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第6回「企業広告、アドボカシー、意見発信」




企業イメージアップのための広報

第1回の講義で、広報とは何か、広報が発揮すべきリーダーシップとは何かについて考えました。

広報がなぜ存在するのかといえば、企業のビジョンの実現、企業の目標達成に貢献するためです。
ビジョンの実現、目標達成にどのように貢献をするのかといえば、企業に関わる様々な人たちとのコミュニケーション活動を通して、企業の信頼性を高め、好きになってもらい、支えてくれる応援団を構築することによってです。

何かを作って販売している会社であればその製品を紹介して、モノではなくてサービスを提供している会社であればそのサービス自体を紹介して、お客さんに買ってもらおうとアピールすることは、いわるゆ商品広告ですが、製品やサービスではなくて、その会社の人となり(会社なので、会社となり)や性格、姿勢、倫理観、正義といったことを広告して、会社のイメージアップに努め、信頼性を高め、知名度を上げることを目的とする広告もあります。
そうした広告を企業広告といいます。

よく見かけるJTのテレビCMはイメージアップを目的にした企業広告です。

JTは日本たばこ産業株式会社です。
たばこは中毒性もありますし、喫煙する人の健康を害するだけでなく、周囲の人にも迷惑をかけます。
マナーの悪い喫煙者が投げ捨てる吸い殻ゴミが私の住む街の道路にもたくさん落ちていて、その原因を作っているのはもちろん、たばこです。

環境や社会にマイナスの影響を与えている企業が、そのマイナスイメージを払拭するために、環境や社会にプラスとなる取り組みを行うのがCSR活動やフィランソロピーです。

CSRとはCorporate Social Responsibilityの略で、企業の社会的責任と訳されます。

このように、業務外で良いことをすることでプラスマイナスゼロにするという考え方ではなくて、そもそもの会社の本業を見直して、社会や環境にダメージを与えないようにしようとパラダイムを変えた考え方が、ご存知SDGs推進の活動です。

しかし、今までなりふり構わず儲けてきた企業たちが、急にそのあり方を変え、社会へのマイナスの影響をなくす努力を行い、そしてそれを広告として社会に伝えたとしても、そう簡単には評判は良くなりません。
どこかウソくさくて、評判を上げるための活動だと見透かされるからです。

自分から言うのではなく、誰か第三者に、あの会社はよくやっている、努力していると認めてもらい、保証してもらう方法もあります。

ISO認証やフェアトレード認証、オーガニック認証、Bコーポレーション認証などの認証機関による認証はその一つです。

これは企業が経営戦略として行うことでもあり、一広報セクションが単独でできることではないかも知れません。

しかし、日本広報学会が定義したように、広報とは「経営機能」です。
正しいことが何なのか、社会に正しく貢献できることは何なのかを、広報セクションがリーダーシップを持って会社に働きかけることも、広報の重要な役割の一つであると考えます。


SDGs推進の広報活用について

企業広告は企業のイメージアップをはかるもので、信頼性を高め、ファンを増やすことを表向きでは目的にしていますが、とはいえ、最終的には売上の増加を目論む利己的な行為でもあるでしょう。

広報の目的は、先述したように企業のビジョンの実現、目標達成への貢献です。
だとすれば、売上を上げることのその先に、世界の平和や社会課題の解決をめざす企業のビジョンが存在するならどうでしょうか?

SDGs推進の姿勢を示すことで、社会に対して表面的に会社の倫理観をアピールすることはできますが、口先だけで中身が伴わないこともあるようです。

SDGs推進を広報の手段として活用することが悪いことだとは言いませんが、世間をごまかすためではなくて、自分たちの襟を正すために活用すべきだと私は思います。

会社のイメージアップのために良いことをしているふりをするのではなくて、真剣に地球や世界のことを考えて、社会課題の解決をめざすことが、結果的に会社のイメージアップにつながるということが理想だと思います。


イシュー(意見)広告、アドボカシー(主張)広告

企業広告にはイシュー広告やアドボカシー広告と呼ばれるものがあります。
一般的には、会社の論争となっているテーマを扱って、その会社の現状に疑問を抱いている人たちに対応するための方法と言われています。
1980年代の欧米では、ジャーナリズムの標的になった企業がメディアに対して反論するために、こうした意見広告をまさに戦いの相手である新聞などに出稿しました。

日本でも、視聴率や話題性のために、とてもジャーナリズムとは言えないような、下品な質の低いニュースを伝えるメディアが少ないとは言えません。
そうした心無いメディアの犠牲となり、業績を大きく落として危機に追い込まれてしまう企業もあります。

そうした意味では、メディアや世論に対して意見広告が必要となることもあると思います。

しかし、ここで重要となるのも、企業が正しい経営理念に基づいて、魅力的なビジョンを描けているかどうかということです。

正しいミッションと社会に貢献するビジョンが存在しなければ、意見広告は単なる言い訳に過ぎなくなり、世間からの評価や信頼は獲得できないないからです。


グローバル・コンパクトへの署名

何年か前、私は、現在勤務している学校法人が設置する大学の、学生募集に直接関わる仕事をしていました。

私はキャリアコンサルタントでもあるので、大学生の進路の相談に乗ることもありますし、高校生に対して、キャリアの視点での大学選びを提案したりしていました。

大学生や高校生に、何に興味があり、何が好きで、何が得意で、何ができて、どんな経験を持っているのか、といったことを棚卸ししてもらいながら、一緒に進路を考えていたのですが、あるときふと、「その考え方って全部自分ベクトルで利己的だよな」と思いました。

世の中がどういう方向に進んでいて、どんな課題を抱えているのか?
自分がやりたいことばかりではなくて、社会や世界のために自分にできることは何なのか?何をすべきなのか?何をしなくてはならないのか?という視点で進路選びをすべきなのではないかと思ったわけです。

そこで入試担当の同僚と、「社会に貢献する進路選択」をコンセプトとした大学紹介のミニパンフレットを作成し、高校をまわりました。
2016年頃のことだったと思います。

その後、好奇心旺盛な私は、とあるカードゲームの勉強会に興味を抱き参加しました。
それは、イマココラボという団体が主催する、「2030 SDGs」というカードゲームのイベントでした。

20名ほどの参加者のほとんどは企業に勤務されている方でしたが、私の他にも大学に勤務する先生らが何人か参加していました。
そのイベントこそが私とSDGsの初めての出会いでした。

SDGsを通して、地球の温暖化が進み、生態系が変化していること、海を汚染するマイクロプラスチックのこと、世界の人口の爆発的な増加と、貧困、飢餓、教育格差、紛争などなど、世界には解決すべき緊急課題が山積みにあり、そしてそれが決して他人事ではないことを知りました。

世界中の人たちが、みんなで、本気で取り組まなければならない問題であり、地球の環境はもう待ったなしのところまできていると危機感を感じました。

そしてこうした取り組みを進めていく上で、教育が果たすべき使命、学校が担うべき役割はとても大きいと思いました。

そして同時に、社会課題に真剣に向き合う学校としてブランディングをすることができるのではないかと考えたのです。

私のプランではありましたが、学長補佐や管理職の先生にオモテに立ってもらい、副学長、学長と根回しを行い、協力者を増やしていき、教授会、理事会の承認を得て、SDGsを推進する国連グローバル・コンパクト(UNGC)に署名をすることを決定してもらいました。

そして、その署名を大学としてではなく、学校法人全体としてできたことにも意味がありました。

署名を検討するに際してグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)に相談にいったときの話です。
当時GCNJの事務所は青山ではなく六本木にありました。

同じフロアに国際大学グローバル・コミュニケーション・センターがあり、そこに知り合いの先生がいたので、帰りに立ち寄らせていただきました。
SDGs推進を宣言するために、UNGCへの署名を考えていることを先生に伝えると、「聖学院は、ESDには申請しないの?」と質問されました。
当時の私はESDが何かを理解していなかったのですが、それはユネスコスクールのことでした。

学校法人としてUNGCに署名をしてCOE※を提出し、SDGsを積極的に推進する学校としてのアイデンティティを構築してきた結果、署名から5年後の2023年に、小学校と男女2つの中高一貫校、合計3つの学校がユネスコスクールキャンディデートとして承認されました。

※ COE=Communication on Engagement
UNGCに署名をする場合、企業はCOP(Communication on Progress)、非営利組織はCOEの提出が必須となっています


SDGsフォトコンテストの実施とエコプロ出展

聖学院がUNGCに署名をしGCNJに加入したのは2018年4月でした。

SDGsが提唱されたのは2015年でしたが、まだまだ2018年は日本でのSDGsの認知度は高くありませんでした。

私たちの学校でもSDGsを理解している教職員は多くはなく、会議やミーティングの場でUNGCへの署名の報告をすると、「署名をすると、どんなメリットが学校にあるのですか?」という質問がされたり、中には「国連の方針に合わせる必要はない」とSDGsに否定的な教員もいる状況がありました。

私としては本気でSDGsを推進する必要があると思っていて、世界の未来は教育にかかっていると考えていたので、学校の広報目的だけで署名を提案したわけではないのですが、SDGsによって学校を変えることも、それによってブランディングすることもできるという自信はありました。

2018年度、2019年度は、各校のそれぞれの授業や教育活動が、SDGのどのゴールと結びつくのかを紐付けしたり、特別理事会の場でSDGsとは何かをプレゼンテーションするなど、主に認知を高める活動に従事しました。
懇意にしている高校に呼ばれてSDGsの講義をすることもありました。

そして2020年度に広報発信でアクションを起こしたいと考えて、SDGsフォト&ムービーコンテストの開催を企画しました。

学校内部においてSDGsの認知度を高めることを目的にしたので、幼稚園、小学校、男女中高、大学、大学院の在校生はもちろん、在校生の保護者、卒業生、そして教職員が応募できるコンテストとしました。

第1回コンテスト(2020年)の応募者数は22名で、62作品が集まりました。
以降、毎年コンテストを開催し、応募者数、作品数は順調に増えていきました。
そして昨年2023年の第4回コンテストでは、230名の応募者による240の作品を集めることができました。
多くの応募作品の中から最優秀賞を受賞したのは小学5年生の児童でした。

SDGsフォト&ムービーコンテストの優秀作品の発表の場として、東京ビッグサイトで12月に開催されている『エコプロ』への出展を検討していたのですが、2020年は残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響により、リアル開催が中止となり、急遽オンラインのみの開催となってしまいました。

しかし、2021年からはリアル開催が復活し、私たちも念願のブース出展を果たすことができました。
以降、2022年、2023年と継続して参加をしています。
昨年2023年は聖学院として3ブース出展し、SDGsフォト&ムービーコンテストの優秀作品の発表と、大学と中高でのSDGs活動の報告の他、大学生たちが来場者の小中学生を対象にしたワークショップを実施するなど、広報目的を超えたところで、SDGs推進をリードする学校をめざす姿を見せることができたと思っています。


エコプロ出展については、以前こちらに詳しく書きましたのでどうぞご覧ください


私たちの広報の本当の意味

グローバル・コンパクト署名、SDGsフォト&ムービーコンテスト開催、エコプロ出展を通して私たちが行ってきたのは、生徒、学生、そして教職員に自分たちの学校の良さを自覚してもらい、誇りを持ってもらい、モチベーションにつなげてもらうということです。

それぞれのコンテンツで参加生徒たちへの教育効果が期待できますし、環境問題などの社会課題に取り組むリーダーとなる学校をめざすことで、他の学校を刺激して活動を促進し、仲間づくりにも貢献します。
SDGsがめざすゴールは1つの学校で立ち向かえることではなく、世界中のたくさんの学校、教育が力を合わせて解決すべきことなのです。
生き残りをかけた学校間同士での競争に注力していては、仮に自分たちの学校が生き残れたとしても、その間に世界が滅んでしまうかも知れません。

正しくてパワフルな学校の意思や意見を社会に発信していくことは、学生募集広報以上に大切なことだと私は思っています。
世界に必要な学校と認められたならば、きっとその学校はどこまでも存続していくことができるでしょう。

企業に置き換えてもそれは同じだと思います。
商品の売上を上げ、会社の業績を高めることはもちろん大切なことかも知れませんが、それ以上に大切なのは、社会に必要な会社になることです。
そして、会社の思いやビジョンを社会に宣言して、仲間を募り、世界を変える力となることが何よりも大切なのではないでしょうか。

会社がそうしたアクションを起こすことは、広報の権限だけでできることではないかも知れません。
しかし、広報から経営層に働きかけることはできると思います。
そしてそれこそが、広報が発揮すべきリーダーシップなのだと私は思います。


以上で今日の授業はおしまいです。
あえて、企業広告や意見広告の言葉の定義や理論には触れませんでしたが、自分たちの業績アップだけを目的にした広告ではなくて、社会のために貢献できる広報のあり方というものを少しでも理解してもらえたら良かったと思います。

次回は、プレスリリースの趣旨と書き方を学び、そして実際にみなさんにプレスリリースを作成してもらおうと思います。
次回もどうぞお楽しみにしてください。

参考文献:公益社団法人 日本パプリックリレーションズ協会 編「【改訂版】広報・PR概論」( 同友館, 2010)、ポール・A・アージェンティ「アージェンティのコーポレート・コミュニケーション」(東急エージェンシー, 2019)

【講師紹介】

NORIYUKI HAGINO 萩野 紀之/学校法人 広報職員/准認定ファンドレイザー(JFRA)/キャリアコンサルタント(国家資格)/MBA(立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修了)/履修証明プログラム 産学連携教育イノベーター育成プログラム リーダーシップ開発力育成コース修了

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