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会社の発展に必要なもの2 職務発明制度

 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「会社の発展に必要なもの」2回シリーズの第2回目です。

 前回の投稿https://note.com/norio_sakaoka/n/nb294a188b6aeでは「改善提案制度」について説明しました。
 今回は、会社で特許出願をしたときに避けては通れない「職務発明制度」について説明します。

 先ずは、改善提案制度の中から光るものを抽出します。
 このとき、この改善は会社に利益をもたらすものか、業界で他に使われていないか等を基準に判断します。

 そして、改善提案制度の中から良いものを選んだら、それを特許先行技術調査して、問題なければ特許出願します。

 この特許出願のときに、社長自らが発明者でない限り、必ず職務発明制度が付いてきます。

 職務発明制度とは、極簡単にいうと以下の2つです。
1.従業員が職務発明をしたときには、その発明に係る特許を受ける権利を会社に譲渡する。
2.従業員は、特許を受ける権利を譲渡した代わりに会社から相当の利益を受ける権利を有する。

 これを1の譲渡から説明します。
 従業員から発明を速やかに譲渡してもらうには、予め契約を締結する必要があります。
 どうするかというと、従業員の入社時に、職務発明に関しては特許を受ける権利を会社に譲渡するみたいな文面に印鑑を押してもらいます。
 また就業規則にも同様のことを記載します。

 次に発明の種類です。
 従業員がする発明にも色々あります。
 自宅で趣味の発明をすることがありますが、これは自由発明であって会社に譲渡する義務はありません。
 会社の業務範囲に含まれるけど、職務と全く異なる発明も業務発明といって会社に譲渡する義務はありません。この業務発明とは、例えば自動車会社の社長の運転手が、エンジンに関する発明をしたような場合です。
 そして、その従業員の職務に関する発明が職務発明です。例えば、自動車会社の研究開発員がエンジンの発明をしたような場合です。
 この職務発明の場合、契約によって特許を受ける権利が自動的に会社に譲渡されます。

 次に、2の相当の利益について説明します(これについては個人的意見も含まれています)。
 利益の額や内容は、会社と従業員の双方が納得すれば何でも問題ありません。
 例えば、現金でも良いですし、有給休暇、研修、留学、昇進など何でも良いのです。
 大事なのは会社と従業員の双方の合意です。

 但し、利益の額や種類云々の前に、従業員に理解してもらうことがあります。
 それは、発明者は自らの発明の価値を大きく評価しがちですが、実際はそうでもないということです。以下に説明します。

 10年以上前ですが、日亜化学工業の青色発光ダイオードの判決で、発明者が受ける利益が約600億円と認定され(一審判決は請求額の関係から200億円)、その後の和解で約8億円となりました。

 本当に発明者はこのような高額な利益を受けることが妥当なのでしょうか。
 8億円は賛否両論あるとしても200億円は高すぎると思います。
(判決文等を精読した訳ではないのですが、この8億円には発明者がしたその他の特許の利益も含まれているようです。現在は、法改正もあってこのような高額の判決は出にくいと思います。)

 何故なら、そもそも従業員は給料も開発に必要な予算や設備も会社から支給されており、リスクを殆ど負っていないからです。
 従業員から言わせると、発明ができなかったら給料が減るとか左遷されるとかのリスクがあると言いますが、そんなの経営側から見たら鼻くそ(失礼)みたいなもんです。
 そもそも、開発して発明することがその人の仕事なのです。仕事をするのは当たり前のことです。
 つまり、リスクを負っているのは会社なのです。

 次に、良い発明だけでは利益を生まないということです。
 その発明を製品化するにあたり、さらに不具合の解消などの開発が必要になったり、製造設備への投資が必要だったりします。
 製造設備だってお金を払えば作れるものでもなく、生産設備部門の労力があって成り立ちます。
 また製造するにも製造部門の努力があってのものです。
 さらに、その製品を売るにしてもマーケティング部門、営業部門の努力があってこそ売れるのです。
 もっというと、原材料の調達には購買部門、お金の計算には経理部門といった数多くの人たちの努力というか協力があって初めて事業が回って利益がでるのです。

 これらの協力した人の人数は、大企業なら数百人から千人は下らないと思いますし、中小企業でも相当な人数になると思います。
 すると、発明をしたという行為は加点されるべきですが、単純計算だと発明者の貢献度は数百分の一から千分の一以下になります。
 (上記の発光ダイオードの判決では、当初、会社側の貢献度が50%、発明者が50%と認定されました。)

 これは極論とも言えるかも知れませんが、発明者にはこのように発明だけでは利益がなく、会社の投資や大勢の協力があってこそ利益が出ることを、説明して理解してもらう必要があります。
 そうしないと、後で揉めます。

 それでは、肝心の具体的な報酬の額ですが、中小企業なら一律の金額で良いのではないでしょうか。その発明による利益の算出は、一部を除いて困難だと思います。
 例えば、特許出願のときに改善提案制度の報奨として1万円、特許査定となったらさらに1万円という具合です。
 そして、その発明で大きな利益が出たときは、決算賞与として皆に支給しつつ発明者には多く渡すとかで良いと思います。

 そのとき、前回も書きましたが、表彰をするなどして従業員を褒めてあげることです。
 すると、会社全体の士気も向上して、次の発明につながりやすくなります。

 いかがでしょうか。
 御社も、前回の投稿の改善提案制度とあわせて、職務発明制度を導入してみてはどうでしょうか。

坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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