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コリン・ローズの加速学習法実践テキスト(コリン・ローズ)

小さな組織=トップダウン=迅速? 

 この本の前書きに、以下のような「学習する組織」についてのコメントが書いてありました。

(p13より引用) 学習する組織では、人々はトレーニングを受けるまで待ってはいません。あなたは、自分の職務で(また個人の生活においても)成功を収めるためには何を学習すべきかを自分で決めて、率先してそれを学習する必要があります。「ボトムアップ式の学習」が、「トップダウン式のトレーニング」に取って代わります。

 よく、変化に対応し迅速に動くためには、「小さい組織でトップダウン型でなくてはだめだ」と言われます。「大きな組織は、重層構造でスピーディな意思決定はできない」からというのが一般的な理由です。

 しかしながら、それは本当でしょうか?
 確かにすべての意思決定が「トップ」に委ねられているのであればそうかもしれません。が、そういう企業は強い企業でしょうか。

 課題のひとつひとつが、その場で意思決定され解決できれば、その方がより多くの課題に迅速に対応できたことになります。
 すなわち、組織の構成メンバひとりひとりの意思決定能力が高まる方が、組織トータルの対応力ははるかに広く大きくなるのです。

 いかにスーパーマンのトップであっても、その能力には限界があります。また、リスクマネジメントの観点からも一点集中型のマネジメントには問題があります。コンピュータシステムと同様に、組織も冗長構成をとっておかないと事業継続性(business continuity)は保てないのです。

 最大のリスク分散は、組織メンバ全員のCPU化です。
 マルチタスクを処理する分散型コンピューティング、最近の流行のコンセプトでは、グリッド・コンピューティングを実現するWeb型組織がひとつの解だと思います。メンバはI/O装置ではありません。「学習する組織」というのは、メンバがCPUであるからこそ実現できるのです。

 私は、組織の規模組織としてのagility(アジリティ)とは基本的には独立事象だと思います。
 もし、大企業でアジリティが阻害されているとしたら、それは、以下の2つのケースでしょう。
 ひとつは、正しい意思決定できる下位組織(所属メンバ)にうまく権限委譲ができていないケース。今ひとつは、意思決定できる能力のない組織(メンバ)に権限委譲をしてしまっているケースです。

 いずれの場合もメインフレームを中心にした統合型コンピュータシステムがダメというわけではありません。統合型システムを構成する各サーバへの適切なタスク分散ができていないだけです。

様々な学習スタイル

 この本は、ステレオタイプの学習術のHow To本のようなタイトルですが、内容は思いのほか幅広です。
 人それぞれの多様性を前提に、個々人に合った学習スタイルがあること、その多様性の具体的な要素としての「知能」にもいろいろな種類があることを示した上で、これらの「知能」を効果的に組み合わせて学習することを勧めています。

 この本で言う「知能」は、ふつうに抱く「知能」のイメージとはちょっと違います。むしろ、「能力」に近いかもしれません。これらの知能=能力を発揮して学習に向かうのです。

 具体的な「知能」とは以下の8種類です。
  (ア) 言語的
  (イ) 数学的/論理的
  (ウ) 視覚的/空間的
  (エ) 音楽的
  (オ) 身体的
  (カ) 対人的/社会的
  (キ) 内面的
  (ク) 博物学的

 さて、学習に役立つパワーツール(具体的How To)ですが、著者は以下のようなポイントを示しています。

(p178より引用)
WII-FM(What’s in it – For Me:自分はそこから何を得ることができるか?)を決める
  ・成功のビジョンを創る
  ・全体像を見る
  ・知っていることをチェックする
  ・何を知らないかを定義する
  ・疑問を持つ
  ・適切な活動を加える(図表/視覚化等)
  ・休憩を取る
  ・テーマについて調べる
  ・要点を記憶する
  ・知っていることを試す
  ・振り返り

 最初の「心の準備」が特徴的です。
 また、こういう指摘もあります。

(p186より引用) 人々が最もよく学習ができるのは、あまり脅威を感じない、エネルギーの高い環境のもとである、ということがわかっています。どうしたらそのような環境を作ることができるでしょう?

 これが会社での「学習」だといわゆる「職場環境」の問題です。(「職場環境」については、また別の機会に書きたいと思います)
 企業での学習の場合は、以下のコメントが有益です。

(p188より引用) 変化に対する答えは、変化を拒まず、それに適応することを学ぶことです。さらに良いのは、自分たちで変化を創り出すことです。以上の点は、なぜ私たちが、素早く学習ができ、創造的な分析のできる人でなければならないのかを説明しています。

 今の時代、マーケットに追随する「変化への対応」はすでに当然で、新たなマーケットを生み出す「変化の創造」が目指されています。そのための「学習」ということです。

 この本は、「既定唯一の答(解決策)を見つけ出すスキル」をつけるHow Toものではありません。(そういうものとして読むともったいない内容です)
 「解のないところから解決策を導き出す」ための「分析的思考」と「創造的思考」との重要性を示し、それらを身につけるための具体的な学習方法を示している本です。

Win-Winの相乗効果

 先の2つのコメントでこの本に書かれているメッセージに触れましたが、それ以外で私が気になったフレーズをご紹介します。

 まずは、誰でも心当たりのあることです。

(p95より引用) 「皆が同じような考え方をするときは、誰一人として深く考えているものはいない」ディー・ディキンソン

 つぎのフレーズは前向きで分かりやすく個人的には好みです。
 まさに誰でもその気になればできる極めて簡単なアクションで「Win-Winの相乗効果」が得られるわけです。

(p122より引用) 「私が1ドル持っていて、あなたも1ドル持っています。お互いにそれを交換してもどちらも前と同じです。」
「でも、私がアイデアを持っていて、あなたもアイデアを持っていると、お互いにそれを交換すれば2人とも前より豊かになります。」

 また、この例示も具体的なイメージが湧いて分かりやすいものです。
 目標(らしきもの)を定めたつもりでも、それが「目標はこれだ」「目指すところはここだ」とキチンと明示されないと具体的アクションプランは作れませんし、望ましい方向に動き出すこともできません。

(p201より引用) 本当の問題が何かを定義することが重要なように、目標が何かをはっきりと定義することも大事です。
 あなたは、見えない標的を射抜くことはできません。一方、標的の周囲に円を描けば、的を射やすくなります。目標を正確に表現すると、本当の問題に焦点が絞られます。

 以下のフレーズは、失敗を活かす具体的なアドバイスです。
 失敗はその「数」を数えても意味がありません。失敗の「内容・原因」を掴んでこそ解決のヒントになるのです。そして、失敗を次のアクションの種にすることが、私たちを「改善のスパイラル」のスタートラインに導くのです。

(p154より引用) 誤りは、もっと注意を向ける必要があるものを見る機会にほかなりません。ですから、いくつ誤りがあったかではなく、それがどんな種類の誤りであるかに集中しましょう。
(p173より引用) 「次回はもっとうまくやるために、このことから何を学ぶことができるだろう?」と問いかけることによって、足元の障害物を、踏み石に変えることができます。

 最後は、書き出してしまうと至極当り前のことです。が、この3点を正真正銘実践できている人は少ないのでしょう。

(p173より引用) 著述家のスティーヴン・コヴィーは、大きな成功を収める人々には、いくつかの共通した特徴があると言います。
 1.彼らは、成功したらどうなるかという明確なビジョンを持っています。→最初に目標を心に描いてから始めること
 2.彼らは、自分のすべての行動に責任を持ちます。→自分の行動に責任を持つ
 3.彼らは、絶えず自分の行動を振り返っています。→自分の失敗から学ぶこと





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