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どうなる?部活動改革!☆ゲスト 日野田 昌士さん /今窪 一太(いまくぼ かずた)トークセッション#011

ES-TV note 【2023.3.8ライブ配信】

学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン

教員の働き方改革をテーマにしたときに、主なトピックの一つとなるのが部活動の問題です。

昨年(2022年)12月にスポーツ庁、文化庁は「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を公表しました。

公立中学校において以下のようなことが検討されており、予算も計上されました。
・部活動指導員、外部指導者の配置
・部活動休養日の設定
・新たに地域クラブ活動を整備し、学校の部活動を移行する
・大会の運営の在り方の見直し

私立学校である聖学院中学校・高等学校は、2020年より部活動運営の改革の取り組みを開始しています。
改革のコンセプト、進捗状況と課題、そして今後の課題について、聖学院中高の総務統括部長、日野田昌士先生をゲストに招いてお話をうかがいました。

聖学院中高の部活動改革

ーーまずは日野田先生、聖学院中高がどのように部活動の改革を進められているのかをお話しいただけますか?

日野田:部活動改革は誰のためのものなのか?
教員のため、保護者のため、社会のためなど、いろいろと言われていますが、まず最初にお話ししておくと、聖学院では生徒の満足度を下げないことを何より優先しています。

部活動の改革が必要になってきた経緯ですが、この10年ぐらいで部活動の事故などで学校が訴えられるケースが増えてきています。
先生方が手を抜いていい加減なことをしていたのかといえば、決してそんなことはありません。
しかし、学校を信頼してあずけてもらった生徒の安全を守れなかったということは何よりもまずいことだと思います。
先生のことを非難することは簡単かも知れませんが、これは、仕組みとして回らなくなってきているということが問題なのだと思っています。

私は聖学院中高に勤務をして21年目で、中学生と小学生の子どもがいます。
私はずっと中学サッカー部の顧問をしておりましたが、二人目の子どもが生まれた頃に、この働き方で良いのだろうかと疑問に思うようになりました。

生徒たちの自主的な活動であるはずなのに、なぜ教員がこれほどまでに責任を負わなくてはいけないのか。
自分は社会科の教員なのに、夏休みにサッカー部にばかり時間を取られていいのだろうか。
そして、自分の子どもの面倒も見る時間もなく、妻に任せきりで良いのか。
そんな疑問を強く持つようになりました。

また、担任するクラスで生徒のトラブルなどがあると、安全配慮義務の問題から、その日の部活動を中止せざるを得ません。
部活動を楽しみに学校に来ている生徒もいるのに、この部活動のあり方は生徒のためにもなっていないのではないかと思いました。

聖学院中高が大事にしている3つの柱があります。
それは「授業」と「体験学習」と部活動を含む「自主プロジェクト」ですが、教員のリソースをどこに投入すべきかと考えたときに、授業は1日に6時間あるわけですから、教員がそこに全力投入できる状態にあるべきとも考えました。


7年前の、最初の部活動改革

そして今から7年ほど前にスポットで外部リソースを投入するということを実施しました。

年間36万円の予算を確保してもらい、有償の指導員を雇うという形式をとりました。
中学サッカー部は平日に4回、土日のどちらかに練習があり、週に5日の練習があります。
そのうちの2回を自分が担当して、有償の指導員に週に1回担当してもらい、残りの2回を知り合いなど、さまざまなところにお願いをして、協力してもらえるボランティアの人を探しました。

これでなんとかなると思ったのですが、結果的にはうまくいきませんでした。
というのは、例えばボールに座ると怒る指導者もいればそうでない指導者もいるなど、指導員によって指導方法や価値観がバラバラで、一貫性がなく、生徒は誰を信じて良いのかわからずに混乱してしまう状況ができてしまったのです。
しかも有償の指導員ならともかく、ボランティアでお願いしている方には、生徒の不満があったとしても注文がつけ難いこともありました。
これでは生徒のためではなくて、私のための改革になってしまっているなと思いました。

2020年からの部活動改革

7年前の改革では、結局は複数の指導員のコーディネートとマネジメント業務に忙殺されることとなり問題の解決にはなりませんでした。

2度目の改革では外部指導者に適正な報酬を支払うことで、きちんとした契約を結び、生徒のためにしっかりと指導ができる安定的な体制をつくることを計画しました。
今まで、顧問の教員の熱意でなんとかしていたものを、学校全体で取り組むものとして、生徒、保護者、先生方の今までのあたりまえを疑い、自分たちだけで何とかできないのなら、きちんと外部の人の力を借りようと考えました。

この取り組みでは2つのことを決めました。
一つは教員が一切技術指導をしないということ。
そしてもう一つは部員の保護者から指導費を毎月いただくということです。
今まで費用がかからなかったものが、有料ということになるので、部員である生徒に対してどのようなベネフィットがあるのかを、保護者に丁寧に説明する必要がありました。

リーフラス株式会社と提携をして、中高卓球部、中学野球部、高校野球部、中学サッカー部、高校サッカー部の5つの部活動に関して外部指導員の派遣を行なっています。

1部活あたり、年間200万円〜300万円の費用がかかっていますが、最優先している生徒の満足度は高まっています。
定期的に生徒のアンケートを取っていますが、例えば私が顧問をしていた中学サッカー部では、「以前よりも勝ちたいと思うようになった」という答えが80%を超えるようになりましたし、「以前より先輩に敬意を示すようになった」という意見もあります。
中学野球部では「練習をとても楽しみにしている」という回答が多くなりましたし、「気軽にコーチに話せるようになった」という意見があったのは狙い通りの結果です。
というのは、以前であればコーチである顧問の教員が時間的にまったく余裕がないため、生徒が何か相談をしたくても、コミュニケーションをとりたくても、そうした時間が確保できなかったからです。
外部指導員には練習の前後に時間に余裕を持ってもらうようにお願いしているので、生徒からそうした声があがるようになったのはうれしい限りです。

外から見ていてもグランドに活気が溢れてきたなという実感があります。

職員室に先生がいるようになったという副次的な効果もありました。
生徒たちが困りごとや勉強などの相談をしに職員室に行っても、部活動の立ち合いで先生がいないということはあたりまえだったのがそうではなくなりました。

自分も昔はそうでしたので、中には部活動の顧問を積極的にやりたいという先生がいることは理解しています。
そうした先生から部活動を取り上げようとは思っていません。
むしろ業務としてきちんと認めようと思っています。
しかし、そうした先生でも、例えば育児などで部活動の顧問をできない時期もあると思います。
そうしたことを理解した上で、先生方がいろいろな働き方ができるような学校にしていきたいと思っています。

何よりも先生が笑顔でいることが大切で、それは生徒にも大きな影響を与えるからです。

教員にとっても、生徒にもとっても、良い改革になればと思っています。

スキームの全体像

ーー部活動の問題が、世の中では、教員の働き方改革としてばかりクローズアップされていますが、生徒たちにとってよりよい環境を提供するには、という視点を持っているところが印象的でした

部活動改革による成果の期待、指標は?

今窪:今回の改革ではリーフラスさんという企業と連携をされていますが、良い指導者が入ってくると成果も上がってくるかと思います。
運動部であれば全国大会出場をめざすなど目標を決めるということがあるかと思いますが、外部委託をしたときに、そうした目標の設定などはされているのでしょうか?

日野田:当然学校としてはこれを機会に部活動を強化して全国大会をめざしたいといったよこしまな気持ちが出てこなくはないのですが、「何のために部活動をやるのか?」と考えたときに、「勝つこと」は目標であって目的ではないですよね。
「勝たせること」が指導者の仕事ではなくて、「勝ちたい」と思っている生徒たちに「勝てるためのサポートをする」のが本来の仕事だと思います。
手段が目的化してはいけないので、ここの部分はリーフラスとは何度も確認を行いました。
本校がリーフラスの指導員に求めていることは、生徒たちの満足度を保つことであり、「勝つこと」はその一つのファクターではありますが、勝てるならなんでも良いということではありません。


コンプライアンスや安全をどう担保していくのか

今窪:もう一つ質問をさせてください。
部活動指導を外部化する場合に、コンプライアンスをどのように守っていくのかが気になります。
技術的な指導には長けているのだと思いますが、学校なので、倫理的な部分や安全面などで研修の必要性もあるのかなと思います。
実際に指導にあたる人にそうした研修を行うのは誰でしょうか?

また、もし万が一事故が起こり、生徒がケガをしたときに責任の所在はどこにあるのか?
その辺りをお聞きできますか?

日野田:ありがとうございます、良い質問ですね。
まず一つ目の研修についてですが、今回、連携する企業を選定する際に重視したのが、「採用」「研修」「サポート」の3つが可能かどうかということでした。

採用の段階で特に重視してもらったのはマインドの部分で、日本の指導者は「教えてあげる」というようになりがちです。

また、マインドがあってもスキルがなければ指導はできないので、スキルセットとマインドセットの研修を最低1ヶ月実施してもらうようにリーフラスにお願いしました。

指導員の合格ラインを、それまでの教員の指導よりも「教えるのが上手いこと」としたのですが、学校の先生は教えるのが上手でマネジメントの力も持っているので、それ以上というのは実はなかなかにハードルの高い条件でした。

練習の中では、どうしても教えるサイドの人間がマウントしがちなので、統括責任者という形でリーフラスの社員の方に関わっていただき、サポートの体制をお願いしています。

2つめの質問の事故の際の責任の所在ですが、まさに大事なところです。
生徒たちの安全を守れなければ、まったく意味がありません。
指導者には「生徒たちに無理はさせないでほしい」「まずいと思ったらやめてほしい」と強く言ってあります。
この取り組みは、チャレンジングな取り組みであるので、社会からは今まで以上に厳しく評価されると思います。
ですから、どんな小さなケガであってもすべて報告してもらっていますし、報告漏れが発生しないように常に注意してもらっています。
そして、それでも万が一、重過失または故意によって生徒に重大な損害が生じた際の責任はリーフラスが負うという契約になっています。

ーー私立の学校だからできるのではないかと言われることもあるのかなと思うのですが、公立の学校、あるいは私立の他の学校に対して改革の先行者としてご教示いただけることがありますか?

日野田:部活動の改革だけでなく、私が日頃から意識をしているのは、違和感を感じたら見て見ぬふりをしないということです。
先生たちは真面目で熱意のある人が多いですが、その姿は生徒に見せたい姿ですか?というのが私の問いです。

そして、生徒にチャレンジしろ!というのであれば、先生たち自らがチャレンジしていますか?と校内の先生に質問しますし、自分自身にも問いかけています。

今回の改革は7割くらいはうまくいったと思っていますが、残りの3割くらいのところで、「保護者からお金を徴収して良かったのか?」「先生が部活で指導しないのが良いのだろうか?」など、自問自答することも多々ありました。
しかし、考えて、やらないよりは、やってみてうまくいかなければ変更すれば良いと思いました。

こうしたチャレンジを生徒にも見せて、そして他校の若い先生にも見てもらいたいと思っています。

競争ではなくて共創です。
そして教育業界だけではなくて、日本全体で取り組んでいくムーブメントにするべきだと思います。

おっしゃる通り、聖学院だから、私学だからできたとはよく言われます。
「天の時、地の利、人の和」という言葉があります。
3つが揃わないとものごとが動かないということは歴史が証明しています。
そういう意味では、私は、それが揃った聖学院だから取り組んだのだと思います。

では、公立の学校では不可能なのかといえば、その時にそこにいる先生が一生懸命やり方を考えたらいいんです。

聖学院の取り組みはうまくいっていることも、うまくいかなかったことも全部オープンにしています。
そしてできるだけシンプルな仕組みにしていますので、他の学校が、自分たちの学校の特色に合わせてうまく取り入れてくれたらと思っています。
ナレッジを共有していくことで、新しい価値は生まれていくのではないでしょうか。

ーー日野田先生ありがとうございました

聖学院の取り組みが他の学校や地域に広がって、国全体の改革につながるといいなと思いました。この取り組みをもっと多くの人にも知ってもらいたいので、質問やお問い合わせ、あるいは日野田先生とつながりたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひメッセージをください。(MC:善福 真凪)

日野田先生のトークの動画はこちらからご視聴いただけます。

●日野田 昌士(ひのだ まさと)さん プロフィール
聖学院中学校・高等学校 総務統括部長(教頭)
同志社国際中高、同志社大学法学部卒業後、聖学院中高に公民科教諭として勤務。
「教育が変わることによって社会が変わる」がモットー。

最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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今後とも、EDUCATIONAL SUPPORTのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

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