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電車が止まる

今から三十五年前
こころ学びの場が川口から湯河原に移ることになった頃

わたしはまだ独り身で父と母と暮らしていた
朝早く横浜駅から東海道線に乗って湯河原に行く
当時はまだ信じる者も今より多くなく
近くにおやさまとお社さんの存在を感じられた
八の教えの日ではなくても湯河原に行くとおやさまにお会いできたこともある

今よりも良く電車も止まる
いつも根府川の鉄橋で風が強くて止まっていた

ある日、父の仕事が休みの日に父を置いて
湯河原に行こうと思い、家をでた
母とわたしは電車が止まっているとすぐに家に戻る
そうすると父に叱られた
「お前たちの信仰はそんなものか」
尻を叩かれ
「新幹線に乗って行け!」
と母とわたしは薄っぺらい信仰心を見抜かれる

新横浜から新幹線こだま号で二駅の熱海まで行く、二駅の短い旅はすぐに終わる
小田原から先の新幹線は東海道線と並走で
いつもの見慣れた風景
でもあっという間に熱海に着く

そこからはすでに東海道線が動いている、いま来た道を湯河原まで戻るだけ

東海道線でのんびりと行くのもいいが
あっと言う間についてしまう新幹線も楽でいいかも…
料金は異常にお高いが

母もわたしも時間はかかるがそれ以来新幹線に乗ることはない

それは小田原からの海沿いの東海道線の車窓が好きだから
風が強くても根府川の鉄橋を渡る景色が大好きで
根府川の駅から見えるキラキラひかる海をのんびりと見つめてる

その海を見ていると
神様に向かうこころはもっと真剣になれと、父の言いたかった言葉を思い出す

根府川の鉄橋の側をビューンと駆け抜ける新幹線を見つけるたびに…

その父も亡くなり、母も父の待つところへ旅立つ
今はわたしがひとりでやさしいやさしい根府川の海を見つめてる



#わたしの旅行記


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