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ヘルシオを支えた特許!!

【経営者のための知的財産情報】

 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「ヘルシオを支えた特許」をお伝えします。
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http://www.sakaoka.jp/contact

1.ヘルシオが発売20周年

 少し前のニュースにて、シャープ株式会社が製造販売する調理家電「ヘルシオ」が、発売20周年を迎えるとありました。

 「ヘルシオ」は、「水で焼く」機能を備えております。
 水で焼くとはどういうことかと申しますと、100℃以上に加熱した「過熱水蒸気」を用いて食品を調理することです。

 通常のオーブンレンジの熱風と比較して、ヘルシオの過熱水蒸気は約8倍のエネルギーがあるのだとか。
 これにより、様々な利点があるようです。
 ※参考文献 シャープ株式会社HP「https://jp.sharp/range/difference/」

 さて、こんなによい製品であっても、特許などの知的財産権がなければ、他社にすぐ模倣されてしまいますね。
 ということで、今回はシャープの「ヘルシオ」を支えた特許について紹介していきます。

2.特許分類とヒット件数

 さて、いつものとおり、シャープ株式会社のヘルシオに関する特許を検索してみましょう。

 (1)テキスト検索
 先ず、予備検索としてシャープ株式会社が出願人である文献の中から、全文の語句「電子レンジ」及び「過熱水蒸気」が含まれているものを抽出してみます。

 ここでは、出願人としてシャープ株式会社の識別番号である「000005049」を用います。
 何故なら、似たような名称の会社があったとき、その会社の文献もヒットしてしまうからです。

 ここでの検索は、昭和46年以降で74件ヒットしました。
 これでおよその見当はつくのですが、こんなもんで終わらせてはいけません。
 なんせ、私は弁理士であり知財のプロですから 笑
 しつこく、特許分類での検索をしてみます。

 (2)特許分類の特定
 上記の予備検索で抽出された文献をいくつか見てみます。
 すると、ヘルシオに関係ありそうな特許分類(FI)はおよそ以下のようになりました。

 ① F24C1/00,310 ・スチ-ムオ-ブン

 この特許分類の下位階層に以下の特許分類があります。
 ② F24C1/00,320 ・・蒸気発生部
 ③ F24C1/00,330 ・・細部構造
 ④ F24C1/00,340 ・・蒸気制御
 ⑤ F24C1/00,350 ・・安全制御

 (3)検索結果は?
 実は、上記の特許分類にも、それぞれ細分化された下位階層が存在します。
 けっこう細かく分類されていますね。
 今回は、ヘルシオを支えた特許を見つけることが目的なので、これらをひっくるめて検索します。

 上記の①~⑤全てひっくるめて、日本国特許庁への出願が2028件ありました。
 びっくりしたのは、この中でシャープ株式会社の出願が455件もあったことです。
 割合にして約22.4%です。
 4~5件に1件はシャープ株式会社の出願になる計算です。
 かなり力を入れていることがわかります。

 もっと興味深かったのが、シャープ株式会社の当該分野における出願は、初期と空白期と後期に分かれていました。
 なぜ、このようなことが分かるかと申しますと、初期の当該分野における最後の出願が1981年でした。

 そして、空白期間の20年をおいて、後期における最初の出願が2001年です。
 後期の始まりと、ヘルシオの発売時期は近く、後期の出願はその殆どがヘルシオに関するものだと思われます。

 空白期間の20年間、当該分野におけるシャープ株式会社の出願は1件もありませんでした。
 さらに、初期の件数が27件に対して、後期の件数は428件と、圧倒的な件数の差があります。
 ここでも、ヘルシオにどれだけ力を入れているかがわかりますね。

3.抽出されたヘルシオの文献

 さて、ここから上記の検索で抽出された、シャープ株式会社の特許文献を見ていきましょう。

 (1)特開2003-50015 シャープ株式会社¹
 【発明の名称】加熱調理装置
 念のため、先ほど後期の最初の出願が2001年と書きました。
 しかし、この文献番号は2003―・・・となっております。
 これは、出願後18月経過してから公開公報が発行されるためです。
 当該文献の出願日は2001年8月6日となっております。

 この出願は、審査請求されずにみなし取り下げとなっております。
 しかし、後期における最初の出願ですのであえて載せました。

 この発明は、1つの加熱用ヒータのみで過熱蒸気を発生させることができ、食品を加熱する際のエネルギー効率が良く、さらに少ない給水量で過熱蒸気を発生させるとあります。

 具体的には、予め加熱用ヒータ1とファン2とで庫内を暖めておき、所定温度以上になったところで、給水器3から水を蒸発皿16に入れて、庫内を過熱水蒸気で充満させるというものです。

特開2003-50015 【図2】

 (2)特許第4169591号 シャープ株式会社²
 【発明の名称】加熱調理器
 この文献は、上記出願より約1年遅れて出願され、特許になった案件です。
 この発明は、過熱水蒸気を用いた解凍技術に関するものです。
 簡単に説明しますと、発生させた過熱水蒸気に外気を混合して低温過熱水蒸気を作って、その低温過熱水蒸気によって食品を解凍するものです。
 熱々の過熱水蒸気では解凍に不向きということなんでしょうね。

特許第4169591号 【図1】

(3)特開2024-108663 シャープ株式会社³
【発明の名称】加熱調理器
 上記2つでは、ヘルシオの初期の出願を見てみました。
 しかし、現在でもシャープ株式会社の出願は続けられています。
 ここでは、2024年10月6日の時点で閲覧可能となっている、最も新しい出願を紹介します。
 出願日は2023年1月31日となっております。

 この発明も解凍に関するものです。
 出願段階ですので、請求項1はけっこう広く記載されています。
 簡単に申しますと、過熱水蒸気の中で低温水蒸気を用いて解凍するものであり、被加熱物情報に基づいて水蒸気を制御するというものです。

 明細書を読むと、冷凍ケーキなら冷蔵状態に仕上がることが求められ、冷凍巻きずしなら常温状態に仕上がることが求められ、冷凍弁当なら温かい状態に仕上がることが求められるが、従来はできなかった。これを解決するために発明したとあります。

特開2024-108663 【図1】

4.考察

 上記ではシャープ株式会社のヘルシオに関する出願を3つ紹介しました。
 
 実は、過熱水蒸気に関する特許出願は他社でもありました。
 しかし、現在では過熱水蒸気といえばシャープが強く、ヘルシオという図式が需要者の頭の中にできております。
 この成功要因としてはいくつもあると思いますが、ここでは知財の面から見ていきます。

 (1)徹底的な特許出願
 既に述べましたが、スチームオーブンの分野で、シャープ株式会社はかなりの出願件数を誇っています。
 特に、2004年だけで64件の出願をしております。
 これらの特許出願によって、他社の参入を防ぎ、その間にシェアを取って行ったと考えられます。

 今でも特許出願をすると、仮に拒絶になっても4~5年間は出願中の地位を持たせることができます。
 結果として、その間、他社をけん制することが可能になります。

 当時は審査待ちが今より長く、出願中の地位が7年くらいあったと思われます。
 その7年間、他社をけん制できるのですから、お金をかけてでも集中的に特許出願をする意味はあると思います。

 (2)よい商標
 「ヘルシオ」って名称を聞いて、皆さんなにを思い浮かべますか?
 ヘルシーとか塩分が減るとかを思われるのではないでしょうか。
 実際、過熱水蒸気によって調理すると、油分や塩分が落ちるらしいです。
 これらの利点を上手く商標に表わしていますね。
 このようなよい商標は、顧客吸引力が発揮でき、ヒット商品に繋がりやすくなります。

 (3)まとめ
 今回の例は、大企業の成功事例です。
 このため、中小企業がそのまま実施することは難しい面もあるかと思います。
 とはいってもできることから始めて、「目の付けどころがシャープでしょ。」のように、柔軟な発想で課題を解決されるとよいのではと考えております。

 この記事が御社の発展に寄与することを願っております。

引用
¹シャープ株式会社.加熱調理装置.特開2003-50015.
²シャープ株式会社.加熱調理器.特許第4169591号.
³シャープ株式会社.加熱調理器.特開2024-108663.

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