マッキンゼーが提唱する「らせん型組織」とはなにか?
マッキンゼーの論考「The helix organization らせん型組織」が興味深い内容なので訳していきたいと思います。
本論では、まず世界の大手企業のCEOが、事業構造の変化の激しい今のビジネス環境に対応した組織モデルを模索していることが述べられます。そして、この解決策としてマッキンゼーは「らせん型組織」を提示しています。
ではその冒頭の部分を訳してみましょう。
(始)-------------------------
我々が提唱する「らせん型」の組織はまったく新しいアイディアではない。過去数十年にわたり、プロフェッショナルファームや法律事務所では見られたモデルだし、最近ではアジャイル型組織でも活用されている。しかし、そのモデルにいままで明確な名前や定義は与えられてこなかったし、組織のボトルネックを解消し、集権化のバランスをうまく取るために有効であることは、十分に知られてこなかった。また、大きな組織に導入されたケースは少なく、導入した組織でも旧来型のモデルに逆戻りしていくことがよく見られた。これは「たまたま」失敗したわけでなく、らせん型組織をうまく導入するには、多くの組織で当たり前になっていない、マネジメントのマインドセットや人事モデルの基盤が必要となってくる。本稿ではそれを論じていく。
簡単に言うと、らせん型組織の秘密は、従来の階層型の組織を2つの異なる、それぞれに権限を持ったラインに再編成するところにある。そして、この2つのラインは、ほぼ同じだけの権限を持ちながら、本質的に異なる機能を担う。
片方のラインは、人材の育成を担い、仕事の基準を定め、組織がうまく機能してくために働く。もう一つのラインは、日々の実務も含めて、事業において優先順位の高いアクションにフォーカスし、付加価値を生み出し、優れた顧客体験の実現に注力する。
組織階層をばらして、一人がリーダーシップに責任を持つことで、従業員が、採用・解雇、仕事のアサイン、昇進、評価、インセンティブといったそれぞれの機能について複数の「上司」とやり取りしなくてすむようにする。これによって、司令系統をはっきりさせ、衝突を減らし、スピードと柔軟性を担保することが可能になるし、マトリックス組織がそもそも解決しようとしてた課題にまっすぐに向かい合うことが可能になる。
本論考では、どういった場合に「らせん型組織」がうまく機能するか、どんな課題を解くことに有効か、そして、組織がうまく機能することを妨げる旧来型の考え方から、経営陣がどうやったら逃れることができるかを説明する。らせん型、のアプローチは、アジャイル組織に近いところがあり、適用できる組織は多い。旧来型のマネジメント手法の実験的な代替案、という位置づけを超えて、らせん型組織は論理的かつ重要な組織アプローチになりうると我々は考えている。
らせん型組織は、マトリックス型組織が置かれた文脈において考えるのがおそらく最も理解しやすいだろう。つまり、マトリックス組織は、大企業の各部門、地域、チャネル、そして事業部門をうまく統合することを狙っていたがそこに苦戦していること、そして、数十年の試行錯誤の結果、特に最近では人事マネジメント(people-management)の構造や文化のところで課題が大きくなってきている。
従来のマトリックス組織では、組織図に沿って「直属の(Primary)」一人の上司が定義されている。そのうえで、「補佐する(Secondary)」形でDotted Line*と呼ばれる役割が置かれることがある。この直属の上司は、リソースを持ち、予算を管理し、採用・解雇、昇進、人事評価から、方向性の提示、メンバーのサポート、日々の仕事の優先順位付けなども担う。
(*訳注 外資系企業の日本法人では、日本法人に人事権を持った直属の上司がいて、その上で、Dotted Lineと呼ばれる自分が属している機能をリードする上司が海外の「本社側」に置かれることがあります)
1950年代初頭に科学者によって発見された、二重らせんの構造を持つDNAにヒントを得て、らせん型組織は1人のマネージャによって担われていたタスクを、2人の異なる、しかし等しく力を持つマネージャーが担う形を取る(以下図表を参照)。この2人には、マトリックス組織で見られるような、どちらが先か後か(プライマリかセカンダリか)といった区別がないことがとても重要なポイントになる。片方の上司は、採用・解雇、昇進、トレーニング、スキル育成といった役割を担う。もう一人の上司は、仕事や目標の優先順位付け、タスクの遂行の日々のサポート、仕事の品質の管理といった役割を担う。
-------------------------(終)
以上冒頭の議論を訳してみました。「らせん型組織」のマネージャーを2人置いて、片方を「採用や人材育成」、もう片方に「事業の遂行」の責任を担わせる、というのは面白いかも、と個人的にも考えていたので、非常に興味深いです。この後にどうやって運用していくかの具体的なケース・スタディが書いてあるので、引き続き訳していきたいと思います。
最後に、このnote記事では、訳出した議論を補足する形で、欧米企業においてマトリックス型組織が生み出す「サイロ化」の課題について書いてみたいと思います。
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