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デザイン思考の限界!?「人間」中心開発デザインでは地球が崩壊する!!!|4冊目『サーキュラーデザイン』

水野大二郎・津田和俊 著 図解総研 図 (2022, 学芸出版社)

デザイン思考の限界!?
「人間」中心開発デザインでは地球が崩壊する!!!

前回は私の大好きな会社 IDEOのトム・ケリーとデヴィッド・ケリーの『クリエイティブマインドセット』を紹介しました。

IDEOといえばデザイン思考で、デザイン思考ももちろん私は大好きなのですが、「デザイン思考はもはや限界である」というところからサーキュラーデザインの授業がはじまりました。

TAMA DESIGN UNIVERSITYの学生証


TAMA DESIGN UNIVERSITY

昨年12月、多摩美術大学が期間限定でバーチャル大学『TAMA DESIGN UNIVERSITY』を開講しました。

無料で誰でも視聴できる、デザインをテーマにした講義で、とんでもなく豪華なラインアップ。

本当に充実した内容だったので、私はよなよな見まくって、おそらく全部で20講義くらい視聴したのではないでしょうか。

※現在はTUBの公式YouTubeチャンネルで見ることができます。

そのうちの一つが京都工芸繊維大学の水野大二郎先生のサーキュラーデザインでした。

デザイン思考では、人を観察して、その人の立場に立つこと共感することで課題を引き出しますが、いわばそれは顧客のニーズです。

IDEOはHUMAN CENTERED DESIGNと言います。

ですが、もはや人間中心に考えている状況ではありません。

例えば消費。消費者の立場、すなわち人間中心に考えるならば捨てる方が「楽」という場合はたくさんあります。


人間は人間中心というか、必要以上に都合のよい社会を求め過ぎました。

そして環境は破壊されていったのです。

人間中心ではなくて地球全体を考えるべきです。


サーキュラー・エコノミー

サーキュラー・エコノミーは日本語にすると循環型経済となります。
SDGsを達成するための実践的な考え方です。

循環型といえば3Rを思い浮かべるかと思います。
リデュース、リユース、リサイクルで、日本は先進的な取り組みをしてきました。

ですがサーキュラー・エコノミーの循環は3Rとはパラダイムが違います。

日本の3Rはリサイクリング・エコノミーであり廃棄物ありきが前提です。

対してサーキュラー・エコノミーは廃棄物と汚染を発生させないことが大前提です。


「サーキュラー・エコノミーの3原則」というのがあります。

廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う。
製品と原料を使い続ける。
自然システムを再生する。

サーキュラー・エコノミーの3原則


今回はサーキュラー・エコノミーではなくて『サーキュラーデザイン』の紹介ですので、サーキュラー・エコノミーについてはこのくらいにしておきます。

詳しく知りたい方は、中石和良氏の『サーキュラー・エコノミー』を読まれると良いと思います


サーキュラーデザインとは


サーキュラーデザインとはサーキュラー・エコノミーとそれに関連するデザインの融合を言います。

サーキュラーデザインの対象は製品だけでなく仕組みなど、様々です。


これまでのデザインの変遷を見ると、SDGsとともに突然サーキュラーデザインが登場したわけではなく、年代ごとにその方向性はありました。

1980年代の環境配慮型のデザインは「エコデザイン」。
「エコデザインの12の原理」というカタログをアメリカ工業デザイナー協会が発行していて、耐久性や修理、再製造、リサイクルなどについて書かれています。

1990年代には「サステナブルデザイン」が発展しました。
サステナブルデザインはエコデザインに類似していますが、社会的課題が対象となっているところに違いがあります。

そして2010年代には「トランジジョンデザイン」があります。

これは持続可能な未来への社会的な移行を実現するためのデザインでコスモポリタン・ローカリズムとも言われます。


今回はマインドマップではなくグラレコで


サーキュラーデザインの事例、プロトタイプ

衣・食・住それぞれの課題とその解決策としての事例を見ていきましょう。


「衣」について、
ファッション産業の主たる課題は主に次の4つと言われています。

  1. CO2:世界で排出されるCO2のうちファッション産業は約10%を占める

  2. 水:染色による水質汚染など世界の水質汚染の20%はファッション産業が原因

  3. 在庫:毎年つくられる服の85%が販売されずに処分されている

  4. マイクロファイバー:海中に浮遊するマイクロプラスチックファイバーの35%がポリエステルなどの衣類の洗濯によるもの

微生物の遺伝子を組み替え、発酵技術を応用するとタンパク質で服がつくれるのだそうです。

クモの糸由来のタンパク質からつくった繊維で編んだセーターなどがあります。

また、無縫製で成形可能な菌糸体由来、つまりキノコでつくった代替レザーが開発され商品化されています。


「食」に関わる課題は、
気候変動や生態系破壊、食品ロス、食糧危機、プラスチック海洋汚染などがあります。

例えば作物の栽培がその方法によって環境に影響を与えることがあります。

過剰な施肥や不適切な農薬の使用などで生態系を破壊することなく、自然の物質循環を利用した適切な生産方法を行うことが求められています。

そうした観点から進められているのが協生農法ーシネコカルチャーです。

協生農法とは「無耕起、無施肥、無農薬、種と苗以外一切持ち込まない制約条件で、植物の特性を活かして生態系を構築・制御し、生態学的最適化状態の有用植物を生産する露地作物栽培法」と定義されています。

ユニークなものでは循環型の食料生産システムの試み、アクアボニックスがあります。

これは養殖と水耕栽培を組み合わせたもので、魚を養殖することで残滓や糞尿に含まれるアンモニアや亜硫酸などを窒素肥料成分として植物の水耕栽培に利用するものです。


「住」に関わる課題は、
大量生産・大量消費・大量廃棄、電気電子機器廃棄物、森林伐採などです。

住に関する課題の解決は製品の長寿命化や修理方法を提供する、あるいは所有しないでシェアリングの仕組みを考えたりすることです。


そして思うこと


このような衣・食・住に関する課題やその解決策を読んで思うのは、環境破壊の原因の多くが製品の低コスト化、合理化、効率化にあったのではないかということです。

安価な製品でも、技術の進歩によって一見品質が良さそうに見えますが、実は粗悪さによる負担は地球に押し付けられてきました。

服を安く作って、大量に売って儲けようとしたために、海はマイクロプラスチックファイバーだらけになってしまいました。

食の問題も、住の問題も然りです。

必要のないものを安い材料で大量に作って、修理をすればまだ十分に使えるのに、買い替えを促進するビジネスモデルが環境をどんどん悪い方向に追い込んでいったのです。


環境に負荷をかけない、クモの糸やキノコでつくる服などは夢のようですが、実はその販売価格はけっこう高額になりそうです。


高品質で美味しい代替肉なども、そう遠くない将来にあたりまえになると思いますが、まずまずの値段になるでしょう。


メーカーのコスト戦略によって環境破壊が進んでしまったのだから、その解決策はハイエンド製品にあるのではと思っています。

ハイエンド製品は極端な発想ですが、無理してコストを抑えるのではなく、適正な原価をかけて、適正な価格で販売する、適正な製品を目指すべきなのだと思います。


それから、これほど便利な世の中じゃなくてもよかったような気がします。

便利だから豊かであるとは限りません。


階段を昇れば良いのに若い健康な人までエスカレーターを使い、近づいてスイッチを入れれば良いのにリモコンを作って、最近はリモコンどころか話しかけるだけで操作ができたりする。

文化や科学技術を否定するつもりはないですが、自分で簡単にできることまで、技術に任せてしまうことには違和感を感じます。

人間中心といえば人間中心ですが、全体視点が欠けているものは、デザイン思考とは言わないと思います。


便利さと引き換えにたくさんの資源が使われて、
地球の寿命はどんどん縮んでいくのでしょう。


どうでも良い便利のために、リスクを背負う人類。

まるで悪魔との契約のようでもあるし

読むと寿命が縮む恐怖新聞のようでもあります。


参考書籍
中石 和良, 2020 『サーキュラー・エコノミー』ポプラ新書
つのだ じろう『恐怖新聞』少年チャンピオンコミックス


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