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あずきバーに見る識別力のない商標の登録方法

※画像は井村屋株式会社のHPより引用
【稼ぐ経営者のための知的財産情報】

 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「あずきバーに見る識別力のない商標の登録方法」について説明します。

 以前の記事「丸亀製麺の商標を他人が使用できるのか?」https://note.com/norio_sakaoka/n/nee9a920e25f5で、商品の品質や産地等を表わすにすぎない商標は、原則として登録されないということを書きました。

 しかし、井村屋株式会社の「あずきバー」は、文字のみで登録されています。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2010-052888/49B70448E388EC9AFE0A4553A313F619A2E2F4ECE0C0E75338F452B3CB406BC7/40/ja

 これは、商標法第3条第2項で、識別力のない商標であっても、使用の結果として識別力を有することになった商標は、登録を受けることができると規定されているからです。

 ところが、この第3条第2項の適用を受けるにはとてもハードルが高いのです。それこそ、全国的に誰もが知っているような状態でないと登録されません。

 では、どうやって登録になったのか、私が代理人として携わった訳ではないのであくまで推測ですが説明していきます。

1.とりあえず「あずきバー」が含まれている商標を登録する
 これは、例えば包装箱のデザイン等が該当します。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2005-013746/2B5C4F8E523A0B3101097474BED8E9CD6ACD5A059F0CBCC48A013AB2246E2175/40/ja

 これで、一応「あずきバー」の文字が入った商標を登録することができました。
 しかし、これだけでは全然ダメです。
 何せ「あずきバー」は、商品の品質等を表わすにすぎない商標ですので、識別力がありません。
 この場合、「あずきバー」を含む全体デザインでの登録商標にすぎず、「あずきバー」の文字のみには何ら効力がありません。
 ですので、他人が「あずきバー」を含む商標を取得する可能性は十分にあります。
 そこで、次の手を打ちます。

2.広告宣伝、メディア露出、販売数増加で周知にする
 ここで、お金をかなり使うことになります。
 国民に対して「周知」といった状態にしないと次に進めません。
 ちなみに、周知とは極簡単に言いますと、需要者に広く知られているような状態を言います。
 対する「著名」とは、周知からさらに進んで国民の誰もが知っているような状態をいいます。
 上記の商標法第3条第2項の適用を受けるには周知ではダメで、著名までもっていかないと登録を受けることができません。

 あと、このときの広告やメディアに掲載された証拠、販売数等の記録は全て保管しておきます。
 そうしないと、審査や審判等で著名であるとの立証ができなくなります。

3.競合他社を潰す
 上記2の広告宣伝等であずきバーがたくさん売れ出すと、必ずといってよいほど競合他社から「あずきバー」「アスキバー」「小豆バー」とかの類似品が出回ります。
 そこで、不正競争防止法によって競合他社の商品を潰していきます。
 具体的には、不正競争防止法第2条第1項第1号に規定されている、他人の商品等表示と同一類似の商品等表示を使用して誤認混同を生じているとして、他人の製造販売を止めさせるのです。

 これ、とても大事です。
 何故なら、いくら全国的に有名になったとしても、複数の他人が同じ商標を同じ商品に使用していた場合、登録が難しくなってくるからです。
 商標法第3条第2項の適用が只でさえ難しいのに、これ以上難しくなると絶望的になってきます。

 ちなみに、複数の他人が同じものを使用しているにもかかわらず、登録査定まで持っていったのがヤクルトの立体商標です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2008-072349/E3C6E5FD5BE77915AECFA0447176B64AC8E4667ACD57DB1D7C87C266071EC78F/40/ja

ヤクルト

4.著名な状態にする
 上記の2と3をひたすら繰り返して、あずきバーを全国的に有名な状態にしていきます。
 街頭アンケートで質問した人が100%知っているとまでいかなくても、それに近いくらいの回答率になるくらいまで有名にしていきます。
 既に述べたように、商標法第3条第2項はとてもハードルが高いのです。
 生半可な状態では認めてくれません。

5.商標登録出願をする
 まあまあ全国的に有名になったなと思ったら、商標登録出願をします。
 もっとも、1回目で登録にならないことも多く、井村屋も文字のみの「あずきバー」の出願を少なくとも2回しています。
 最初の出願は拒絶査定となり、2回目の出願も拒絶査定となったのですが、ここで諦めず審判、そして知財高裁まで争って登録になりました。

 こうやってみると、識別力のない商標を使用するのもけっこう大変ですね。
 個人商店レベルで、商標権を取得することに興味ないといわれるくらいであれば、識別力のない商標の方が誰もが使用できるため便利なこともあります。

 しかし、企業のブランド力を高めていくにはやはり商標登録は必要ですので、その場合は識別力のある商標を使用する方が一般的に楽ですね。

 いかがでしょうか、本記事についてご理解いただけたでしょうか。
 この記事が御社のご発展に役立つことを願っています。

坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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