見出し画像

なぜグローバル企業の経営陣は「定時退社」するのか?

グローバル企業の経営陣の退社は早い。突発的な事態がなければ、定時の6時にはまず帰る。なので、遅い時間にミーティングが入ったりすると、露骨に不機嫌になったりする。これはなぜだろうか?

意思決定の質が落ちてしまう

一番大きな理由は、コンディションが悪化すると「意思決定」の質が落ちる、ということを彼等がよく理解していることにある。グローバル経営においては、マネジメントすなわち意思決定する人、というのが明確に役割定義されていて、彼等の評価はその意思決定の質と成果によるところが大きい。

よって、マネジメント(マネージャー以上)を担うようになったら、きちんと毎日休息を取ってコンディションを整えるのも「仕事」である、との認識をみな持つようになる。例えば深夜まで仕事してしまうと、夜中に勢いで重大な決断を下したり、次の日に寝不足の頭で雑な意思決定をしたり、もしくはなかなか決められなかったり、ということが起こりうる。これを避けるために、できるだけ毎日「定時」に帰宅し、家族と夕食を取り、体と頭を休めつつ質の高い意思決定を継続的にできるようにコンディションを整えることが重要な「仕事」になってくるわけだ。

チームマネジメントの重要性

また、休息を取るのも仕事であると考えると、マネージャー自身が仕事を抱え込むことをせずに、適切にメンバーに振り分けることが必須となる。それには、メンバーの役割と業務内容、期待される成果をきちんと定義すること、自部門の仕事量がメンバーの許容量を越えないように計画すること、などのチームマネジメントが求められてくる。結果として、マネージャーの経営マネジメントのスキルも上がっていくことになる。

僕がマネージャーになりたての頃、自分で「作業者」としての仕事も抱えて死にそうになっていた時、隣の部署の大ベテランのマネージャーに言われたことがある。

「あなた目一杯でやりすぎ。それでどうやって突発事態への対応や新しい事への挑戦をするの?常に余裕持ってないマネージャーダメすぎ」

 こう言われた時は「そうは言うけどさ、仕事が降ってくるんだからしょうがないんだよ!」と正直思った。でも、その後、徐々にマネージャーとしての経験を積むうちに、「余裕」を持つことがなぜマネージャーにとって重要なのかが腹落ちするようになったのを覚えている。

長時間労働が生産性への意識を弱くする

かたや日本では依然として管理職、非管理職を問わず長時間労働は常態化している。この状況は、上記したように、コンディション悪化による意思決定の質を下げるリスク、の他にも弊害がある。それは、長時間労働を厭わないことが普通になると、業務の標準化や効率化、アウトソースの本質的なメリットや価値について理解できず、結果実行されないという点だ。

欧米グローバル企業では、ここ20年くらいで間接業務を標準化し、SAPに代表されるようなERPパッケージを導入する、もしくは、インドなどのオフショアに業務をアウトソースすることが一気に進んだ。一方で、日本の大企業はSAPなどの導入は一定程度進んだものの、業務の標準化やそれに伴う間接部門改革、さらにはオフショアへのアウトソースなどについては、国際標準からみると依然かなり遅れていると言わざるを得ない。

この遅れの理由はかなり多面的だが、一つの大きな要因は、日本企業に、仕事の課題はリソースの徹底的な投入によって解決するものだ、という文化がまだ根強いことがある。この文化は結果として従業員の長時間労働を招くし、現状の業務を分析し、そこから浮かび上がった課題を踏まえて業務標準化や効率化を図ることへのインセンティブを失わせる。

このことは、経営レベルで見ると、間接業務を中心としたオペレーションコストの最適化を難しくさせ、結果的に国際標準でみて日本の利益率が低いことの一つの要因になっている。さらに、低い利益水準は、大規模投資や次世代への技術投資を躊躇わせることにも繋がっている。

「長時間労働」の常態化は従業員の健康や生活に負の影響があるというのはみな分かっている。しかし、上記したように、「意思決定」や「業務改革」といった経営レベルの課題に直結していると意識している人は少ないだろう。この点の改善がないと日本の大企業がグローバル化していくには難しいと感じている。

注)この記事は以前別のブログに書いた記事を加筆修正しました

-------------------

ツイッター(とくさん@nori76)でもビジネスで役に立つ情報や本を幅広く紹介しています。フォロー頂けたら嬉しいです!




 
 

記事を楽しんでいただけたでしょうか。シェアいただけたらとても嬉しいです。