しょぼい発明であっても特許出願するべきか?
弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、しょぼい発明でも特許出願するべきか?という話をします。
事業活動をしていると、改善提案や顧客からのお困り事対応なんかで、ひょこっと発明が生まれることがあります。
その発明がもの凄く良いものであれば、有無を言わせずに特許出願をするのでしょうが、しょぼい発明の場合、どうすれば良いのでしょうか?
経営者からすると、しょぼい発明に特許出願費用をかけるの?と悩むところだと思います。
結論を言えば、新規性があって、その発明を実施(製造販売等)するのであれば、どんなにしょぼい発明であっても特許出願した方が良いと考えます。
理由は、他社をけん制できるからです。
特許出願をすると、査定を出願から4~5年まで引っ張れます。拒絶査定が来ても、審判請求などをすればさらに引っ張れます。
その間、その発明はずっと「特許出願中」という扱いになります。
つまり、査定が確定する4~5年の間は、新規性さえあれば「特許」になる可能性が残っていることになります。
絶対に特許にならない、拒絶査定になるとは言い切れません。
何故なら、進歩性を判断するのは特許庁の審査官であり、私たちでは判断できないからです。
すると、他社は同じ発明を実施することを嫌がります。
理由は2つあります。
1つ目は、補償金請求権の対象になるからです。
この補償金請求権を簡単に説明すると、出願公開されている発明と同じ発明を他人が実施している場合、その他人に「私が出願している発明が特許になったときは、今日からの実施料をもらいますよ。」という手紙を出すことができる制度です。
まあ、こんな手紙をもらった側は、拒絶理由を探しまくって情報提供をするでしょうから、出す方にとっても良いかどうか分かりませんけど、、、。
2つ目は、当該出願が特許になった瞬間に、自らの実施が特許権侵害となるからです。
ですので、特許法を律儀に守るとすれば、実施している他人は、特許査定となった瞬間に、市場から製品を全て回収して在庫を全て破棄することになります。
これらのことは、他人からするとリスクなのです。
だから、いくらしょぼい発明であっても、他人の特許出願中の発明と同じものを実施することはなるべく避けるのです。
一方、特許を出願した側からすれば、査定が確定する4~5年の間に、他人をけん制しつつ、先行者利益を得ることができます。
そして、仮に出願が拒絶査定となっても、その4~5年間である程度のシェアを確保したり、利益を出したりすることができるのです。
私も過去にこんな話を聞きました。
その会社は大企業の下請けなのですが、自社で製品開発を行ない、元請けに提案しているような会社でした。
その会社が、かなり前に自社で開発はしたものの、技術的価値が低いと思っていた技術があり、当該技術を特許出願することはありませんでした。
そして数年後、当該技術を用いた製品を開発し、元請けに提案しました。
そこで、元請けで特許調査をしたところ、類似の技術が同業他社で出願されており、出願中で査定が確定してないから、当該技術を採用することはできないといわれました。
また、他の会社でも、無線技術を用いた機械の制御について、十数年前に試作をしたものの、当時は無線技術が良くなくて実用化せずお蔵入りにしていました。
近年、携帯電話などで機械の制御ができるようになり、それを試作して元請けに提案したところ、やはり、同業他社が似た技術を出願しており、査定が確定してないから採用できないということになりました。
どうでしょうか?
特許出願人は、確かに出願費用はかかったにしても、知らないうちにライバル会社をけん制して、自社のみが実施できる状態を作っています。
もちろん、出願が拒絶さればそこでけん制の効果はなくなりますが、それまでに数年間かかります。
一方、元々、技術を開発していた会社の立場からすると、当たり前の技術と思っていたものが、ライバル会社の出願によって実施できなくなったのです。
これは、特許出願費用どころではない損失になる可能性があります。
こんなことを防ぐためにも、自社が実施する又は実施する予定がある技術については、しょぼい発明であっても特許出願した方良いのではないでしょうか。
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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