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人を動かす 新装版 (D.カーネギー)

How to Influence People

 タイトルはあまり好きではありませんが、自己啓発関係の本の中ではポピュラーでかつ古典的との評判なので手にとってみました。

 初版の発行は1937年、その後現在まで累計で1,500万部を売り上げたベストセラーとのことです。日本では1958年に翻訳の初版が発行といいますから、私よりほんのちょっと年上です。(かなりの年です・・・)
 原題は、「How to Win Friends and Influence People」。邦題ほど高圧的な響きではありません。ただ、明らかに「How to」とあるのは好悪の分かれるところでしょう。

 形式は、まさに「How to」ものの原点のように、具体的な行動・考え方の勘所を、数ページをひとかたまりにして紹介していきます。それぞれのセクションには、現在でも名前が伝えられているような有名な政治家や実業家、また、身近な人々のエピソードが実例として豊富に添えられています。

 本書の書きぶりは、確かに「How to」形式ではありますが、根本的な姿勢は結構「真っ当」です。
 たとえば、「相手に重要感を持たせる」とのセクションでの著者のコメントです。

(p46より引用) お世辞と感嘆のことばとは、どうちがうか? 答えは、簡単である。後者は真実であり、前者は真実でない。後者は心から出るが、前者は口から出る。後者は没我的で、前者は利己的である。後者はだれからも喜ばれ、前者はだれからも嫌われる。

 底に流れているのは「正直さ」と「人への敬意」です。

黄金律

 本書の具体的な内容はまさに「How to」のエッセンスなので、個々に紹介していてはきりがないのですが、その中で、改めて頭の中に留めおきたいフレーズを記しておきます。

 まずは、相手の立場にたって考えるという「視座の転換」です。

(p57より引用) 自動車王ヘンリー・フォードが人間関係の機微にふれた至言を吐いている-
「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」。

 最近のメンタルヘルス関係の対応でよく出てくる「アサーション(自分も相手も大切にした自己表現)」に通じるところがあります。

 あと、こちらは万人が万人、賛同するとは限らないのですが、議論をする際の勘所です。

(p159より引用) 議論に勝つ最善の方法は、この世にただひとつしかないという結論に達した。その方法とは-議論を避けることだった。・・・
 議論に勝つことは不可能だ。・・・
 -「議論に負けても、その人の意見は変らない」

 チョッと見では「孫子の兵法」にも似ていますが、趣旨は異なります。孫子の教えは、「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。」とあるように、「戦わずして勝つ」という「不戦の薦め」です。
 著者のこの示唆は、(内容の当否はともかく、)一般に「議論で白黒をはっきりさせる」と言われているアメリカにおいて「How to」として推奨されているという面でも面白味を感じます。

 最後に、本書で挙げられている数多くの教訓・示唆のなかで、これが原点だという「黄金律」をご紹介します。

(p139より引用) 人間関係の法則について、哲学者は数千年にわたって思索をつづけてきた。そして、その思索のなかから、ただひとつの重要な教訓が生まれてきたのである。それは決して目あたらしい教訓ではない。人間の歴史と同じだけ古い。・・・
「すべて人にせられんと思うことは人にもまたそのごとくせよ」



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