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エッセイ 水はこわい

 俳句をたまに詠んだりするので、生意気にも「流水」という俳号を考えたことがありました。流れのない澱んだ水は汚いですが、流れる清らかな水は、その音といい、たたずまいといい、とても美しいと思ったからです。でもやめました。昨今の大雨、洪水のすさまじさで水の恐ろしい面を改めて認識することによって、とても気取って「流水」などと名乗ってはいられないと思ったからです。
 最近琵琶湖で水難事故がありました。それで思い出した歌があります。
「比良の白雪溶けるとも 風まだ寒き志賀の浦 オール揃えてさらばぞと しぶきに消えし若人よ」
これは『琵琶湖哀歌』という古い歌の3番の歌詞です。昭和16年に琵琶湖で起きた旧制四高の学生が遭難した事故に対しての鎮魂歌です。琵琶湖は海ではないので、そんなに危険はなさそうに思いますが、案外事故は多いですね。
 その『琵琶湖哀歌』の2番に
「瀬田の唐橋漕ぎぬけて 夕陽の湖に出で行きし 雄々しき姿よ今いずこ ああ青春の唄の声」という歌詞があって、その時歌っていたのは『琵琶湖周航の歌』なんだろうなと思います。この二つの歌は非常によく似ています。鎮魂の意味で、たぶんわざと似せて作ったんだろうなと思います。
 さらに『真白き富士の嶺』の歌いだしで知られる『七里ガ浜哀歌』も似ています。こちらは鎌倉の七里ガ浜沖での遭難事故の鎮魂歌です。
 琵琶湖の西岸の高島市に、琵琶湖周航の歌の資料館があって、そこでこの3曲を聞き比べることができます。私が行ったのはもうかなり前ですから、今も聞けるかどうかはわかりません。今ならyou tubeで簡単に聞き比べられますけどね。歌のメロディとともに水の恐ろしさをしみじみと感じます。
 目に見える水だけではありません。能登の内灘では地震で大規模な液状化現象が起きて町が大変なことになっているようです。湖を埋め立てて水を征服したような気になっても、水はまだ生きているんですね。

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