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第4回「ステークホルダー・コミュニケーション、SNS、オウンドメディア」




ステークホルダー・コミュニケーション

これまでの授業でもお話ししてきましたが、広報とは作業ではなくて、関係づくりであり、コミュニケーション活動です。

では、誰とのコミュニケーションかといえば、「ステークホルダー」とのコミュニケーションです。
ステークホルダーという言葉は、学生の皆さんには馴染みのない言葉かもしれません。少し定義を整理しておきましょう。

ステークホルダーとは、組織の使命、目標の達成に影響を与えることができるか、あるいはそこから影響を受けるグループや個人

Freeman, 1984

ステークホルダーとは会社(や団体)に関わる利害関係者のことと説明されることが多いですが、利害関係とは金銭的なことだけではありません。

ステークホルダーは「直接的」「間接的」、あるいは「一次ステークホルダー」と「二次ステークホルダー」と区分されることがあります。

一次ステークホルダーとは、顧客や従業員、株主、取引先など、優先度の高いグループを指し、二次ステークホルダーとは行政やNPO、地域などの一次ステークホルダーよりは関わりの薄いステークホルダーを言います。

広報について基本的なことが書かれた本を読むと、「マス・コミュニケーション」「ダイレクト・コミュニケーション」「マーケティング・コミュニケーション」「インターナル・コミュニケーション」というようにコミュニケーションという言葉が頻繁に使われています。

「パブリック・リレーションズ」も広報と訳しますが、「メディア・リレーションズ」「コミュニティ・リレーションズ」「インベスター(投資家)・リレーションズ」「エンプロイー(従業員)・リレーションズ」など、リレーションズという言葉も多く使われています。

対象者(ステークホルダー)ごとに適した関係づくり(リレーションズ)の手法(コミュニケーション)があるということです。


広報リーダーシップ的SNSの捉え方

今回はSNSを使ったコミュニケーションと、オウンドメディアを活用したコミュニケーションについて学んでいきたいと思います。

【SNS】
SNSとはソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の頭文字を取った略で、登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービスのこと

出所:総務省サイバーセキュリティサイト

「簡単」「無料で使える」「すぐに配信できる」「双方向のコミュニケーションができる」「効果測定・評価ができる」などの特色があり、具体的には『X』『Instagram』『TikTok』『LINE』『Facebook』『YouTube』などがあげられます。

Xは拡散力がある分、炎上などのリスクが高い。
Instagramは視覚的なアプローチができて、若年層や女性への訴求率が高い。LINEは一対一のコミュニケーションやコミュニティづくりが可能で、囲い込みしやすい。
YouTubeは動画という強力なコンテンツに加えてYouTuberの存在がある。
Facebookはユーザーの年齢層が高めで、ビジネスマンやコミュニティグループへのアプローチができる。

などの長所、短所があります。
それぞれの特色を活かして使い分けることで、効果的な広報効果を得ることができます。

また、投稿の露出を増やすためにはAIやアルゴリズムに好かれるテクニックがありますが、そうしたスキルやテクニック的なことはそれぞれのSNSの専門書にお任せして(それがムダ、不要ということではありません)、ここでは「広報リーダーシップ学」らしい講義をしていきたいと思います。

私は実務家として自分の経験から持論をお話しします。
持論は理論とは違って一般化されているものではありませんから、必ずしも正しいとは限りません。

私の持論を聞いて、皆さんがどう考えるのかが大事だと思っています。
誰かの意見を鵜呑みにするのではなくて、自分の頭で考えて、皆さんなりの広報に関する持論を構築していただきたいと思います。


会社を好きになってもらうには

コーポレート・コミュニケーションとは、ステークホルダー(利害関係者)との好ましい関係性づくりのためのコミュニケーション活動であり、会社に好意を持ってもらい、信頼性を高めることが目的にあると言いました。

SNSへの投稿や、閲覧者とのやり取りを通して、会社を好きになってもらおうとするならば、皆さんならどうしますか?

会社の良い情報だけをたくさん投稿したいと思うかも知れませんね。

でも、考えてみてください。
皆さんは一方的に自分の自慢話ばかりする人のことを好きでしょうか?

また、コミュニケーションで重要なのは、上手に話すことではなくて、相手の言葉にしっかり耳を傾けることです。

こちらの一方的な都合で情報発信するのではなく、読む人にとって役に立つ、読む価値のある情報とは何だろうか?と常に考える必要があります。


まずは自分を好きになってもらう

「中の人」(SNSで個人の名前を伏せて会社の人格として担当する人)が、自分の会社を好きになってもらうためには、「中の人」という縁の下の存在でありながら、会社よりもまずは自分のことを好きになってもらえるように振る舞うべきだと私は思います。

押し付けるような情報発信をするのではなく、誰かの投稿に関心を持って読み、そしてコメントしてみたり、自分の投稿にコメントをくれた人に誠意を持って返信したり、感情を尊重した人間らしい振る舞いをすることが好意を得ることにつながると思います。
そして、相手に心を開いてもらうには、まずこちらがオープンな姿勢をとり、好意を持つべきだと思います。

そして、自分自身を好きになってもらうことで、会社も好きになってもらうには、自分と会社との間に一貫性が必要です。

広報担当者であるあなたは、経営者や会社のビジョン、理念を十分に理解して、そしてそれを自分自身の言葉として語らなくてはいけません。

もしも経営者や会社の考え方に違和感があって、腑に落ちなければ、経営者だからといって無条件に迎合するのではなく(前回の講義でゲスト講師の牧さんも言っていました)、おかしいことはおかしいときちんと提言することも広報としての大事な役割だと思います。

そして自分イコール会社と考え、社長の考えを自分が代弁するつもりで、SNSを通したコミュニケーションを取ることが大事で、KPI(Key Performance Indicatorの頭文字を取ったもので、目標達成の指標となる数値)を上げるテクニカルな仕掛けや戦術はそれがちゃんとできてからだと私は思います。


オウンドメディアとは

次にオウンドメディアについてお話しします。
まずは、オウンドメディアとは何かを説明します。

「トリプルメディア」といって広報するためのメディアの種類を以下の3つに分類することができます。

【トリプルメディア】
 ①ペイドメディア
 ②アーンドメディア
 ③オウンドメディア

1つめのペイドメディアとは、お金を払う(ペイド)メディア、すなわち広告のことです。
お金を支払うのでコストは掛かりますが、情報をこちらでコントロールすることができます。
しかし、情報を受け取る人は、それが広告だとわかっているので、いくら良いことが書かれていたとしても無条件に情報を信じるわけではなく、簡単に信頼を築くことにはつながっていきません。

2つめのアーンドメディアとは獲得した(アーンド)メディアであり、新聞や雑誌、インターネットニュース、ブログ、ソーシャルメディアなどの費用が発生しない編集記事のことを言います。
コストは掛かりませんが、情報をこちらに都合よくコントロールできるものではありません。
しかし、だからこそ客観性があり、メディアの言葉で書かれた情報によって信頼が作られていきます。

そして3つめがオウンドメディア、すなわち会社や会社のブランドが所有する(オウンド)メディアのことです。
自社が所有するメディアなので情報のコントロールはできますが、自分たちに都合が良い記事ばかりを配信していては、ファンは獲得できません。
社会に役立つ、読んで面白いコンテンツを構築すべきで、読者視点が求められるメディアです。

オウンドメディアのキーワードは2つあります。

1つは「コンテンツマーケティング」です。
自社の顧客や見込み客にとって興味、関心があるのはどのような情報であるのか、需要を探り、対象読者にとって有益な情報となり得るコンテンツを提供することでマーケティングを行うことです。
自社と社会とをコンテンツでつなげる活動と言えます。

2つめは「ブランドジャーナリズム」です
自社のメディアであったとしても、公正で意思のあるジャーナリズムを持ち、情報を正確に、倫理的に伝える姿勢が必要だということです。
単なる自社宣伝のための記事ばかりを掲載していては、オウンドメディアのメディアとしての成長は期待できません。


卒業生紹介オウンドメディアをnoteで制作

私が勤務している学校のオウンドメディアについて少しご紹介しましょう。

私たちは、学校を広報するには、現役の生徒や学生の満足度を高めることと同様に、卒業生の学校への帰属意識を高めることが大事であると考えました。

社会で活躍している卒業生は、学校にとって誇りであり宝物です。

卒業生にとって同窓生である他の卒業生の活躍ぶりは、自分自身の誇りにつながり、励みや刺激にもなります。

一次ステークホルダーとしては卒業生の他に、教職員がいます。
教職員にしてみれば、卒業生たちの活躍は単純にうれしいばかりでなく、卒業生こそが自分たちの教育の成果なので、その活躍はプレステージ(名誉、威信)へとつながり、モチベーションを高めます。

以上のようなコンセプトで、卒業生、現役学生・生徒とその保護者、そして教職員を読者対象とする卒業生紹介オウンドメディアの企画を立てました。

企画立案当初は自前のWEBサイトを検討しましたが、サイトの構築は費用がかさみ、運用するランニングコストも掛かります。
そしてせっかくサイトを構築しても、見てもらえなければ意味がありませんから、別に告知を行ってそのサイトに人を集めてこなくてはなりません。

果たして自前サイト構築が最良の方法なのか?
他に何か良い方法がないかと考えた結果、たどりついた答えがnoteの活用でした。

オウンドメディアとは自社でメディアを所有するものですが、と言っても、一から自分たちで作らなくてはならないわけではありません。

noteを利用すれば、WEBサイトをあらためて構築する必要がありませんし、仮に構築したとしても、note以上のメディアを作れる保証はどこにもなく、実際、かなり困難だと思います。

noteは、ハード面の使い方マニュアルはもちろんのこと、ソフト面のコンテンツのヒント、記事の書き方などのチュートリアル(指導)サービスが充実しています。
顧客に対するそうした細かい配慮にはとても好感が持てます。

SNSコミュニティやメーリングリスト、学校内のイントラネット(組織内コミュニケーションシステム)等を通じて、卒業生や教職員に対してnoteへ誘導するアプローチは必要ですが、そんなことをしなくても、すでにnote上には人が集まっていますので、二次ステークホルダーである地域、行政、他の教育機関、潜在的受験対象者(とその家族)の認知を高めるといった副次的効果が図らずもありました。

そうしてできあがったのが、
聖学院広報センター公式note 卒業生紹介オウンドメディア
『The story of Seigakuin』です。

このオウンドメディアは、卒業生とのコミュニケーションを目的としているので、取材、撮影、原稿作成、校正、配信を外部の制作会社に委託しないで、自分たちで内製しています。

3年めを迎えた現在、約60の卒業生記事を配信していますが、取材をした卒業生から別の卒業生を紹介してもらったり、記事を掲載した卒業生に学校で講演をしてもらったり、卒業生の方から自薦で取材の申し入れがあったり、あるいはnoteがきっかけで卒業生同士がつながったりということが起こりはじめています。

オウンドメディアを持つことが、組織とステークホルダーとの関係を進化させると言われていますが、まさにそれを実感しているところです。


さて、本日の授業は以上となります。
みなさん、お疲れ様でした。
いかがだったでしょうか?

次回は、実際にオウンドメディアを運用されている企業の方を招いて、オウンドメディアのコンセプトと内容、立ち上げの経緯や、印象に残っているエピソード、成功事例と課題について、お話をうかがいたいと思います。
どうぞお楽しみに。


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