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会社を変える戦略 (山本 真司)

三文字英語革命の勘所

 SCM(Supply Chain Management)、BPR(Business Process Re-engineering)、CRM(Customer Relationship Management)と三文字英語のオンパレードです。
 これら三文字英語革命の楽観の典型的なくだりは、以下のような言い様です。

(p23より引用) IT技術の発達で、・・・こうした「三文字英語革命」が可能になろうとしている。要するに、優秀な中小企業経営者や現場の人間が当たり前のようにやっていることが組織的にできるようになったんです。これでわが国の生産性、それもホワイトカラーの生産性は格段に向上すると思います。それも業界を問わず、投資の体力のある会社であれば誰でもがこの生産性向上の恩恵に浴することが可能になります。

とまず明るい方向に話をふっておいてから、その後の章で以下のように切り返しています。

(p34より引用) SCM、BPR、CRMは、この産業の構造変化で生き残るための必要条件、と認識することです。必要条件ですから、これだけでは差別化できない。おまじないを唱えていても無意味です。・・・良い分析手法はいずれまたみんなに共有される。それがIT時代の本質です。分析技法は容易に模倣されるのです。

 まさにそのとおりで、この話の結論は「したがって差別化のポイントは“人”」だというお決まりのパターンです。

 が、ここで止まってしまうと、実際上は何のアドバイスにもなりません。「人」がポイントということは誰しも分かっています。
 そういう「人」にどうやったらなれるのか、そういう「人」をどうやったら生み出せるのか、どうやったら育成できるのか・・・そもそもその「人」に具体的にはどういう能力が必要なのか・・・、とこのあたりのことで悩んでいるのです。

 ちなみに私は、この手の話をする場合、よく「料理」を例にします。
 すなわち、おいしい料理は、「新鮮な材料」「手慣れた道具」「腕のいい料理人」の3つが揃わなくてはなりません。ITは道具です。いくら切れる包丁があっても、材料(システムの中のデータ)が揃っていなかったり、鮮度が悪かったりすると料理は台無しですし、そもそも料理人(分析し判断し行動する人)が素人だと月並みなものしかできません。
 新鮮な材料を手に入れたり、一流の料理人を捕まえるのが大変なのです。

キャッチフレーズアプローチ

 「顧客第一」とか「株主価値重視」といった「キャッチフレーズ」は、関係者への意識付けや刷り込みとしては有効かもしれませんが、その「キャッチフレーズ」だけが呪文のように一人歩きし、それそのものが絶対的目標であるように扱われるようになってしまうのは良い傾向ではありません。

 「キャッチフレーズ」を唱えることにより、折角の思考が停止したり、議論を拙速に結論づけたりすることが時折見られます。

 「キャッチフレーズ」は看板です。「キャッチフレーズ」で象徴的に表わそうとしたことの具体的な中味が重要なのです。したがって、「キャッチフレーズ」を掲げる前提の営みとして、それでシンボライズしている「具体的な目標」と「具体的な施策・行動」をキチンと言葉で説明しなくてはなりません。

 著者は、本書で、典型的な「キャッチフレーズアプローチ」としての「株主一本槍経営」にアンチテーゼを提示しています。
 しかしながら、それは「株主軽視」ではありません。
 ・経営者として株主への最低責任を明確にし、
 ・それを越える経営成果については、顧客・従業員・社会という企業に係るステークホルダーに最適還元するのが経営であり、
 ・そのためには中長期的視点とバランスが重要だ
と主張しています。
 目指すものは、こういった「原理原則」に基づく経営です。

 そういう問題意識から、本書の中には、以下のようなまっとうな指摘が豊富に示されています。

(p190より引用) 「手法は手法としてだけ使う。手法を使って達成したい目的は、決して世間に吹聴されている目的や他社の成功例に引きずられない。あくまで独自の目的を見失わない。手法と目的を峻別する態度を可能にするのは、手法を正しく理解すること。」

 この本が書かれたのは、時期的にはエンロン・ワールドコム事件の直後です。時価総額経営偏重への警鐘は、正統派経営への回帰でもあります。

 本書は、現在の経営書に登場するファイナンシャル関係・マーケティング関係・マネジメント関係・IT関係等種々のジャンルのキーワードを広くカバーし、それをストーリーの中にうまく盛り込んでいます。少々詰め込みすぎのきらいはありますが、それぞれのエッセンスを掴むには手ごろなボリュームだと思います。

 蛇足ですが、「超MBA流改革トレーニング」というサブタイトルは、いかにもという感じでかえって逆効果です。
 思いのほか内容はしっかりしていたので、少々もったいない気がしました。(少々、ストーリーに登場する戦略コンサルタントはかっこよすぎますが・・・)


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