰り、真央ちゃん。今日は学校、どうだった?」  そう言いながら織機から顔を上げるつね子に、真央は笑顔で答える。  「うん、楽しかったよ。放課後が待ち遠しくてね、早くおばあちゃんのところに来たくて」  「まあ、そんなに楽しみにしてくれていたの? 嬉しいわ」  つね子は機嫌良さそうに微笑むと、真央を自分の隣へと招き入れた。  「今

第二章 織物の道へ①

真央の学生時代の織物体験 高校に進学した真央は、地元の織物会社が主催する織物教室に通い始めた。  本格的な織物の技術を学べる環境に、真央は胸を躍らせていた。  教室に足を踏み入れた真央は、整然と並ぶ織機に目を見張った。  糸を操る職人たちの真剣な眼差しと、規則正しく繰り返される杼の音が交錯する光景に、真央は圧倒される。  「新入生の佐藤真央です。織物を学ばせていただきます、よろしくお願いします」  真央が頭を下げると、講師の吉田亜希子が暖かい笑顔で迎えた。  「佐

第二章 織物の道へ③

伝統を守るプロジェクトの提案 織物教室に通って一年が経った頃、真央は伝統を守るプロジェクトを提案するようになっていた。  一宮の織物の価値を、もっと広く伝えていきたい。  そんな思いが、真央の中で日増しに強くなっていた。  教室の仲間を集めた真央は、熱心に語りかけた。  「一宮の織物の伝統を、みんなで守っていきませんか?」  「でも、具体的にはどうするつもり?」友人の一人が問いかける。  「まずは、一宮の織物の魅力を知ってもらうための、イベントを企画したいの」

第四章 御衣奉献大行列①

緊張の朝  七夕まつりの当日。  真央は祖母の形見の浴衣に身を包み、鏡の前に立っていた。  鮮やかな朱色の地に、金糸で織り出された鳳凰の舞。  その美しさに、真央は我知らず息を呑む。  「おばあちゃん…今日は絶対に成功させるからね」  真央は心の中で、亡き祖母に語りかけた。  御衣奉献大行列は、織姫の衣装を真清田神社に奉納する、七夕まつりの目玉行事なのだ。  その中で真央は、一宮の伝統工芸品を纏い、行列の先頭を歩くことになっている。  「佐藤さん、もうすぐ出