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第5回「カルビーのこれまでとこれからのストーリーを語っていく場」【講演】ゲスト講師:THE CALBEE編集部

広報リーダーシップ学の授業は、講義と演習とゲスト講師の講演で構成しています。

第4回目はステークホルダーとのコミュニケーションとして " オウンドメディア " について触れましたが、今回は、実際にnoteを活用したオウンドメディアを展開し、数多くのメディアに取り上げられ話題の「THE CALBEE」の編集部、櫛引 亮(くしびき りょう)さん、深谷 真理奈(ふかや まりな)さん、瀧澤 彩(たきざわ あや)さんの3名をゲスト講師に招いて授業を行ないます。



講師:瀧澤 彩さん(左)、櫛引 亮さん(中央)、深谷 真理奈さん(右)


カルビーの広報体制とTHE CALBEE編集部


櫛引:
今日は私たちTHE CALBEE編集部が、どのようなコンセプトでnoteの広報コンテンツを運用しているのか、具体的な事例をお話しして、そこから生じているリーダーシップがどのようなものなのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

まず最初に、カルビー株式会社の広報の体制と、カルビーの企業理念、グループビジョン、そして広報のミッションとnote運用におけるコンセプトやタグラインの関係についてお話ししましょう。

今年、組織編成が変わったばかりですが、現在のカルビーの広報体制は、まず「コーポレートコミュニケーション本部」があり、その下位組織として「グループ広報部」があります。
そしてグループ広報部には以下の5つの部署があります。

トップのメッセージを発信し、採用やサステナビリティといった経営、事業、戦略などに関わる広報を行う「経営広報課」、商品広報を中心に、公式SNSの運用なども行なっている「社外広報課」、社内報の発行などインナーコミュニケーションを中心に担う「グループ広報課」、そしてカルビーの重要なステークホルダーであるお客様との窓口となる「お客様相談課」、そして「社会貢献委員会」の5つです。

THE CALBEE編集部(以下、編集部)はグループ広報部を横断する組織で、メンバーはそれぞれいずれかの課に所属しながら、編集部にも所属するという組織形態になっています。

編集部スタッフは経営広報課と社外広報課の所属者を中心に、現在10名のメンバーで構成されています。

10名のメンバーの中に、デスクが2名おり、そのうちの一人はコーポレートコミュニケーション本部長兼グループ広報部長です。
そのため、異なる2部署に同時に所属する横断的な部署ではありますが、指示系統の混乱のようなことはありません。

広報の体制を説明する櫛引さん


カルビーのビジョン、広報のミッション、noteのコンセプト


櫛引:
カルビーの企業理念は、「私たちは、自然の恵みを大切に活かし、おいしさと楽しさを創造して、人々の健やかなくらしに貢献します。」です。

そして「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる」というグループビジョンを掲げています。

そのビジョンを広報の業務に落とし込む形で「多様なステークホルダーと双方向コミュニケーションにより、望ましい関係を構築・維持、経営をサポートする」というミッションをグループ広報部は定義しています。

「THE CALBEE」は2021年3月にスタートして今年4年目の運用となっています。
「カルビーのこれまでとこれからのストーリーを語っていく場」をタグラインとして、カルビーの伝えきれていない価値を、さまざまな企画記事を通して語っていくことをコンセプトにしています。

昨年(2023年)、カルビーは、2030ビジョン「NEXT Calbee & Beyond」を発表しました。
そしてそこでは、「海外市場と新たな食領域を、成長の軸として確立する」ということを宣言しています。

これまでのカルビーといえば、お客様からは、 ”フレンドリー" なイメージで認識されています。
それは悪いことではなくて、むしろとても大切で、ありがたいことです。
しかし、そのイメージを保ちつつも、2030ビジョンにある海外や新規事業を見据えた変革に貢献すべく、"アウトスタンディング" や "イノベーティブ" といった、挑戦的なカルビーの一面も示していかなくてはならないと思っています。


THE CALBEEの具体的なコンテンツ


瀧澤:私からはTHE CALBEEとしてnoteで展開している具体的な記事のカテゴリーについてお話させていただきます。

1つは〈商品秘話〉です。
カルビーには数多くのヒット商品、ロングセラー商品がありますが、その開発の経緯は一般のお客様にはほとんど知られていません。
一つひとつの商品に開発者たちの想いや苦労が存在し、そのストーリーを知ってもらうことで、お客様に共感していただき、商品により愛着を持ってもらいたいと考えました。

2つめは〈職人魂ーTHE CALBEE〉です。
社内でアンケートを取ると、現場の従業員にスポットライトを当てて欲しいという意見がとても多くあります。
〈職人魂〉は工場などの現場で働いている方を取り上げているため、反響が非常に大きいコンテンツです。
工場で勤務されている従業員は控えめな方が多く、たいへん勤勉でありながら、カルビーらしいこだわりと熱い情熱を持っています。
それを文章にするとお客様に共感していただけるので、社外での評判も高いです。

3つめは〈NEXT is NOW〉ですが、こちらは採用活動をコンセプトとしたコンテンツで、若手の社員にフォーカスを当てたインタビュー記事を掲載しています。

4つめは〈特別対談〉でカルビーのトップ(代表取締役社長兼CEO)と他社企業のトップの方との対談記事を掲載しています。

そして5つめは〈対談〉で、こちらはカルビーグループ社員と、社外の組織の方との対談記事を掲載しています。
大学の研究者や、同業他社の方との対談もあります。

どちらの対談記事も社外とのコミュニケーション企画です。
B to B企業の方との対談記事を掲載すると、B to Cの普段のアプローチとは異なる読者層にもお届けすることができます。

6つめは、〈Calbee Lovers〉です。
カルビーやカルビー商品に愛着を持ってくれているファンの方のインタビュー記事を掲載したり、ご自身のnoteでカルビー商品への想いを綴ってくれているお客様の記事を検索で見つけてマガジンに集めています。

他にもいくつかのシリーズがあり、現在、THE CALBEEには10個のマガジンがあります。

THE CALBEEのカテゴリーを説明する瀧澤さん


私たちの印象に残っている記事


瀧澤:noteの記事は基本的には企画案、インタビュー、撮影、記事作成、公開までを一貫して一人の担当者が行います。
トップ対談などで、プロのライターやカメラマンを入れる一部の場合をのぞいては、ほとんどの記事が編集部メンバーの手によって作成されています。

担当した記事から一つ記事を紹介するならば、私は、〈商品秘話〉の「「じゃがりこ」開発者が語る始まりの物語」を紹介したいと思います。
じゃがりこは1995年に販売開始され、私とほぼ同い年なので特別な親近感があります。
じゃがりこのようなロングセラー商品の、開発当時のことを直接に開発担当者に聞けたことはとても良い体験でした。
開発を担当された山崎さんは、すでに定年退職されているのですが、取材のためにカルビー本社に来ていただいてお話をお聞きしました。
じゃがりこの開発がスタートしたのは1992年で、世間的には女子高生ブームだったそうです。
そこで女子高生をターゲットにした商品を作ろうということで商品開発がされたのだと言います。
当時の実際のコンセプトシートも持参してもらい、それは記事にも掲載しています。

櫛引:担当した記事は、もちろんどの記事にも愛着があるのですが、一つピックアップするとすれば、私は〈商品秘話〉の「生みの親が語る「ピザポテト」誕生までの道のり」をご紹介したいと思います。
以前、私がピザポテトの商品広報を担当したときに、ピザポテトは、開発当初は人力でチーズを振りまいていたという噂があり、そんなわけはないと思いながらも気になっていました。
〈商品秘話〉の企画を機会に開発者に真相をうかがったところ、手で撒いてはいませんでしたが、実は機械でチーズをうまくかけることができず、キッチン用のスコップを使って、手作業でチーズをふりかける作業を1日に7〜8時間延々とやっていたのだそうです。
この記事は、開発者の経歴がフォーカスされて、SNSで話題にもなりました。
noteの活用価値を体感できた記事だったと思います。

深谷:私は〈職人魂ーTHE CALBEE〉の「ポテトチップスのすべてを知り尽くした匠の“職人魂”」を紹介いたします。
これは湖南工場で30年勤務されている江口さんという方の物語で、ポテトチップスがいつも同じ味、同じ品質、同じおいしさであるために日夜研究を重ね、師匠に学び、全国の工場で修行をしてきた半生が綴られています。
この記事はカルビーの知られざる内側を伝えるというTHE CALBEEのコンセプトをまさに示すことができた記事であり、社内からも社外からもとても反響の大きかった記事でした。


オウンドメディア運用によって得られる効果


櫛引:THE CALBEEの企画が検討されたときに、" アウトスタンディング "や " イノベーティブ " というイメージを新たに定着させるには、新商品情報やキャンペーン紹介とは違った情報発信が必要だと思っていました。
そして、カルビーの従業員たちのこだわりや、商品開発の裏側、ストーリーを伝える必要があると考えました。

それならば、オウンドメディアが相応しいだろうという発想に至りました。
当初はオリジナルのオウンドメディアを一から制作するという案もありましたが、どのくらいの分量の記事をコンスタントに発信していけるのか、どのくらいの工数やコストがかかるのかなど、予測ができないことも多くあったので、手軽にスモールスタートできるnoteを利用する案が採用されました。

また、私たちはカルビーのストーリーをしっかりと伝えたいと思っていましたので、長文を読み慣れている読者を抱えるnoteの特性とコンセプトが一致するとも考えました。
しかもnoteの読者には30代、40代のビジネスパーソンが多いと聞きますので、アウトスタンディングやイノベーションのイメージを訴求するというテーマとマッチすると思ったのです。

深谷:THE CALBEEを運用してきて、その目的以外にもさまざまな副次的効果を感じています。

まず何より、「従業員によろこんでもらえている」ということがあります。
取材して記事になった本人はもちろん、その方が所属する部署の皆さんもよろこんでくれますし、ご家族の方にもよろこんでいただいています。
これはまさに、従業員とその家族から尊敬され、称賛され、愛されるという、グループビジョンを体現した活動と言えるでしょう。

また新卒や中途で入られた従業員が読む場合には、カルビーを理解するための有効な資料、ツールとなっています。
さらに広報の基準をクリアした記事の蓄積は、ブランドの資産とも言うことができて、新入社員でなくても大いに活用できる情報ツールとなります。

そして、THE CALBEEの記事からメディア取材につながるケースも少なくありません。

さらに、noteを使ったオウンドメディアの運用は、広報メンバーのスキル向上に大きく寄与しています。
3,000字、4,000字というボリュームの記事を、企画、取材、撮影、記事執筆、配信まですべての行程を自分の責任において行うという経験は、広報スキル全般の獲得に役立っていると思います。

多くの副次的効果がある、と深谷さん


THE CALBEEが発揮するリーダーシップ


櫛引:
THE CALBEEがどんなリーダーシップを発揮しているかといえば、一つは新卒採用やキャリア形成に関してのモチベーションを与えているということがあると思います。
アンケートを見ると、たとえば、採用やキャリアを取材する〈NEXT is NOW〉では、カルビーでのキャリアパスの一例や、人物をモデルとするビジョンが示されていて、それが従業員のモチベーションアップやロイヤリティに寄与しているという成果が表れていることがわかります。

深谷:「経営をサポートする」とグループ広報部のミッションに書かれているように、” 広報 "は企業の経営機能の一つであると認識しています。
ですから、経営と一体となって情報を発信していくことが肝心です。
カルビーは企業変革が必要であるという2030ビジョンを掲げているので、広報部門も経営とともに、企業変革を推進していく必要があります。
そして、企業変革の重要な鍵となるのは人です。
従業員一人ひとりが、それぞれの能力を最大限発揮しようというマインドを持つことが企業の成長につながり、そしてそれが社会へ還元されていくわけです。
ですから、THE CALBEEの記事やその他の広報活動を通して、従業員のマインドにアプローチして、モチベーションを高めることが、広報が発揮すべきリーダーシップではないかと思っています。


THE CALBEE編集部の今後の可能性


瀧澤:最後に私たちのこれからのことを一言ずつ語って、今日の授業を締め括りたいと思います。

私たち編集部のメンバーにとっては、書いた記事に対しての社内外からの反応が励みです。
noteで記事を公開すると、SNSでシェアをするのですが、例えば商品の記事であれば、「そんな苦労があったのですね」とか「よりおいしく感じられます」といったコメントをいただくとすごくうれしいですし、自分が発信したことによってお客様が、カルビーの商品やカルビーという会社を好きになっていただけるならば、こんなうれしいことはないと思っています。

それから、記事を書くときは私はすごく悩んで、時間がかかって、壁にぶつかったりするのですが、インタビューで従業員のお話を聞くと、その方の苦労や努力、人となりがわかって、その従業員によろこんでもらいたいとか、その想いを多くの人に伝えたいという気持ちになるので、そうしたことが記事を書き進める上でのモチベーションになっています。
こうした想いをこれからもずっと大事にしていきたいと思っています。

櫛引:編集部としては、まだまだやれることはたくさんあると思いますが、予算や工数の面で制限もあります。
しかし、ここは「 実験的なことがやれる場所 」です。
クオリティや成功の基準などのハードルを高くしないで、何はともかく、新しいことにチャレンジしてみることが大切だと思っています。

深谷:まだまだ掘り起こせていない宝の山が社内には眠っています。
それをいかに掘りだしていけるかということを考えています。
国内だけでなく、海外のグループ会社にまで目を向ければ、ネタは無限に拡がると思います。
今後も、読者の皆さんに喜んでいただける記事を編集部一同で発信していきますので、ぜひ楽しみにしていてください。

以上で今日の私たちの授業はおしまいです。
企業にとっての広報の重要性と、広報の仕事の楽しさを感じて、広報への関心が少しでも高まってもらえたならうれしいです。

また、どこかでお会いしましょう。

【講師紹介】
RYO KUSHIBIKI 櫛引 亮/「THE CALBEE」編集部員であり発起人/アカウントのディレクション、記事の執筆・編集、カメラマン、イベント企画など、「THE CALBEE」にまつわるすべての活動を担う/常に挑戦を続ける熱血漢/写真が趣味/プロ野球が好きなので、プロ野球チップスの秘話に感動

MARINA FUKAYA 深谷 真理奈/「THE CALBEE」編集部員/主に企業系の記事を担当し、“知られざるカルビー”を掘り下げます/私生活では育児に奮闘中/映画が好きで、学生時代は年間100本映画を観るというノルマを自分に課す

AYA TAKIZAWA 瀧澤 彩/「THE CALBEE」編集部員/定期的に行う編集会議のファシリテーターも務めている/可愛い笑顔の裏側に、誰よりも熱いハートを併せ持つ、元アスリート/マラソンや登山が趣味

さて、本日の授業は以上となります。
みなさん、お疲れ様でした。
いかがだったでしょうか?

次回は、企業広告やアドボカシー(政策提言)、意見発信についてみなさんと考えていきたいと思います。
どうぞお楽しみに。

撮影:Pman


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