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経営行動の原理から経営学とはなにかを考える|40冊目『経営学とはなにか』

伊丹 敬之(2023, 日経BP)


経営学とはなにかを知らなかった頃

実は自分は大学も経営学部でした。
もう36年も前の話ですが。

大学を選ぶとき、経営学部でも、経済学部でも、商学部でも、実はどれでも良かったし、正直いえば違いがわかりませんでした。

今だったら間違いなく経営学部を選ぶでしょうから、経営学部に行った自分の選択は間違ってはいなかったのですが、残念ながら大学生の自分は経営学の面白さを理解できていませんでした。

そもそもちゃんと授業に出ていなかったし、授業の内容の記憶がないので、出席していたときでも、きっと居眠りとかしていたのでしょう。
もったいなかったです。

大学院はビジネススクールに行きましたが、大学でちゃんと勉強しなかった後悔もあって、授業は一度も休まず出席しました。
ビジネススクールは本当に面白かったし楽しかったです。

大学院に進学するときに大学の成績証明が必要なので、30数年振りに自分の大学の成績を取り寄せました。
我ながら成績が悪いことに驚きましたが、履修科目を見て、自分が取っていた授業には、もっと驚きました。

修士論文では「組織論」が専門ですが、大学でもちゃんと「経営組織論」を履修していたようです。
それから「国際経営論」「産業心理学」「経営管理論」「経営比較」なんて履修していました。
まったく覚えていない。

「企業形態論」に「証券市場論」。
「中小企業論」に「経営原理特論」。
われながらナイスラインナップです。
めっちゃ面白そう。
でも覚えていない。

そして「広告論」の成績はC。
前職は広告代理店でしたし、今は広報の仕事しているのにね。

「マーケティング論」や「社会調査法」は今はとても興味があるのに、なぜか履修していませんでした。
まあ、履修していても、結局、覚えていないんでしょうけど。

何度も言いますが、本当にもったいないことをしました。


経営行動の原理とはなにか

ビジネススクールを修了してMBAの学位を取得した今、「経営学とは?」と質問されたら、自分ならこんな風に答えるかも知れません。

経済学と社会学と心理学と会計学などの知見から組織経営について研究する学問。
具体的には「経営戦略」「ビジネスモデル」「マーケティング」「行動経済学」「組織論」「マネジメント」「リーダーシップ」「会計学」「企業倫理」「リスクマネジメント」などの科目がある。

文京学院大学の亀川雅人先生は著書『経営学って何か教えてください!』で、「経営学は学際的な研究分野」で「経営学を明確に定義する研究者はほとんどいません」と言っています。
そして、「科目名を言っても、その科目の内容がわからなければ経営学が何かはわからない」とも言っています。

経営学が何なのかは、簡単にひとことで答えられることではないのです。
すいません(汗)。

伊丹先生の著書「経営学とはなにか」も、経営学の定義について言及しているものではありません。

本の内容は、大きく経営行動の原理企業の本質と二部構成になっています。

経営行動の原理は以下の3つと説明されています。
①未来への設計図を描く
②他人を通して事をなす
③想定外に対処する

未来の設計図を描くは「組織の環境の中の立ち位置」と「未来をめざす流れ」を設計することです。

組織の環境の中の立ち位置を設計するでは「誰のためになにをする組織か」が問われていて、つまりは、経営戦略やビジネスモデル、ビジネスプラン、さらにはミッションやビジョンを考える章と言えます。

未来をめざす流れを設計するでは「未来の立ち位置」と「能力蓄積」「イノベーション」に着目しています。

未来の立ち位置では「拡幅」か「深化」か「転進」の3つの方向性が検討されています。
経営戦略やビジョンの文脈ですね。

能力蓄積は、物理的能力、情報システム能力、ヒトによる情報蓄積の3つに視点が置かれています。
物理的能力とは、施設、設備などの設備投資の話で、情報システム能力はビッグデータを含むデータの話。
ヒトによる情報蓄積は、ファブレスか内製か、つまり自分たちで作ればいろいろとたいへんだしリスクがあるけど、学習できるので知識やノウハウが蓄積される、外部化すれば効率的ではあるけれど外注先が学ぶことになってしまうという、メリットとデメリットについて考えています。

イノベーションに関しては、バリューや組織文化を考慮した仕組みづくりの話です。

他人を通して事をなすことが2つめの経営行動の原理だと言います。

個人事業主の延長のような企業をイメージすると、なんでも社長がひとりでやってしまう場合があるかも知れません。
専門スキルを活かして起業をすると、いわば自分の経験や能力が商品となるので、最初はどうしても人に任せずになんでも自分でやろうと考えてしまうし、そもそも人を雇う余力がない場合が多いでしょう。
どんな規模で何をするのか、企業のビジョンをどう描くかにもよりますが、程度の差はあれど「他人を通して事をなす」が行動原理であることは意識しておかなきゃと思いました。

この章で語られているのは、「組織的な影響システムをつくる」ことと、「現場の自己刺激プロセスを活性化する」ことです。
つまり、組織論やリーダーシップ論の話なのですが、「管理する」のではなく「影響を与える」べき、とあり、また、「自分の内なる声」に耳を傾ける、つまり内発的動機づけを重視しているところは、「さすがわかっていらっしゃる」という感じです。
北風と太陽じゃないですが、ルールや秩序だけで管理しようとしても人はついてこないし、結果、パフォーマンスが上がらないと思います。
多少、ルールから外れても、スタッフのモチベーションを優先できるのが優秀なリーダーの条件だと自分は常々思っています。

そして経営行動の原理の3つめは想定外に対処するです。
これは意思決定論やトップマネジメント、そしてBCPやリスクマネジメントにつながる話です。

書かれている内容は「経営戦略」「組織論」「リーダーシップ」「リスクマネジメント」といった経営学のオーソドックスなところで説明できるのですが、未来の設計図を描く他人を通して事をなすなど、章のテーマとなる言葉が、『動詞』で書かれていて印象的です。

経営学とは何かを理解するのに読む本といえば、グロービスのMBAシリーズなどをイメージしていましたので、予想外でした。

経営学の原理を示す行動はこういう行動で、それにはこんな意味が込められていて、例えばこんな事例がある、というスタイルで書かれているので、なぜ経営戦略や企業理念が必要なのか、なぜ組織論やリーダーシップ論が必要なのかということが、経営行動の原理を通して体系的に理解できるようになっています。


企業の本質とはなにか

企業の本質も3つのことで説明されています。
①企業が果たしている役割の本質ー技術的変換
②企業の構成の本質ーカネの結合体とヒトの結合体の二面性
③企業と社会との関係の本質ー社会からのさまざまな恩恵のおかげで生きている存在

まず、技術的変換ですが、「インプットを市場から買ってきて、それを市場で売れるアウトプットに仕上げる」と説明されています。
製造業であれサービス業であれ、仕入れから商品として販売するプロセスの間で、価値を加えることを技術的変換と表現しています。

付加価値=営業利益+人件費 という計算式も出てきます。

カネの結合体とヒトの結合体の二面性で説明されているのはリソースつまり資本の話です。
現在は「人的資本経営」が重要視されていますが、カネとヒトの重要性と、その捉え方の話です。
「やっぱりカネでしょ!」ということになると株主主権原理主義に傾き、利益追求にばかり注力してしまう可能性があります。

10年以上前ですが、勤務先の大学での、キャリア関連企業の講師によるキャリアの講演を見学しました。

みなさんは、企業の目的とはなんだと思いますか? 
利益を上げることです。
これ以外にはありません!

と断言していました。

それを聞いて、僕はその講義にものすごい違和感を感じました。

民間で勤務していたときに、違法行為すれすれで、自社の利益だけを考える会社を身近にたくさん見てきたので、嫌悪感があったのだと思います。

利益を上げることを一番の目的とすると、追い詰められて手段を選ばなくなることがあります。
最近はビッグモーターの不正が報道されていますが、不祥事につながったりするのです。

ここ10数年で、CSV、社会起業家、NPOの働き方、ESG投資、そしてSDGs等々が一般的になって、今ではビジョンだけでなくミッションやパーパスが重要だということを就活生も含めて多くの人が理解しましたので、前述したような講義を行う講師は、さすがにいないのではないでしょうか。

時代だったんでしょうね。

企業の本質の3つめは、社会からのさまざまな恩恵のおかげで生きている存在ということで、企業は単独で存在するものではなく、社会との関わりの中にあるということが説明されています。
企業倫理、経営哲学の話です。

利益をあげて税金を支払うことと、雇用を創出することで社会に貢献しているからそれだけで企業は責任を果たしているんだ、という考え方は、もうひと昔前のものなのだと思います。

私の勤務しているキリスト教の学校の言葉でいえば「神を仰ぎ」ですが、伊丹先生は「お天道様に恥じない経営」と書いていました。


参考書籍
亀川 雅人 , 2020『経営学って何か教えてください!』創成社
グロービス経営大学院『MBAシリーズ』ダイヤモンド社

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