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マネジメントに必要なものって何?|33冊目『新版 マネジメントの基本』

手塚貞治 編著 
浅川秀之・安東守央・岡田匡史・吉田賢哉 著(2023, 日本実業出版社)


すべてを網羅している感がある1冊

編著者の手塚先生は、立教大学大学院ビジネススクール(RBS)の私の指導教員の一人です。(※RBSでは主担当と副担当の二人の教員に指導してもらえます。)

手塚先生にはRBSを修了した今でも論文の指導をしてもらっていて、共同で研究をしています。

今回読んだ本は、手塚先生が日本総研時代の同僚の皆さんと2012年に出版された本の新版で今年4月に発行されました。

手塚先生の本はいつも、基本的なことから新しい理論まで、ヌケ、モレがなくすべて網羅されているので、何かを調べたりするときにとても重宝します。
この本もマネジメントの基本から、パーパスや心理的安全性、SDGsといった比較的新しい概念や話題が、「チームリーダー」「ミドルマネジャー」「プロジェクトリーダー」「経営スタッフ」「経営者」のフェーズでまとめられていて、やはりすべてが網羅されている感のある本です。
タイトルに”この1冊ですべてわかる”とキャッチがついていますが、まさにその通りだと思いました。


リーダーのマネジメントとアドミニストレーターのマネジメント

今回も本の内容の要約ではなくて、本を読んで私の頭の中に思い浮かんだことを書いていきます。
そんなこと本に書いてないじゃん!ということもおそらく多いでしょうがご勘弁を。

私自身はマネジメントするのもマネジメントされるのもあまり好きではなく、組織向きの人間でないことを自覚しています。

というか、日記も継続して書けるし、学習習慣もあり、自分のことを自分でマネジメントできる人なので、自由にやらせてほしいタイプなのです。

そもそも組織とは、一人ではできないこと、できたとしても簡単ではないことを、作業を分割して複数の人が協力して行うことで、その目的を実現できるようにしています。

2人またはそれ以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系(システム)

バーナード, 1938

しかし、分業しただけで何もかもがうまくいくわけではありません。

組織の活力(vitality)は、協働システムの中で諸力(forces)を提供しようとする個人の意欲次第で決まるとバーナードは言っています。
※参考文献:瀬戸正則,「戦略的経営理念論」2017, 中央経済社

マネジメントというと”管理”という印象が強いですが(それで自分は好きではないのですが)、組織成員の行動を管理、コントロールするアドミニストレーションと、組織成員の意欲、モチベーションを鼓舞し、その力を組織の推進力とするリーダーシップという2つの側面があります。

「チームリーダー」「ミドルマネジャー」「プロジェクトリーダー」「経営スタッフ」「経営者」という括りは、キャリアパスの段階やステージではなくて、どのレベルの組織をマネジメントするかという括りではあるのですが、チームからはじまって、事業、プロジェクト、会社全体と、徐々に視座があがっていきます。

自分がどのレベルでマネジメントに興味があるのかによって、どの章が刺さるかが変わると思います。

リスクを抑えるマネジメントか、チャンスを広げるマネジメントか

組織では、効率的、合理的に運用することでコストを抑えることができます。
業務の手順を平準化してマニュアル化して、そこからはみ出さないように管理をしていけば無駄が省けます。
マネジメントのディフェンシブな部分です。

しかし、そうした管理も度が過ぎると、コストばかりか組織成員のモチベーションまで抑制してしまうことになります。

主体的に仕事に取り組み、新しいことや困難なことにチャレンジする動機づけ、すなわちオフェンシブなマネジメントも必要で、それを組織で促進するにはアドミニストレーターではなくてリーダーである必要があると思います。

手塚先生の本が、リーダーシップやコミュニケーション、ビジョン、パーパス、信頼関係について多くのページを割いていることからも、マネジメントとは単純な枠組みや仕組ではなくて、組織成員や顧客をはじめ、人にフォーカスをする必要がある有機的な関わりなんだなと思います。

アドミニストレーションはAIに任せることができるかも知れませんが、リーダーは人間の仕事であるべきですね。

ノートンとキャプランのバランスト・スコアカード

ここからまた少し本の内容に戻ります。

事業の推進を導く「会社のマネジメント」は経営層と経営スタッフが担います。

第4章は「経営スタッフのマネジメント」です。

マネジメントには①コーポレート機能 ②事業管理機能 ③高度専門機能 ④インキュベーション機能 ⑤ルーティンサービス機能 ⑥バックオフィス機能の6つの機能がありますが、狭義のマネジメント機能とされる①コーポレート機能と②事業管理機能が最重要機能と位置付けられています。

コーポレート機能は、さらに具体的には、①戦略策定機能 ②監視統制機能 ③ガバナンス機能 ④社会的責任遂行機能から構成されています。

事業管理機能は、策定された計画や戦略の進捗管理機能です。
進捗管理にはKPI(Key Performance Indicator)と呼ばれる定量的な指標が必要となります。

KPIのツールの一例としてバランスト・スコアカード(以下、BSC)が紹介されています。

BSCは4つの視点で指標が作られることが特徴で、4つの視点とは以下になります。

①財務の視点(財務諸表などから計算されるパフォーマンス)
②顧客の視点(顧客獲得に対する切り口)
③プロセスの視点(自社業務に関する切り口)
④学習と成長の視点(人材や技術など経営資源の向上に関する切り口)

BSCで用いられる視点

↑ここまでが本に書かれていることで、↓ここから先はまた私の連想です。

BSCを導入して、うまくいっている企業はもちろんあると思いますが、うまくいかないケースも結構耳にします。

今の職場に勤める前に、私もオリジナル解釈の”なんちゃってBSC”で、会社の管理の仕組みを作ろうと思いましたが、やっぱりうまくいきませんでした。

企業は人が大事なので、人に着目した「学習と成長の視点」があるのはとても良いと思ういます。
しかし、それを指標にして人事の仕組みに結びつけることは必ずしも良いとは言えません。
当時はそれを理解できませんでした。

学習は主体的である方が楽しいですし、楽しい方が成長につながります。
ところが、学習履歴をチェックしたり、成長を測定する試験などを行って、その結果を人事考課に接続してしまうと、学習のモチベーションを外発的にしてしまいます。

「仕事だから学びたくないけど学習する」
「評価につながることだけ選んで学習する」
もっといえば「評価されるように学習しているふりをする」なんてことになるでしょう。
これでは成長は期待できないですし、パフォーマンスは上がりません。

BSCの設計はそんなに簡単なものではありませんし、人事制度は従業員の納得感が必要なので、プロを入れてもうまくいかないことがあるわけですから、オリジナル解釈の”なんちゃってBSC”ではうまくいかなくて当然ですね。

そう考えると、BSCにアドミニストレーション機能を担わせるだけではなくて、ビジョンや理念を内外に伝える、BSCを通したリーダーシップ機能にも着目すべきなのだと思います。

制度や仕組み、特に人事制度は経営層と従業員とのコミュニケーションツールでもあり、人事制度を通して、従業員は自分たちが会社から大切にされているのか蔑ろにされているのかを敏感に感じるものだと思っています。
当然、モチベーションに影響します。


アドミニストレーション機能とリーダーシップ機能の分割もあり?

管理職という言葉には、文字通り管理をする職種という意味がありますが、それに加えて企業の中でのポジションをも示しているのが現状です。

アドミニステレーションとリーダーシップはどちらもマネジメントに必要な能力ですが、同義ではありません。

フラットな組織、有機的な組織を私は理想としていて、そうした組織の研究をずっとしてきていますが、有機的ということと無秩序も違います。
たとえ優れたティール組織であっても、基準やルールはやはり必要だと思います。
でもヒエラルキーは不要かも知れません。
意見を言える人が限られてしまい、仕事が対話的でなくなり、クリエイティブさが失われていく可能性があるからです。

最近はあんまり時代劇を見る機会がなくなっちゃいましたが、老舗の問屋さんとかの設定では、若旦那(リーダー)と番頭さん(アドミニストレーター)が登場してきて、管理と職位が分離した望ましいビジネスだったような気がします。
若旦那がリーダーシップがない設定も多いかな?😅

ブラピとジョージ・クルーニー(に見えるかな?😅)

参考書籍
瀬戸正則, 2017『戦略的経営理念論』中央経済社
ロバート・S・キャプラン, デビッド・P・ノートン , 2001『戦略バランスト・スコアカード』東洋経済

最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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