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知の職人たち(紀田 順一郎)

 私の友人(大学教授)が、新入生に薦める本の1冊として紹介していたのでオンラインの古本屋さんから購入しました。
 世の中にあるいくつかの著名な辞書の誕生にまつわる編者の努力を紹介したものです。

 私は、辞書というものは、そのボリュームから考えて当然のごとく多くの人の分業により編集されたものとばかり思っていました。が、実際は、ひとりの編者が膨大な歳月と想像を絶する精力を傾けて産み出した知的創造物だったのです。
 辞書は、没個性的なデータバンクなどではなく、ひとりの編者の強烈な想いがこもった「極めて個性的な著作物」と言えます。

 さらには、当時はワープロもなかったのですから、その著述作業はすべて手書きであったわけです。その物理的な労力を想うだけでも現代人の常識を遥かに超えるものがあります。

 この本のなかで新村出氏による「広辞苑」編纂の在り様が紹介されていました。
 もう30年以上前になりますが、彼(友人の大学教授)の結婚披露宴の引出物が「広辞苑」だったのを思い出しました。
 そのときは、大学に残って研究者を志す人はやっぱりちょっと違うのかしらと思った程度でした。が、この本の発行が彼の結婚の数年前なのを考えると、本書の「広辞苑(新村出)」の章の印象が殊の外強かったのかもしれません。



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