見出し画像

個人寄付の拡大は大学を救えるか⁈|27冊目『米国高等教育の拡大する個人寄付』

福井 文威(2018 , 東信堂)

いよいよ多くの大学が財政難を迎える

もう言うのも飽きてしまいましたが、少子化で多くの大学が財政危機です。

大学設置基準の大綱化以来、日本はきちんとしたグランドデザインを持たないまま、無秩序に大学の数を増やしてしまったので、これからかなりの大学が倒産、吸収合併、運が良くて規模縮小ということになるのでしょう。

企業と同じですが、過去の成功に縛られて身動きがとれないなら、大手有名大学だって安心してはいられません。
むしろベンチャーのように、何でもチャレンジできる新しい大学、例えば、情報経営イノベーション専門職大学(iU)などが成功者になるのかも知れないなと思ったりします。

何しろ2040年には18歳人口が現在の7割程度になるというのですから、安心していられる大学なんて一つもないのです。

日本の大学は収入の多くを学納金に依存しているので、学生を獲得できなければ、財政に大打撃を受けます。
国の補助金だってあてにはなりません。
というか、すべての大学を救済する資金は国にだってありません。
それで、寄付を拡大しなきゃ!と今、多くの大学が慌てているわけですが、世の中そんな甘くはありませんね。

気休めにしかならないかな、と半分疑問に思いながらも、大学ファンドレイザーの需要は今後確実に増えるだろうと予想して、私は寄付の勉強や研究を続けています。

米国で大学への個人寄付が拡大したのは、1980年代〜90年代の20年

富裕層を中心に個人からの寄付を拡大しようと思うのならば、手本とすべきは米国だと思います。

ところが「アメリカにはもともと寄付文化が根付いていたから」とか「日本に応用するには文化が違いすぎる」という声をよく聞きます。
でも、本当にそうでしょうか?

本の著者、福井先生によれば、米国で高等教育への寄付が拡大したのは、実は1980年代から90年代のおよそ20年間なのだそうです。
この間に個人寄付は急拡大して、それまでの3倍になったのだといいます。

では、この20年間にいったい何があったのでしょうか?
その原因を紐解けば、日本でも高等教育への寄付を拡大することができるのではないか、と簡単に言うとそういう研究の本です。

米国の個人寄付の拡大の大きな要因「評価性資産」による寄付

先行研究調査では、「環境要因」として税制度や、景気による所得や株価の変化、地域特性、「機関要因」として大学の規模や質、設置形態を、そして寄付者個人の「資質要因」として所得、年齢、学歴などの属性を、「誘発要因」として大学生活の満足度、在学中の活動、奨学金の受給経験などを変数とした論文を研究していてたいへん興味深いです。

そして文献を集めて、寄付拡大の時期(1980〜90年代)の寄付税制の変遷や個人寄付における時系列分析、さらに収集可能な大学機関の個別のデータを用いてのパネル分析を実施しています。

その結果としてわかったことの一つに、評価性資産による寄付における慈善寄付控除制度が与えた影響がありました。
評価性資産による寄付が米国における寄付拡大の大きな要因になっています。

私の勤務先大学もそうですが、日本の多くの大学は現金以外の、例えば不動産などの寄付を極度に嫌がる傾向にあります。
確かに何かと手続きが面倒ではあるのですが、土地、建物などの不動産を含めて、株や著作権など、評価性資産に目を向ける必要が実はあるのかも知れないと思いました。

グラレコ読書メモ「米国高等教育の拡大する個人寄付」


学校寄付の研究論文を書こう

2020年に仕事で寄付業務を担当することになって、寄付について学ぼうと、大学寄付に関する論文や書籍などを探して読むようになりました。
英語が苦手なことがあって、日本の論文しか読みませんでしたが、そうすると論文数はあまり多くはなく、しかも大手の大学における寄付状況の研究に限られてしまいました。

勤務先では寄付業務のノウハウが蓄積できておらず、きちんとした担当者も不在の状態がつづいていたので、OJTで学ぶことができませんでした。

そのため、寄付に関しての書籍や論文を探して学んだわけですが、それ以外に、勉強会やセミナーに積極的に参加しているうちに、日本ファンドレイジング協会(JFRA)にたどり着きました。

JFRAの認定ファンドレイザーのテキストや『寄付白書』で基本的なファンドレイジングの知識を学ばせていただきました。

現在直接寄付業務に携わっているので、寄付に関しての生のデータにアクセスすることができます。
つまり、データを用いた統計的な分析をすることが可能な状況です。

そんなこんなで、自分なりの”問い”を見つけることを意識しながら本を読みました。

福井先生は個人寄付者の属性などの個人的要因ではなく、税制というもっとマクロな結論を導き出されています。
しかし税制は一大学でコントロールできることではありません。
できることならば、大学の働きかけで結果に影響を与えられる変数を見つけたいと私は考えました。

まずは属性別の寄付参加率を出してみよう

勤務先の学校法人は大学以外に、幼稚園が2つ、小学校、男女別学の中高一貫校と6つの学校を設置しています。
日々の寄付業務での感覚からは、例えば小学校と中高、中高と大学というように複数の系列学校を卒業されている方の寄付参加率が高いように感じています。

また、自分の親もまた卒業生であるというケース、あるいは自分の子どもを自分と同じ学校に学ばせているケースも多くあり、そうした卒業生の寄付参加率もまた高いような気がします。

卒業生、約50,000人に対して毎年、コミュニケーションのための広報誌に寄付の振り込み用紙を同封して送付しています。
その卒業生リストから卒業生の属性を「卒業生」「教職員」「保護者」「元教職員」「元保護者」と分類して、まずはそれぞれの寄付参加率を計算してみたいと思っています。

さらに、複数の学校の卒業生の寄付参加率、親子で卒業生である場合の寄付参加率についても分析できたらと思っています。

私はクリスチャンではありませんが、勤務先はミッション・スクールです。
教職員のクリスチャン率が高いからかも知れませんが、寄付者におけるクリスチャンの割合が高いように感じています。
しかし、クリスチャンかそうでないのかはデータベースの項目にないので、数値を比較することができないのが残念です。
何か方法を考えられたら良いなと今、悩んでいます。

最後までおつきあいいただきありがとうございました。
スキ♡の応援よろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?