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小学校英語教育の今とこれから☆ゲスト 小川 隆夫 先生 /今窪 一太(いまくぼ かずた)トークセッション#008

ES-TV note 【2022.11.8ライブ配信】

小学校英語教育の現状

以前、柏市の小学校で英語の授業を見学させてもらったことがあります。
英語の外部講師を招いての小学校1年生の授業でした。
小学校において2020年から英語(外国語)が教科としてスタートしていますが、今、現場ではどのような状況にあるのか、小学校の英語教育に詳しい、聖学院大学 児童学科特任教授の小川隆夫先生にご登場いただき、お話をうかがいました。

ーー現在の小学校の英語教育の現状をお教えいただけますでしょうか?

小川:学習指導要領の改定によって、小学校の英語は2020年に教科となりました。
そのスタート時期は、ちょうどコロナが世界的に大爆発しているときだったので、困難な門出だったと言えるかも知れません。

小学校の英語教育の歴史を遡ると、1992年に文部科学省が大阪の二つの小学校、真田山小学校と味原小学校を研究開発学校としたのがスタートです。
そこからすでに30年が経過しました。
今、ようやく全国すべての小学校で英語を学ぶようになりました。

3、4年生は「外国語活動」が週に1回、年間35時間が設定されています。
5、6年生は「外国語科」という教科として、週に2回、年間で70時間の授業を行なっています。

見学された柏市は小学1年生の授業とのことでしたが、 1、2年生は外国語活動としても教科としても授業の実施は義務付けられていないので、授業を実施していない学校もたくさんあります。
しかし、先進的な学校や文科省から特別な評価をもらうような学校では、年間10〜20時間ぐらい実施しているところも確かにあります。

特例としては、さいたま市は、「グローバル・スタディ」という市の方針に基づいて、小学1年生から中学3年生までの連携したプログラムを持っていて、長い間授業を行ってきています。
そんな自治体もあるということですね。

柏市のように、民間の講師がアドバイザーとして入っていることもありますし、英語の専科を入れて専科教員が主導してやってるところもあります。
それからネイティブの外国人のALTもいます。
「ネイティブ」の外国人とというと語弊がありそうですが、実はALTはネイティブではない韓国の方や中国の方もたくさんいます。

整理をしますと、担任が一人で授業をしている学校があり、担任とALTでやっている学校があります。
担任と日本人のアドバイザーでやっている学校もあり、そこにALTも入っている学校があります。
そして、担任、ALT、日本人アドバイザー、さらに専科がいるような学校もあります。
ですから、各自治体によって、そして各学校によって、授業のカタチというのは様々なのが今の状況です。

そして、またICTの導入があります。
今、子どもたちは全員がタブレットを持っているわけですから、自分で英語の音声を聞いたり、正しい発音を聞いたりするなど、自分で考えて探して音を聞いて、先生と話し合うというような学び方をしている学校もあります。

5、6年生は教科書があるので、教科書に沿って授業を行うことが可能です。教科書をどう活用するかは、その先生の力量や、学校の年間計画によると思いますが、教科書があるということでずいぶんやりやすくなったという声を聞いています。
小学校で英語を学ぶ良さというのは、教科書じゃなくて、自由な取り組みで、歌をいっぱい歌ったり、ゲームをしたり、絵本をたくさん読んだりということをやりたかった先生もいたとは思いますが、全国では、現在、7社の教科書が発行されて、使われています。

「英語は苦手」と思ってしまう意識の原因

ーー大人では英語が苦手という意識ある人が多いと思うのですがどう思われますか?

小川:外国語不安という言葉があります。

自分の発音は通じるだろうか?
うまく伝わらないのではないか?
相手はしっかり聞いてくれないのではないか?
英語が話せないことを馬鹿にされるのでは?

などと常に考えてしまうことが日本人の大人がなかなか英語を話せない、コミュニケーションが上手く取れない要因だと言われています。
海外の方たちとか留学生を見ていると、そんなことはあまり気にしてないようですよね。
発音については、実は現在は正しい発音などはあまり求めらていなくて、世界の共通語として人と通じる英語であればいいということなんですね。
世界中の人が意味を通じさせて、コミュニケーションをとることが大事なわけですから、発音よりむしろ教養が必要なわけです。
相手に伝わるレベルの発音であれば、日本人の訛りがあっても全然関係ないと学生には指導しています。
「訛り」とは何か、といえば母語が影響している英語ということです。
例えば、ネパールの人にはネパール訛りがあり、インドの方もそうですし、中国人は中国人っぽい英語を話します。
だから私たちの英語だって、日本語っぽい英語で全く構わないんですけども、日本人の場合はそれがとてもがコンプレックスになってしまって、英語を発音したがらないということになってしまっています。

産業能率大学が2001年から3年ごとに「新入社員のグローバル意識調査」という調査を行なっています。
「海外で働いてみたいと思うか」という質問の集計をしています。
2007年頃は、およそ30%の方が海外で働きたくないと言っています。
それが2017年の調査ではその倍の60%に及ぶ人たちが、自分は海外で働きたくないと回答しています。
その理由は、「自分の語学力に自信がない」「コミュニケーション力に自信がない」ということです。
日本は小学校から何らかの形で英語を学ばせよう手間隙をかけてきていて、2017年の調査で回答した人たちも実は昔からずっと、英語をなんとかしようとしてやってきたんですけれども、残念ながらそんな回答率になっているんですね。
面白いことに、「グローバル化を進めるべきですか?」という質問に対しては80%の人が進めるべきと言っています。
みんな海外に行きたくないのに、誰がグローバル化を進めるんでしょうか?

日本人は、例えば中国の人たちと比べたら、英語を使う機会が少ないということが、その一つの大きな要因になっていると思います。
せっかく英語を習っても、日本の環境だと、教室から一歩外に出るとまったく日本語以外使わなくなってしまうわけですからね。
英語で話しかけてくれる人もいませんし、日本人同士が英語で話すということはまずないわけです。

ーー英語に限らずですが、日本人は失敗したくなくて、チャレンジできないことが多い気がします。良い方法がないでしょうか?

小川:日本人って曖昧なものをとても嫌がるんですね。
英語もきちんと話していないとダメなのではないかとか、人にどう思われるだろうとかって常に思ってしまうようです。
曖昧なものを受け入れられる、英語に対する曖昧耐性を強くして英語を話す、聞くにしても話すにしても完璧なことなんてないので、完璧でなくても良いと思えれば、ずいぶん気持ちも楽になると思います。

TOEICや英検のリスニングのテストの途中でちょっと聞き取れない言葉があるとそこで耳が止まってしまい、その後は全然聞こうという意欲がなくなってしまう経験を多くの人がしています。
日本語だって一語一句まで全部を聞いたりしないですよね。
母語の場合は、聞き取れないところを知識で補って意味を推測するわけですから、英語も同じで、曖昧なところは文法の知識などで言葉を補足するものだと考えたら気持ちが楽になります。

翻訳機があれば英語を学ぶ必要などないのか?

今窪:今、私は翻訳機を持っています。
ちょっと使ってみましょう。
「英語を学ぶ意味はなんですか?」

What is the meaning of learning English?

ーー外国語の翻訳機の性能がずいぶん良くなってきました。翻訳機があれば英語を話せなくても良いのではないかという意見もありますが、小川先生はどうお考えですか?

小川:これから翻訳機はもっと進化して、自分の言いたいことを相手に伝わるような言葉にかなりの精度で変換してくれるようになると思います。
しかし、実はコミュニケーションとはそれだけではないと言われているわけです。
相手との関係や場面に応じて、ルールを守って言葉を適切に使っていくコミュニケーション能力が、実は4つあると言われています。
その中の1つを「社会言語学的能力」と言います。

1.コミュニケーション言語能力
2.文法的能力
3.社会言語学的能力
4.方略的能力

参照:「コミュニケーション言語能力論における語用論的能力と社会言語学的能力」
常葉大学外国語学部紀要 (2017, 坂本, 谷)

相手との関係やその瞬間の場面、そして状況や目的に応じて、言葉や話し方を変える、そして場を読んで、例えば「みんながお互いに丁寧に相手をリスペクトするようにしているな」とか、そういうことを感じながら話せる能力を社会言語学的能力と言うのですが、それは機械には備えられないと言われています。

今窪:翻訳機の先ほどの英語訳「What is the meaning of learning English?」は私の言いたいことと合っていると思いますか?

小川:「meaning」は「意味」ということですね。
でも、むしろ本来は、「あなたにとって英語を学ぶ目的は何ですか」という質問なのではないでしょうか?
日本語では同じ意味の異なる言い回しがあるわけですよね。
だからもしかしたら「意味は何ですか?」ではなくて、「目的は何ですか?」とか「なぜ学ぶのですか?」と言った方が相手にわかりやすいかも知れないですね。
翻訳機は単語を正確に訳すことはできるかも知れないですが、私たちは文脈の中で言葉を変えて話しているわけですから、そこは機械では難しいのではないでしょうか。

善福:サッカーのたとえばかりになってしまいますが、サッカーチームの外国人監督や選手の通訳をされる方はサッカーの経験者で、サッカーを理解している人が多いと思います。
なぜかといえば、サッカーに対する考えや、期待している要素がサッカーの中に存在しているので、サッカーの前提を理解していなければ、言葉が伝わり難いということがあります。
それと少し近いところがあるのかなと思いました。

小川:スポーツの通訳の方もそうですけれど、その場にふさわしい言葉があるわけです。
英語を日本語にする場面では、「日本特有の忖度みたいな文化を理解して話しているんだな」とか、逆に外国人には、「忖度した言葉で話さずにストレートに伝えた方が正確に伝わるだろう」とか、いろいろと考えて通訳していると思います。
ですから、通訳の仕事は簡単にはなくならないだろうと予想する人は多いです。

今窪:大谷選手の通訳の水原さんという方がいらっしゃいますよね。
大谷選手の実力や人柄が、もちろん人々に愛される理由ではあるんでしょうけども、通訳の仕方によっても大谷選手が愛されるかどうかというのがだいぶ違ってくるような気がします。

小川:先日、新聞でもそんな話題が取り上げられていましたね。
おっしゃる通り、大谷選手が愛されるうちの何割かは通訳の方の力かも知れないですね。

国語の勉強が、実は大事な英語の勉強

ーー子どもたちは、小学校から英語を学びはじめるようになったわけですが、どうすれば英語に興味を持ったまま成長できるのでしょうか?

小川:決まり文句みたいな英文をたくさん喋れても、それではあまり意味がありません。
話すべき内容がきちんとなければ、世界で勝負はできないと思います。
英語を勉強するということは、国語もしっかり勉強するということではないでしょうか。
自分の言いたいことを、きちんと自分の言葉で言えなくてはなりません。
「トイレはどこですか?」とか「これはいくらですか?」と言えれば良いわけではないのです。
自分で主張したい内容がきちんとあって、自分の読んできた本とか知識、すなわち教養をもって話ができなければ、世界の人たちからは無視されてしまいます。

まずは自分の好きなものからアプローチするのが良いと思います。
例えば善福さんのようにサッカーからというのも良いでしょう。
歌から入るのも良いでしょう。
最近の子どもたちは耳がいいので、英語で歌うのが上手です。
大人がなかなか歌えないのは、文字を追ってしまうからでしょうね。
歌を一緒に歌ったり、英語の絵本などたくさん読み聞かせしたら良いと思います。
英語の絵本はよくできていて、英語ではパンチラインといいますが、必ずオチがついています。
マザーグースを引用した文が新聞の見出しに使われるなんてこともめずらしくないので、文化として学んでおくことは将来きっと役に立つでしょう。
またそうした絵本の簡単な文や歌の中にも基本的な文法が含まれていることも多いので、文法を学ぶにも効果的なんですよ。

聖学院大学 児童学科は子ども教育学科に名称変更予定

ーー小川先生の所属する学科の名称が変更されるとうかがっていますが?

小川:聖学院大学人文学部児童学科は2023年の4月から子ども教育学科という名称に変わります。
子どもの教育を通して世の中に貢献できる人材を育てるという意味では変わらないのですが、今までであれば、保育士や幼稚園教諭、小学校教員という限定的な目的のために入学していたのが、子どもの教育について学び、それを活かして子どもに関わる企業で働くなど、多様な職業選択に対応できる学科となります。
そうした意図から学科名を変えることになりました。

聖学院大学 子ども教育学科の詳細はこちらから

https://www.seigakuin.jp/news/press-release/20220131jidou/

今窪:聖学院大学は教員採用試験に向けて、学生も先生もたいへん努力されているというイメージがあります。
実際、その成果が出てきていると思うのですが、教員採用試験に向けて、あるいは試験に受かった学生に向けてどのようなフォローをされているかをお聞かせいただけますか?

小川:私は外国語の指導法等をメインに教えていますが、今までは、小学校の教員向けの外国語指導法というのは必修科目ではなかったんですね。
しかし、学習指導要領の改定で外国語が教科になるにあたり、小学校の教員養成のすべての大学が実施するものとなりました。
聖学院大学の場合は10数年以上前から必修ではありませんが外国語指導法が選択科目としてありました。
小学校教員の免許を取得する学生たちのほとんどはその科目を受講していました。
現在は、もっと進んでいて、2年生で外国語活動について学び、3年生で外国語科の授業を学んでいきます。
2年生のときに専門的な知識などを学び、実践的な内容を3年生で学んでいます。
さらには、採用試験に合格した学生、あるいは惜しくも合格できなかったけれど、臨時採用でも教壇に立ちたいという学生に対して、これから秋学期の試験が終わった後で、ALTとどのようにコミュニケーションをとって授業を展開していくかということを特訓する講義をプラスアルファで実施しています。
この講義は任意の希望者の学生が参加するわけですが、4月から自分がALTと一緒に授業をしていくことになるので、積極的に参加する学生が多いですね。

ーー小学校の英語教育についてたいへん興味深いお話が聞けました。小川先生の教え子の先生もぜひご紹介ください。(MC:善福 真凪)

「先生といっしょ!はじめての英語」は自分たちも英語を教えたいという保育士や幼稚園教諭の卒業生からの要望に応えて出版されました

「小学校英語 はじめる教科書」は教員養成大学の外国語指導法の教科書として多くの大学に採用されています

●小川 隆夫(おがわ たかお)さん プロフィール
聖学院大学 人文学部 児童学科 特任教授
立教大学大学院 異文化コミュニケーション研究科 修了
埼玉県の小学校教員として様々な英語活動を実践の後、渡米、リーズベケット大学大学院にて英語教授法を専攻
著書『先生といっしょ!はじめての英語』(フレーベル館 , 2019)、『小学校英語 はじめる教科書』改訂版(mpi松香フォニックス, 2021)他

最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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