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熱が出る

母が旅立つ一週間前
熱が出た
いわゆる腫瘍熱だろうと思われた

上がったり下がったりの温度差が激しい

本当はこころのどこかで分かっていた
母の命がもう余り長くないことを

息子にも言われた
それでも受け入れたくないわたし
こころは複雑で母を手放したくない想いでいっぱいに

あの世に還る
もうすぐ
肉体はボロボロだから
父もむかえに来ている

本当はもっともっと側にいたかった
でもそれは無理なこと

いつまでも父を待たせることは出来ない
せっかちな母も待てない

実を言うとその年の初め
母はあの世へ逝こうとしていた
その時は救急搬送先で若い男の看護師さんに呼び止められ戻ってきた
と本人は言っている

息子にもあの時は危なかったと言われた

おやさまに「お母さんは修行をしている」と語られ、ちゃんとこの世に戻ってきた
いつまでもいつまでもわたしと一緒にいて
そう願っていた

今でもかなしくて涙が出る

従姉たちも母のことは決して悪く言わない

時間ではない
何ヵ月、何年経とうとも
母が恋しい
時が経つほど
恋しい想いは強くなる

もっとちゃんとしておけば
もっとちゃんと見ておけば
もっとちゃんと母の言葉に耳を傾けておけば

そんな後悔がこころの中に残る

「それはね、後悔が残るのは当たり前。後悔の残らない人なんかいないから」
と言ってくれるやさしい友

そう言われても後悔は残る

「お母さんはいつもあなたの側にいる。だから大丈夫」
そうだと思う、母はいつもわたしの側にいる
「いつかお母さんのことが見えるようになるよ」
そんな不思議なことも言っていた

数日前から具合が悪くて
熱が出る
母の腫瘍熱を思い出す

あの時はわたしも一緒に測ってみると
母につられたように少し熱があった

母の熱とは比べものにならないけれど

置いて行かないで
置いて行かないで
わたしを置いて行かないで
一人ぼっちにしないで

でもそれは叶わぬ夢だった

母は振り向きもせず
おやさまにつかまって
あっけなく
あの世に還って行った

熱が出ると思い出す
身体がキツイのに生きようとしていた母のことを

よく頑張りました
よく努力しました
ありがとう

お母さん

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