縄文短歌 イチのこと
昨年の暮れのことです。妻が言いました。「夜、門のところに猫がいたのよ。何回か姿を見た猫だと思うの。今度メリの散歩をするとき、家の周りを確かめて見て……」
その後ほどなく、私は、ぶどう畑から生け垣の隙間を抜けて私たちの自宅の敷地に入っていく猫の姿を見かけました。庭にまわってみると、白地にグレーの縞模様の猫が、こちらをじっと見つめています。近づくと、その猫はパッと身を翻して走り去りました。
それから数日して、夕方庭を歩いていると、家の軒下の草の中に、身を沈めるようにしてうずくまっているその猫の姿を見つけました。今度は怯えさせないように、私はそっとその場を離れました。
次の朝早く庭にまわってみると、その猫はまだそこに居ましたが、私の姿を見ると立ち上がって、ゆっくりと歩み去りました。その猫が歩み去った後を見てみると、少し伸びた枯れ草を踏み固めて、まるで猫鍋のような寝床が作ってあります。それはちょうど、ロクを家族に迎えるために檻型の罠をしかけた場所でした。私がそのことを妻に伝えると、猫鍋の現場を見た妻は言いました。「こんなに寒いのにここで夜を過ごしているのはかわいそうだよ。」そして、暮れも押しつまった12月27日の夜に、私たちはロクの時と同じく、家のバルコニーに箱型をした罠をしかけました。すると、ほとんど間髪を入れずに白地にグレーの縞模様の猫がそのカゴに入ったのです。
その猫は、家に来た当初の怯えが和らぎ、汚れが取れると、驚くほど美形の猫であることがわかりました。男の子であったその猫に、私たちはイチと名付けました。ハチ、ロク、イチのイっちゃんです。
そんなことがあり、母を送った2023年は、私たちにとって、ロクとイチを家族に迎えた記念の年となりました。
【イチの来訪】
先輩が耳打ちをしてくれたんだ「オイラは寝ぐらを見つけたんだぜ」
先輩の今の寝ぐらの軒下に草の寝床を作ってみたよ
先輩は教えてくれた「真四角の籠に入ればここに来れるぞ」
その夜に四角い籠が現れて迷わず僕は飛び込んだんだ
先輩は鼻まで黒いハチワレでここではロクと呼ばれています
ロクちゃんが教えてくれた「新参は先輩方の顔を立てろよ」
「デカいのは今日からお前のとうちゃんとかあちゃんだから礼をつくせよ」
「がっつくな、焦らなくてもカリカリはお腹いっぱい食えるんだから」
「水だっていつもきれいにしてあるし、トイレの砂もかえてくれるし」
ロクちゃんは優しく教えてくれたけどトイレの場所が分からなかった
にゃあにゃあと場所を聞いても返事なし布団の上でウンチをしたよ
絶句する母にむかって父はいう「イチはトイレを知らないんだね」
その時はやらかしちゃったと気がついて小さくなった僕がいたんだ
母親は黙って布団洗濯し父はトイレを教えてくれた
僕の名は今日からイチと発します 草鞋ぬがせていただきました
【魂(たま)に寿(ことほ)ぐ】
次々と仮の宿りを訪れる魂に寿ぐ幸多かれと
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